新未来戦線 シャドーウォー

山口遊子

第1話 未来改変


 22世紀初頭、人類はついに核融合発電に成功。

 核融合発電によりエネルギーコストが従来の10分の1以下に下がった。

 これにより有効資源の回収コストも一気に下がり、人類の需要を満たすことは容易になった。

 エネルギーコストの低下は全産業に波及し、第2次人口爆発が起こった。

 22世紀後半には地球の人口は150億を超えた。


 人類は第4の火、核融合により無限のエネルギーを手に入れたわけだが、それは核融合で発生する熱を電気に変える旧態依然としたシステムだった。

 とはいえ、太陽の活動が停滞気に入り地球の寒冷化が進む中、そのことは大きな問題ではなかった。


 そのこともあり、核融合よる直接発電の実用化は遅れたが、22世紀の終盤ついに核融合プラズマによる直接発電が実用化された。

 これにより人類は本当の意味で無限のエネルギーを手に入れ、さらなる飛躍を遂げた。


 23世紀初頭。

 地球の人口は250億を超えた。

 無限のエネルギーによりあらゆるものが合成される世界。

 ブドウ糖、アミノ酸、より高度なでんぷん、タンパク質。なんでもだ。

 そして、核酸の無機合成を経てついにヒトのゲノムまでも合成されるに及んだ。

 合成されたゲノムは染色体として疑似受精卵に埋め込まれ、疑似受精卵が人工受精卵となった。

 人工受精卵は人工胎盤の中で成長し、ついに人として誕生した。

 文字通り人造人間の誕生である。


 こうして生れた人造人間は、製作者の意図通りあらゆる疾病に耐性を持ち、一般の人類に比べ圧倒的な身体能力、知的能力を備えていた。

 そしてなにより長命だった。


 24世紀初頭。

 行政、科学、芸術、娯楽、その他あらゆる社会分野の中枢は彼ら人造人間、新人類が占めた。

 国家の枠組みすらも各国の中枢を占めた彼らによって取り払われた。

 もちろん旧来の人類、旧人類が新人類に排斥されたわけではない。

 単純に能力の差が歴然としているのだ。

 結果的に旧人類は彼ら新人類に管理されることで平和にそして豊かに暮らしていた。



 直径20キロ、高さ1キロに及ぶ巨大な円形の壁に覆われたメガロシティー・トウキョウ。

 その壁には管の直径10メートルに及ぶドーナツ型の核融合発電装置が何重にも取り巻いている。

 このドーナツこそは、核融合直接発電装置だ。

 メガロシティー・トウキョウを囲む壁に現在10基の装置が稼働中で、1基の装置がメンテナンス中、さらに1基の装置が建設中だった。

 

 壁の内部には超高層ビルが林立し地下は何層にもわたって開発されていた。


 地上にはユートピアという名にふさわしい社会が実現していたわけだが、そういった社会に疑問を持つ者が旧人類の中に現れた。

 そして彼らの中に一人の天才が生まれる。


 西暦2345年。

 トウキョウの公式最下層L-6。

 各層の地表面と天井との間隔は30メートルほどある。

 天井には照明が並び閉ざされた空間にもかかわらずかなり明るい。


 その一画に現在は使用されていないとされる倉庫があった。

 だだっ広い倉庫の真ん中に、デタラメにそこらの機械を組み合わせたようないびつな機械がパイロットランプのようなものを明滅させながら鎮座していた。

 その機械から倉庫の床に続く太いケーブルが何本も伸びていた。


 機械の前にはコンソールのようなものが置いてあり、その前に白衣を着た50がらみの男が立っていた。

 そして、危険作業用の白色のアーマードスーツを装着した17、8歳の娘が機械のすぐそばに立っていた。

 そのアーマードスーツが普通のアーマードスーツと異なるところはヘルメットの形状で側頭部部分が大きく膨らんでいる。


 娘の立っている場所は倉庫の床の上に置かれた高さ30センチ、直径1メートルほどの円形のステージで、ステージにはいびつな機械から伸びたケーブルが何本もつながっていた。


