利口逝く前に
「さて次のお題っす!」
無数の剣が空に浮かぶ殺伐とした公園。
犬耳が生えた銀髪を持つ魔法少女が赤縁眼鏡をキラリと光らせながらフリップをめくる。
「少しエッチな教育番組どんな番組?」
水色をしたオーバーサイズのパーカーに黒いレギンスを着た、いかにも今時の少女。
そんな女子中学生の口から出たとは思えない文脈と共に秋の風が公園の木々を揺らす。
「…はい」
弱々しく手を上げたのは馬の下半身を持つ怪人。
「それじゃあ怪人の方、どうぞっす」
指名され緊張が増したのか顎からポタリと汗を滴らせながら解答する。
「歌のお姉さんがボンッ!キュッ!ボン!」
「ハハハwww……ふぅ、つまんねぇ。擬音で誤魔化そうという魂胆がスケスケっすね0点」
腹を抱えて笑ったかと思いきや両手を後頭部に回し空を見上げながらの採点。
年頃の少女から来る容赦ない塩対応にガクリと肩を落とす怪人。
そんな両者を置いて灰色の髪の少年が手を伸ばす。
「おっ、じゃあお兄ちゃ…じゃなかった。お兄さんどうぞっす」
年下の少女に下ネタを言う躊躇いを抱えつつ覚悟を決して解答する。
「聞いて驚け!見て笑え!スケベェ!気づけ!孕め!」
「勢いに頼りましたね?しかも少しじゃないし。まぁ努力は認めましょう5点っす」
「おい、この少年にだけ甘くないか?」
「いやお笑いって好みじゃないっすか?ジブンの裁量で決めて良いんすよ。文句あるならホームラン級のヤツ出してから言って欲しいっす」
これで5点かぁ…と肩を落とした少年。
項垂れる怪人と少年はふと思いを同じにする。
どうしてこうなったのか?と
☆ ☆ ☆
「神父、遊び人」
豪華な調度品で設えた一室。その中心に置かれた玉座に座るのは一人の怪人幹部。
肩まで伸びたプラチナブランドの髪に片眼鏡をした貴族風の美男子。
「どうか安らかに」
片手を胸に当て黙祷する姿は様になっており煌びやかな部屋と相まって一つの芸術品を彷彿とさせる。
そんな華美な空間を割くようにドアからノックが響いた。
「うむ!入りたまえ!!!」
先程の儚げな雰囲気と打って変わって目をかっ開き唾を飛ばしながら入室を促す。
「失礼します」
扉から現れたのは長い黒髪を持つ男性の上半身、馬の下半身を持つ怪人。
幹部の一室に入る四本足は床を傷つけないよう慎重かつ丁寧な素振りであり本人の性格が伺える。
「遠路はるばるご苦労!!!楽にしたまえ!!!」
「はっ!ありがとうございます」
返礼と同時に素早く前脚の片方を横に広げ両手を後ろに回す真面目な部下の振る舞いに、うむ!と満足そうに頷き玉座から立ち上がる。
「さて!!本題に入る前に先の件は聞いているな!!?」
「はい、真に信じられませんが神父様と遊び人様が死亡したと聞いております」
「そうだ!!遊び人はともかく神父がやられたのは信じられん!!だが事実として魔法少女は生き残り奴等は死んだ!そこで!!」
バッ!と音を立てながら片腕を広げる仰々しい上司の所作に見慣れたのか何一つ取り乱す事なく耳を傾ける。
「剣士とその他100名で二人の戦闘に関わっている
「剣士様が?しかし、あの方は…」
「そう!!右の頬に異形化が現れている!!寿命が少なくなっている証拠だ!!」
異形化、寿命と聞いた瞬間己の四本足がビクリと震える。
「だと言うのにあの鬼神の如き乙女に魔法は使わず己の武器のみで戦うらしい!!ははは!!」
「……では私はそこに加わり剣士様を守る捨て駒になれと?」
顔が晴れない部下に気がついたのか高笑いを止め再び玉座に座り話題を静かに続ける。
「いやそうでは無い。朱観絵瑠と闘うのは君では無く剣士を筆頭に他人の、ましてや自分の命にさえ関心を持たぬ修羅の集団だ。」
「……。」
「本題はここからだ。勇者から指令が来ている」
「ボスから?」
「うむ。戦力を強化せよとの事だ。そこで私は君の強化の為に私の魔法を与える事を提案したい」
「強化の為?貴方様、いえ"王"の魔法を私に?」
「どうした?棒切れと
「い、いいえ!」
驚嘆と困惑混じりの返答に冗談だと軽く笑い、話を戻す為すぐさま顔を引き締める。
「私の魂を与える事で私の魔法を使える事が出来る。しかし」
「しかし?」
「幹部級の魂が適合する確率は僅か5%。失敗すれば死ぬ」
「…5%」
「心配か?強者よ」
再び玉座から立ち上がり己の威信を見せつける様に全身から黄金の炎を沸き立たせる。
「数多の同胞達が完全に異形化し命を捨て!或いは魔法少女に殺されていく中!君だけが辛うじて人の形を取り!戦い!生き残ってくれた!!!」
その炎が雄々しい翼を生やしグリフォンの形へ変え頭上で舞い踊る。
無数とも言える黄金の羽根が部屋一帯に舞う中、片眼鏡の怪人は優雅な足取りで距離を詰め真っ直ぐな目を部下に向けた。
「そんな強者が不安を抱くのならば致し方ない!私も命を賭けよう!"
