第127話 遊佐紀リンは魔物愛護団体と出会う
無事、乗合馬車の時間に間に合った私たちは、その馬車に乗って王都を目指す。
しかし、異様な光景だった。
その馬車には現在、様々な魔物が一緒にいた。
スライム、コボルト、ホーンラビット。
他にもいろんな魔物がその飼い主と一緒にいる。
「まさか、この馬車が魔物愛護団体の馬車だったとはな……リンに馬車の手配を任せたのが失敗だったか」
「え? いいじゃないですか。魔物のペットたちと一緒に遊べる馬車ですよ。ほら、シルちゃんも喜んでいます」
リトルウフルのシルちゃんが尻尾を振って、私の頬を舐める。
普段は村にいるときにたまに呼び出しては散歩をしたり牧場を走らせたりするくらいだ。
街の中に魔物を連れ込むには手続きが煩雑だし、これまでの乗合馬車だと当然魔物を連れ込むのは禁止されていた。
この世界って私が思っているより魔物をペットにしている人は少ないから、それに関するサービスが少ないのだ。
日本でも大型犬は新幹線に載せることができなかったりするので、ペットを飼って旅行っていうのは大変なのは日本も異世界も同じか。
「それに、とっても安いんですよ。魔物と一緒に乗ったら、通常運賃の半額で乗れるんです。それに、大型の馬車なのにお客さんが少ないから広々と乗れますよ」
「客が少ない分、魔物が乗っておるから狭いのは同じじゃがな」
ナタリアちゃんの言う通り、広いっていう感じはしない。
もしかしたら狭いかもしれない。
それに、魔物の動物臭いが混ざっていて、なんとなく動物園の飼育小屋にいるみたいな感じがする。
値段が安いのはそのせいじゃないだろうか?
あれ? エミリさんとナタリアちゃんが渋い顔をしているのってそのせい?
私、失敗した?
と思っていたら、お金持ちそうなご婦人が声をかけてきた。
「とてもかわいい狼ね。リトルウルフかしら? 普通の狼と違って毛並みが銀色なのね。とても素敵よ」
「はい。リトルウルフのシルちゃんです。その子はリザードマン……ですよね?」
見た目はリザードマンだ。
リザードマンは何匹か倒したことがあるけれど、私が知っているリザードマンより遥かに小さい。
手乗りリザードマンっていう感じがする。
「リザードマンのリリよ。卵の頃から育ててるの。私にとっては子どもと同じね。見て、この子の剣。色が違うでしょ? 普通のリザードマンの剣は魔鉄でできた剣を持って生まれるんだけど、この子の剣は魔鉄じゃなくて魔銀でできているの。親のリザードマンに銀を食べさせた甲斐があったわ」
確かにリザードマンの持っている剣は銀色だった。
珍しいんだろうな。
そういえば、さっきから普通の魔物ってあんまり見ないね。
「私のこのスライムの色を出すのに、牧場を三つも経営していましてね」
「かわいいでしょ、このコボルト。この大きさでいられるのは数カ月だけなんですけど」
「二本角のホーンラビットは幸運のウサギと言われている。オークションで――」
スライムはスライム牧場でも見たことのないピンク色だし、コボルトはティカップに入るんじゃないかってくらい小さなティーカップコボルトだし、ホーンラビットは角が二本生えている。
あれ? もしかして、これ、普通の動物好きさんの集まりじゃないの?
馬車は休憩するために一度止まった。
ペットの魔物たちがずっと狭い馬車の中にいたらストレスが溜まるからという理由で、通常の乗合馬車より休憩回数が多い。
私たちもみんなから少し離れたところで、シルちゃんにご飯を上げる。
ツバスチャンお手製のドッグフードならぬウルフフードだ。
それを食べさせながら、私は気付いたことを尋ねる。
「エミリさん。この馬車に乗っているみんなって、おかしくありません? 魔物好きっていうより、珍しい魔物が好きって言うか――」
「当然だ。魔物愛護団体なんて言うが、王都に旅行に行くような連中は、だいたいは珍しい魔物を持つ自分が好きなんだ。そこに愛後精神なんてものはない。魔物をものとしか見ていない連中だ。なのに、冒険者や騎士たちに『魔物を倒すな! 魔物が人間を襲うのは人間が魔物の領域を侵したからだ!』などと言って戦いの妨害するの」
「それは……ごめんなさい」
どうやら私はもっとこの世界の常識を学ぶべきかもしれない。
そう思い、二人に謝罪した。
遊佐紀リンと四つの能力《チート》~勇者は必要ないそうなのでのんびり異世界を楽しもうと思います~ 草徒ゼン @kusatozen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。遊佐紀リンと四つの能力《チート》~勇者は必要ないそうなのでのんびり異世界を楽しもうと思います~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます