「侵入者達」

低迷アクション

第1話

 友人の知り合いである“S”が幼少期の頃である。彼女の家は母子家庭で公営団地に住んでいた。母親は典型的なネグレクトで、小学生だった彼女は学校にも行けず、 1日1食か、何もなし…


学校が不審を抱き、児童相談所に通報した。その際に訪問した行政、福祉、児童相談員の中に当時、支援員だった“友人”がいた。母親には注意、指導が行われ、一時保護も考えられたが、虐待ではなく、育児放棄の場合は、確証が難しく、福祉側も決定打に欠ける。二の足を踏む事がほとんだ。


実際、それで何度も最悪のケースを迎えた話が、テレビやニュース報道で見かける事も少なくない。加えて、支援を求めなければいけないS自身も、唯一の肉親である母親と離れたくない気持ちから“何も問題がない”と答えてしまっていた。


訪問が終わる際、友人の頭には“児童虐待死、母親の育児放棄”と言うテロップがハッキリ浮かんだと言う。


だが、彼の予想に反して、事態は急変する。翌日からSは学校に来るようになった。体重は平均台の数値に戻り、衣服も洗濯がされている。母親が心を入れ替えた。

一時的なモノかもしれないが、珍しいケースだと関係者達は喜んだ…



 しかし、当のS自身は素直に喜ぶ事は出来なかった。友人や福祉の人間が帰った後、ふてくされた様子の母親は行き先も告げず、何処かへ出かけた。数時間後、帰ってきた時には様子が一変していた。


「姿、形はお母さんだったんです。でも、違う。絶対に!別にご飯を作ってくれたり、洗濯、学校に行かせてくれると言う事が変わったと言う訳ではありません。


それは、お父さんと別れる前は普通にしてくれてた事だったし…


決定的だったのは、表情です。人形なんです。瞬きしない、能面のような顔、会話も必要最低限の事しか話さないし…まぁ、これは、〇〇さん達(友人の名前)が来た時と似たようなモノでしたが…


絶対、何か変だと思っていました。でも、それ以外は、やっぱりお母さんだったから…そしたら…」


友人達が訪問してから1ヵ月が経った頃、学校から戻ると、母親が突然“外食”を提案した。


「いつも家でご飯ばかりじゃ飽きるでしょ?美味しいモノを食べに行こう」


棒読みかつ瞬きをしない母に、Sは首を横に振る。すると彼女は無言で、Sの体を

軽々と抱えあげる。


「正直、ビックリしました。私だけじゃなく、母も栄養失調状態で、私にご飯を作ってくれてた時期も、何も食べてなくて…それが私を持ちあげるなんて…」


驚きと恐怖で震える彼女を、そのまま玄関に運ぶ母親の前で、ドアが外側から開いた。


建っていたのは“友人”だった。彼が無言で首を横に振ると、母親はゆっくりSを下ろし、友人と共に外へ消えた。


それから数日後に衰弱しきった母親が団地の屋上、貯水タンク隣の整備小屋から見つかった。彼女は精神を病んでいて、そのまま措置入院となった。Sは児童施設に入所、現在は無事成人を迎え、社会生活を送っている。


この話の結末として、Sの家庭環境を憂えた友人がたまたま、現場に居合わせ、事なきを得たと言う形にしたいが、そうではない。


何故なら、あの日、友人はSの家に行っていないからだ。


「一体何件の児童虐待候補事例があると思ってる?現在進行形で増加の一途を辿るこの国の代表的病巣だぞ?そんな個別的にやってたら、こっちのプライベートが侵害されちまうよ。当時も今も働き方改革は遵守してる。まぁ、それが足を引っ張り、福祉はどんどん酷くなってる訳だが…」


彼の言い分が本当であるとするなら、あの日Sを救った者は何者だろう?この点に関して、体験者であるSは“恐らく違う”と話す。


「多分ですけど、〇〇さんに化けてたアレは、私を助けた訳じゃないと思います。こう考えるのはどうでしょう?母や○○さんに化けたアレは、社会に侵入しようとしている。ターゲットは問題のある家庭、ネグレクト、児童虐待、ひきこもり、家族の1人が問題になっている所の誰かになりすまし、


やがては全部なりかわる。だけど、進めすぎては問題になる。例えば、劇的に家庭状態が変化した私のケースの場合は“失敗”となる。


世間から注意を引く可能性、目立ったり、怪しまれる可能性がある。


まぁ、実際の所は、ただ“意外”と言うだけで、社会は見向きもしなかった訳ですけど、めんどくさいのが本音でしょうから(友人の方をジットリ見ながら)


だから、アレは撤収した。問題なのは、これから。彼等は困窮状況が劇的に変化を遂げても、何もレスポンス、反応しない社会を理解した。きっと、どんどん侵入してくる」


そこまで喋った彼女は、少し微笑み、友人とこちらを交互に見渡した後に口を開く。


「増えてるんでしょ?私の所みたいな“問題家庭”…」…(終)

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「侵入者達」 低迷アクション @0516001a

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