「エリカ、本当にいいんだな?」

「うん。大丈夫」

「わかった。

 計画が成功すれば、この世界は大きく変わっている。

 もう会うこともないだろう。

 ミッションの成功を祈る。

 さらばだ、エリカ」

御手洗みたらい博士、さようなら」


 男が計器を見ながらコンソールを操作した。

 そしてエリカという名の娘が立つ円盤が白光を発し始めた。

 白光は徐々に強くなり辺りが白光に包まれた。


 白光が消えた後には娘の姿はなくオゾンの臭いだけが残っていた。

 男が見守る中、円盤が再度白光を発し始めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 わたしの名まえは、エリカ・タウンゼント・東郷。


 24世紀の地球から21世紀の地球に時を越えてやってきた。

 この時代の時刻用電波を拾ったところ、2035年10月31日、午後8時55分40秒だった。

 時空転送の目標日時は2035年11月1日、水曜日の午前0時ちょうど。

 御手洗みたらい博士によると時間移動100年あたり誤差は1日というところだったのでそれなりの誤差が起こりえたが、3時間の誤差で到着できたことになる。

 

 わたしには確かめるすべはないが、わたしがこうして21世紀の地球に転移したことで、わたしの主観的24世紀の地球は不安定化している。

 不安定化した未来はわたしの行動いかんで大きく変化する。



 わたしが21世紀にやってきた目的は、21世紀最大の発明、現代化学の金字塔とも言うべき空気とエネルギーだけでアミノ酸合成を成し遂げた科学者を抹殺し、アミノ酸合成から続くDNA合成、ゲノム合成、そして人造人間製造への研究開発の道を閉ざすことだ。