グリフォンの炎が頭に収縮し王冠へと姿を変える。
文字通り王の風格を身につけた片眼鏡の怪人は左の人差し指を上に向け魔法を発動させる。
「ルール発令!君が私の魂と適合しなかった場合、私は死刑となる!!」
「…ッ!お待ち下さい王よ!」
片眼鏡の怪人が発動させた魔法は己が
幹部に恥じない威厳溢れる風格に見惚れ停滞していた思考を覚まし魔法を止めようとするも虚しく、王の頭上に現れた一つの剣が彼に切先を向け浮遊する。
「案ずるな。君が確率に打ち勝てば良いのだ」
「しかし…」
「私が信じるんだ。君自信が信じなくてどうする」
強く威厳の有る上司が命を賭けてまで信じている。
なのに己が悩んでどうする。
そう自分を奮い立たせ、力強く握った拳を胸に当てる。
「ありがく拝命します」
「よしッ!よく言った!!」
片眼鏡の怪人は手の平から黄金色に燃える盛る白い球体を取り出し
「……マジで頼むぞ(小声)」
「え?」
半人半馬の胸に押し当てた。
☆ ☆ ☆
「いやぁぁ〜〜良かった良かった!!成功したな!!!」
「……。」
「ほらッッ!!私の言った通りになっただろう⁉︎」
「さっき…小声で何か言ってましたよね?」
「すまん正直に言おう。マジで怖かった」
ほら見て!と
「何で王の命まで賭けたんですか?王の魔法なら私に強制させる事だって出来たはず」
「それはならん。我儘を押し通すのだ。命を賭けなくてどうする」
嘘偽りが無い真っ直ぐな瞳。
やはり王と呼ばれているお方だ。筋を通す姿にはカリスマを感じさせる。漏らしてるけど。
「成功して良かったのだが。しかし…それ」
王の向けた視線の先、私の四本足となった後ろの方。
新たな悩みの種に思わず頭を抱える。
「まさか尻から翼が生えるとはな」
尻尾を挟む様に尻の双丘から一対の翼が生えたのだ。
もっとこう…生えるなら上半身の背中からとか、ペガサスみたいに下半身である馬の背中から生えて欲しかった。
「まぁ魔法少女の上質な肉体を食べれば異形化は治る。翼どころか君の下半身ごとな」
そう魔法少女の肉体を食べれば異形化は無くなり寿命が伸びる。
その為に魔法少女を捕らえ食べるか、もしくは子が出来る確率は低いが養殖用に苗床とするかのどっちかである。
まぁ例外として洗脳し手駒として扱うこともあるが。
「では今すぐに魔法少女を捕らえても?」
「いや君には私から得た魔法の練習がてら、この魔法少女を食べて来てもらいたい」
そう言って渡された一枚の写真。
そこに映されていたのは犬の様な耳を生やした銀髪のミディアムヘアーに赤い縁の眼鏡を掛けた10代の小娘。
「食べてもよろしいのですか?」
「うむ。苗床には頑丈な白海灰音、駒として武闘派の朱観絵瑠を。それが我ら幹部の出した答えだ。そこの少女はどうでも良い」
確かに理に適っている。
そう得心すれば、目的がすんなり頭に入る。
「では今すぐにでも行ってきます」
尻に違和感を感じながらも踵を返しドアノブに手を伸ばすと、待てと王から声を掛けられる。
「なんでしょうか?」
「君の下半身は馬だろう?軽車両扱いだ。歩道は歩けん。私が近くまでリアカーで連れてってやろう」
いや私達…怪人ですよね?
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