あの日見せた君の笑顔は
逃げていく金髪の後ろ姿を必死で追いかけるけど灰音ちゃんは止まらない。
「ごめんね!私が弱かったから、怪人に歯が立たなかったから!だけど次はちゃんと守るから!」
いつもなら振り向いて笑ってくれるのに。長くて綺麗な金髪は薄暗い廊下と同じくらい冷たくて怖かった
「チーム…辞めないで…三人…一緒に」
走り過ぎて呼吸が間に合わないけど私が引き止めないと
「私が…強く…なるから!」
ピタッと止まった灰音ちゃんが何も無い表情で私に振り返る。
「違うの
「さい…てい…じゃ…ないよ」
膝に手を置いて呼吸を整えながら否定した。灰音ちゃんは可愛くて優しいし物知りだし最低じゃない。それは充分知っているから
「絵瑠達が気を失った後、神父の怪人が私を連れ去ろうとした。その時思っちゃったの…"なんで私だけって"」
「⁉︎」
ウソ…
いや違う。今は戸惑っている場合じゃない
「"二人が身代わりになれば"って…失望したでしょ?」
「……ごめんね、守れなくて。」
深呼吸を一回。それからすぐに笑顔を作った。
「それは神父の怪人に勝てなかった私のせいだから。私のせいにして良いよ。それに私が不幸になっても灰音ちゃんを守るから。失望なんてしない絶対!気にしないで、どんな事があっても平気だって思える様に強くなるから!」
「ごめんなさい絵瑠。その優しさが怖いの」
☆ ☆ ☆
帰宅ラッシュで溢れる街中を一人の少女が歩く。
「どうしよう…どうやったら灰音ちゃんが戻って来てくれるかな」
彼女の名前は
「よろしくおねがいしまーす。ただいまバーゲンセールでーす」
「あっはい、どうも」
「あざーす。残りのティッシュは、えっと…お゛ぉ゛ん゛!ティッシュがいっぱいだお゛ぉ゛ん゛!」
「えっと、もう一つ良いですか…?」
「あざーす」
手渡されたのは家電量販店のバーゲンと書かれたティッシュ。受け取ったのは良いが、ノルマと思われるカゴに残るティッシュを見て叫び泣き出した灰色の少年を不憫に思い二つ受ける。
外見に劣らない性格を持つ彼女に程々に礼を言いケロっと仕事に戻った彼を見届け再び歩き出す。
「私も頑張らないと」
疲れ切った人々がちらほらと見かける中、ゾクリと背中をなぞる寒気を感じる。
(いくら何でも人が多いな)
ざわざわバーゲンでーすざわざわざわざわざわざわバーゲンでーすざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわノルマ終わりませーんざわざわざわざわざわざわバーゲンのダーテンでーすざわざわざわざわざわざわ要らない?テメー、動画の広告マッチングアプリしか流れない呪いにざわざわざわざわざわざわざわざわ
人混みのを掻き分けて行くが中々進まない。それに反する様に月を浮かべ始めた夜が夕焼けを侵食する。
「きゃっ!」
ふと後ろからの衝撃にぶつかり尻もちをつく。その瞬間歩いていた人々がピタリと動きを止め無表情で見つめて来た。
「えっ?な、何ですか?」
不気味な雰囲気の中、ぶつかった張本人が振り返り手を差し伸べる。
「大丈夫?」
手を差し伸べて来たのはベージュ色が目立つシャツとズボンの男。オレンジ色の髪の下は凄く整った顔立ち
「あ、ありがとうございます」
「いーよ全然。お礼に一つだけ教えてくれない?」
手を取り立ち上がる。だが強く握られた手は中々離れない
「あのインチキ神父を倒したのは君?絵瑠ちゃん」
嬲る様に見つめてくる細長く伸びた瞳孔。
初対面にも関わらず名前を知る不審な人物、周りを囲み未だに見つめてくる群集に異常を察した彼女は握られた手を引き離し、その手を上へかざす。
「"魔力解放"ッ」
彼女の上空に現れた天使の形をした赤い光。
「"魔力武装"」
その光は天使から一つの剣へ姿を変え彼女の手に収まる。
「誰ですか?あなた」
「絵瑠ちゃん達が戦ってる怪人ってヤツ?その幹部だよ」
敵。そう判断し剣を振りかざす。
「おっと!」
怪人がその剣を一歩後ろへ下がり難なく交わすが彼女の技量は生半可では無い。
剣を振り切った体勢から一呼吸し剣先を怪人へ向ける。
「流石あの三人組で一番強いだけあるね。学校の制服のまま戦おうとするなんて。ん?」
己へと向けられた彼女の剣が血で濡れている。
そう気づいた瞬間、己の体中から血が吹き出し両膝を地面に着ける。
「これで終わりです!」
息をつく間もくれず間合いを詰め両手で握られた剣を上段から振り下ろす。
「はいストップ」
怪人の体から溢れ出したオレンジ色の炎がカラスの形を成し、剣の前へ阻む。
「オレあの神父より弱いんだから勘弁して」
「なぜ灰音ちゃんを連れ去ろうしたんですか⁉︎」
「いや、それはアイツの趣味ね。オレとしては絵瑠ちゃんの顔が好みだから絵瑠ちゃんを連れて来て欲しかったけど」
カラスが霧散した衝撃で剣は押し返された。
「まぁ落ち着いて。ほら周り見てみ」
ふと見渡すとナイフを首元に添える群衆達。
「あの人達に何を⁉︎」
「オレの傀儡にしたんだ。とりま武器下ろそうか絵瑠ちゃん」
剣を地面に突き刺した彼女に満足し再び立ち上がる。そして人差し指を彼女の額に突き立てる。
「この場にいる人間全員殺せ」
指先から流し込まれた魔力が脳へと流れ込み全身を駆け巡り。
「い、嫌だ」
突き刺さった剣へ手を伸ばすが、その手は震えながら止まる。
「う〜んダメか。じゃあ心から壊すか」
再び怪人の体からオレンジ色の炎が溢れ出す。その炎は先ほどとは違い双頭の巨大なカラスを模している。
その炎が彼女の首元に収縮し首輪へと姿を変える。
「"
彼女の瞳は徐々に虹彩を失い、虚空を見つめていた。
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