 抹殺対象の科学者の名まえは長谷川一郎。

 この時点においてターゲットは、とある研究所の研究員を務めているはずだ。

 このミッションに成功すれば未来は大きく変わる。

 御手洗博士はそのことを口にしなかったが、ミッションが成功すれば24世紀の人間であるわたし自身の存在もあいまいになりおそらく消滅するだろう。

 だが、わたしの存在一つで人類の未来が良い方向に正されるならそれで十分だ。



 ターゲットはわたしの時代では21世紀の地球でもっとも重要な人物なので、あらゆる情報が簡単に手に入る。

 この時点でのターゲットの勤務先などの情報はもちろん押さえているので接触は容易だ。


 わたしの装備しているアーマードスーツは、本来危険作業用のアーマードスーツで人に対していかなる攻撃もできないようリミッターが取り付けられている。

 それではミッションの遂行は不可能なのでこのアーマードスーツは御手洗博士によって改造され戦闘も可能になっている。


 ただ、殺傷能力のある武器は24世紀わたしの世界では製造されていなかったため調達できなかった。

 武器の代用としてアーマードスーツの能力を生かした物理攻撃。

 どのアーマードスーツも同じだが、アーマードスーツは装着者の身体能力、運動神経に完全に追従できるよう作られている。

 力が強い者が使えばより力が発揮できるし、素早いものが扱えばより素早い動きが可能となる。

 そのためわたしはアーマードスーツの力を発揮できるようこの半年間体を鍛えている。

 とはいっても、人造人間かれらには逆立ちしてもかなわないのは事実だ。


 万が一物理攻撃でターゲットを仕留めきれなかった場合は、バッテリーパックを暴走させてのターゲットもろともの自爆ということになる。

 この場合、バッテリー残量にもよるが周囲を広範囲に巻き込む可能性があるので極力使いたくない手段だ。

 だが、それしか手段が残されていなければわたしにためらいはない。



 アーマードスーツを装着した今のわたしの外見はわたしの時代なら工事現場などでは見慣れたものだが、おそらくこの時代では奇異の目で見られるだろう。


 さすがに未開のこの世界でも見た目が奇異程度では官憲に逮捕されることはないはずだ。

 わたしの現在位置はトウキョウのシブヤという名の繁華街の一角にある建物の1階。

 前面の壁が透明素材でできているので、その透明素材を通して多くの人が通りを行き交っているのがうかがえる。


 ターゲットの勤務先まで直線距離で約15キロ。

 アーマードスーツを装備しているので15キロなら30分もあれば到着できる。

 とはいえ、わたしのアーマードスーツは空を飛ぶことはできないので道に沿って進むことになる。

 道なりの距離は30キロ弱。

 それでも1時間もかからず到着できる。

 この時代の地図もアーマードスーツ内に記憶しているので、それを頼りに現在位置を修正しつつターゲットの勤務先に向かえばいい。


 アーマードスーツのバッテリーパックのゲージは残量100パーセントを示している。

 24時間フル稼働可能だ。

 フル稼働など普通あり得ないので、1、2時間走るくらいならバッテリー消費は数パーセント以下だろう。

 短く見積もっても96時間は稼働できるだろうから任務の遂行に支障が出ることはないはずだ。

 任務を達成できれば、24世紀からやってきたわたしもアーマードスーツを含めた全装備も存在が不確定化してしまうはずだが、そのことがわたしの主観にとってどういった意味を持つのか御手洗博士も分からないそうだ。

 御手洗博士は口では分からないと言っていたが、おそらくどこの記録、誰の記憶にも残らない形で消滅するのだろう。

 


 難しいことを考えても仕方ない。

 そろそろわたしの最初で最後のミッションに取り掛かろう。


 わたしは今いる建物から通りに出た。

 外気温度は13度。

 スーツの内部温度は18度。

 夜空は晴れているように見えるが、街の明かりのせいもあってかヘルメットのスコープ機能を使っても星などは見えなかった。


 わたしの姿は建物内でも周囲の人間の注目を集めてはいたが、騒ぎになるようでもなかった。

 ただ、建物内でもこうして通りに立っていても周囲の人間たちがなぜか謎の平たい板をおまじないのようにわたしに向けてくる。


 この時代の風習についての知識はある程度持ってはいたが、こういった風習が何を意味しているのか皆目見当付かなかった。

 とはいえ、これからの任務の遂行に障害になるとは思えないので無視している。



 作戦はターゲットが勤務する研究所に忍び込み、ターゲットが明朝出勤してきたところを仕留める。

 単純なものだ。


 わたしはヘルメットから眼球に投影された研究所までの地図の角膜映像を頼りに道なりに移動を開始した。

 これにより、地図上のわたしの位置情報が徐々に修正され、3分後には確定できた。


 建物の中から外を眺めた時には気付かなかったが、通りではわたし以上に奇異な服装の男女が歩いていた。


 道行く人たちがわたしを見るのだが、建物の中の人たちと同じようにわたしに向けて平たい板を向けてくる。

 みんながみんな同じ行動をとるので、なんだか呪術的な何かを感じる。

 24世紀のわたしから見れば、21世紀は十分未開なのでこういった未開の風習が残っているのだろうが、不快に感じ始めた。


 わたしは網膜上に映し出される地図上での現在位置が確認できたことだし目的地に向かって駆けだした。

 時速30キロ。

 交通整理用の装置が途中何個所にもあるようなので30キロを走破するにはだいぶ時間がかかりそうだ。


 移動して気づいたことだが、通りにはゴミがあちこちに散らばっていた。

 厚手の紙を地面に敷いてそこで座り込んでいるいかにも不潔で不健康そうな男女を何度も見た。

 これが21世紀社会なのか。


 走り始めて1時間。

 わたしのアーマードスーツが人目を引いているのは確かだ。

 交通整理用の装置が街角ごとに立っている。

 装置には3色のランプが付いており、緑のランプが点けば進んでいいことを理解した。

 ランプの色が赤と黄色の場合はその方向に進めずその場で停止しなけれならないのだが、そのたびに平たい板を向けられる。


 午後10時15分。

 ターゲットが勤務する研究所の建物を地図と連動したヘルメットのスコープが捉えた。

 午後10時を過ぎているにもかかわらず、研究所の建物の半分くらいの窓から明かりが漏れていた。

 ターゲットが研究所内にいる可能性も出てきた。

 

 研究所の位置は市街地から少し離れた郊外で時間も時間だったこともあり、路上の人の数はかなり少なくなっており、謎の板を向けられることもなくなった。


 いままでかなり派手な行動をとっていたのだがこれからは隠密行動だ。


 研究所の門は閉ざされていた。

 門の脇には守衛室が設けられていたので音波センサーを向けたところ、内部に守衛らしき者が2名いることが分かった。


 さらにヘルメットに装備した各種センサーで門を中心に探ったところ、警備用のセンサーは門の周辺には取り付けられていないことが分かった。



 門を挟んだ左右の壁の高さは2メートル。

 壁の先には灌木がぎっしり植えられている。

 とは言え、場所によっては灌木の隙間もあるようだし、壁自体はアーマードスーツの脚力で難なく飛び越えられる。


 わたしはいったん後ろに下がって助走をつけ2メートルの壁を飛び越え研究所の敷地内に着地した。


 わたしが着地した場所は研究所の前庭だった。

 研究所の建物の壁に沿って、道路上を走行していたビークルとよく似た移動用ビークルが数台の置いてあった。


 姿勢を下げて膝立ちになり、どこから研究所の中に忍び込もうかと物色していたら、いきなりわたしの前に、わたしとよく似たアーマードスーツを装備した人物が白い発光現象を伴って現れた。

 その人物はいきなりわたしに蹴りかかってきた!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 わたしのアーマードスーツとよく似たアーマードスーツを装備した人物が目の前に突然現れ、いきなりわたしに蹴りかかってきた。

 わたしと同じようなアーマードスーツということは24世紀からやって来たに違いない。

 その人物がわたしに敵対するということは、24世紀の現状を変えたくない勢力、すなわち政府が送り込んだエージェントだ。


 時空転移装置は御手洗博士が建造したものだけではなかったということでもある。

 政府、人造人間たちも時空転移装置を建造していたのだ。

 確かに人造人間はわたしたち人類から見れば天才というにふさわしい知能を持っている。

 その天才たち・・が力を合わせれば、不可能なことはないと言っていいのだろう。


 エージェントのアーマードスーツがわたしのアーマードスーツと同等とした場合、最終的にはバッテリーパックの残量の勝負になるので、無駄な動きを極力抑えて守りに徹し、持久戦に持ち込むことにした。


 わたしはエージェントの繰り出すパンチやキックをかかわし続ける。

 わたし自身に格闘技のセンスなど皆無なので、アーマードスーツのオート―モードでの回避だ。


 アーマードスーツの動きに身を任せてエージェントの攻撃をしばらくかわしていたところ、急にエージェントの動きが止まった。

 そしてわたしに対して語り始めた。


「エリカ、無駄なことは止めなさい。

 あなたのやろうとしていることは殺人なのよ。

 しかも彼の発明がなければこれから数百年に渡って多くの人間が餓死する。

 そしてあなたはこの世界から見て未来のユートピアを破壊するテロリストになるのよ」


 エージェントはわたしの名まえを知っていた。

 ピンポイントでこの時空に現れた以上、当然か。

 しかし、このエージェントの声、わたしの声に似ている気がする。

 エージェントの顔はヘルメットのバイザーが偏向モードになっているためうかがい知れない。


「24世紀のあなたの世界と21世紀のこの世界を比べれば24世紀はユートピアだと分かるはずよ。

 24世紀の世界では政治、行政に腐敗はない。

 国境もなければ差別もない。

 全ての労働者は正当に評価される。

 富の大小は存在しても貧困の存在しない世界。

 あなたはそのユートピアを破壊しようとしている」


 わたしはエージェントの言葉を聞き流そうと思っていたけれど、つい答えてしまった。

「その世界は人造人間に支配されている」

「能力ある者が社会をリードすることが間違いなの?

 旧人類が社会の中で新人類から差別されているの?

 社会のあらゆる職業は分け隔てなく誰にでも開放されてるじゃない」

「事実として社会の中枢は全て人造人間で占められている」

「それは能力で選ばれた結果にすぎない。それはあなたも分かっているはずよ。

 優れたものが社会の中枢で活躍した結果、世界は平和になり、社会的不正も差別も貧困もなくなった。

 それは事実」


「うるさい! 人造人間に支配された世界をわたしは認めない!」

 わたしはカッとなってエージェントに殴りかかった。


 15分ほどエージェントと戦っているうちにわたしは違和感を覚えた。

 目の前の研究所から漏れる窓の明かりがこの15分間全く変化していない。

 研究所の前庭で激しい戦いが行なわれているのに誰一人ここに近づく者がいない。

 おかしい。



 24時間全力発揮できるはずのバッテリーパックの残量が30パーセントを切っている。

 おかしい。

 何が起こっている?

 スーツ内の温度は正常だがアーマードスーツの各機構の温度がレッドゾーン近くにまで上がっている。


 それから5分、既にバッテリーパックの残量は10パーセントを切りレッドゾーンに入っている。

 エージェントのアーマードスーツも同程度までバッテリーを消耗しているのか?

 わたしだけバッテリーパックの消耗が激しいのなら、この戦いはわたしが必ず負ける。

 ミッションを果たせずこんなところ・・・・・・でわたしは散ってしまうのか?


 そこで、またエージェントの声がした。

「エリカ、あなたの求める世界は、あなたがこんなところ・・・・・・と呼んだこの世界なの。

 この世界をユートピアに変える技術の芽をあなたは摘もうとしているのよ」


 エージェントがわたしの心を読んでいる?

 まさかそういった装置がすでに人造人間たちの手で開発されていたのか?


 その装置を使ってわたしたちの計画を人造人間たちは掴んだに違いない。

 すでにミッションの失敗は確実だ。

 今となってはそれが事実であろうとなかろうと意味はない。


 わたしにできることは、目の前の人造人間を道連れに自爆することだけだ。

 まだバッテリーパックの残量で自爆は可能なはず。


 そう思い定めた時、目の前のエージェントがヘルメットのバイザーの偏向を停止した。

 バイザー越しのエージェントの姿はわたしの慣れ親しんだ顔だった。

 そう、エージェントはわたしそっくりな顔をしていた。

 どうして?

 なぜ?


 わたしそっくりなエージェントは続けた。

「こういった試みはすでに数十回試みられているの。

 でもことごとく失敗している」


 そんな。


「なぜだか分かる?」


 なぜだ?


「あなたの言う人造人間がそういった試みを予見できなかったと思う?」


 確かに御手洗博士は人造人間たちに伍せる天才だが、たった一人の天才に過ぎない。

 しかし人造人間たちは一人ひとりがあらゆる意味で天才なのだ。


 目の前のエージェントはさらに続けた。

「わたしの使命は、こういった試みを阻止すること。

 あなたの時間線からあなたがこの時間のこの場所に来ることは分かっていたのよ。

 わたしはもちろん旧人類だけど、ユートピアを守るためこの仕事に志願したの。

 じきにあなたのアーマードスーツのバッテリーパックは空になりあなたは停止する。

 そうすればあなたの座標を確定できるので元の時間線に戻してあげられる」


 もうバッテリーパックの残量はゼロに近い。自爆もできそうにない。

 わたしは何もできないまま破れたようだ。


「どうしてわたしを処分しない?」

「あなたを処分すると、その先の未来に影響が出るから」

 そういうこともあるのだろう。


 未来を守る。か。


 最後に一つだけ聞いておこう。

「どうして、わたしのアーマードスーツのバッテリーパックの消耗がここまで激しい?」

「それはあなた自身の知覚をわたしが30倍まで加速していたから。

 あなたのアーマードスーツはその速度に忠実に反応して通常の30倍の速度で稼働していたのよ。

 わたしがあなたの前に現れてから実時間ではまだ1分も経っていないの。

 ……。

 位置が確定できたみたい。

 そろそろお別れのようね。

 さようなら」


 わたしは白光に包まれたようでバイザーの光量調節が追い付かず目がくらんだ。

最後にわたしにそっくりなエージェントの声で「……おばあちゃん」と聞こえた気がした。


 そこでわたしは意識を失った。


(完)


[あとがき]

イメージクリエーターで遊んでいたらカッコいい画像ができたので、短編書いちゃいました。

画像は近況ノート https://kakuyomu.jp/users/wahaha7/news/16817330667337510399

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新未来戦線 シャドーウォー 山口遊子 @wahaha7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