第六話 『相棒(正式)』
「今日の作業はこの辺で終わるぞー」
日が暮れるころ、エバレットの声がすると作業員たちはゆっくりとそれぞれの家へと帰って行った。
翔が去ってからもミアは作業を続けていたが、依然として表情は暗いままだ。ミアは壊された街を前にしてその場に座った。
「ミア、どうしたんだよ」
エバレットが近寄り、ミアに声をかけた。ミアは返事をせずに、ずっと前を見ている。
「まあ、聞かなくてもわかるか」
エバレットはミアの横に、あぐらをかいて座った。
「ミアは、これからどうしたいんだ?」
「……カケルと、冒険がしたい」
「なら、もうやることは決まってるな。さっきは止めたが、今カケルはミアのことを待ってるかもしれない。すでにどこにもいない可能性もあるかもしれないが……多分あいつはそんなことができるやつじゃないと思うぞ」
「探してくるよ、私」
そう言ってミアは立ち上がった。探しに行こうとしたミアをエバレットは呼び止めた。
「これ、俺の家の番号だ。カケルが見つかっても見つからなくても、ここに帰ってこい」
ミアは紙を受け取りながらも不思議そうな顔をしている。
「お前たち、どうせ寝床なしのまま来たんだろ? そのくらいお見通しだっての」
そういいながらエバレットは笑う。
「……ありがとう。行ってくるよ」
そうして、今度は小さくなっていくミアの背中をエバレットは見ていた。
「もう少し「ミアはどうしたいんだ」からのくだり、長くなると思ってたのにな……もう少しかっこいいセリフ言ってみたかった」
そんなことをぼやきながら。
(今の状態だと探知できないから地道に探さなきゃ)
ミアは目を凝らして、行き交う人の流れを抜けながら翔を探した。
(エバレットの言うように、もういないかもしれない。それでも、あきらめたくはない――!)
不安がよぎりながらも必死に翔を探した。
さっきまでいた街の隣の街――翔と初めて出会った街まで来た。そして見つけた。初めて翔と出会った場所に、翔は仰向けで寝転がっていた。
「カケル!」
翔の姿を見つけたミアは、翔に駆け寄った。翔は声に気づいて身体を起こした。
「……お前か……」
「カケル、ごめんなさい! カケルのこと何も知らないのに、勝手なこと言ってごめん!」
ミアは頭を深く下げて翔に謝った。翔はその勢いに少し押された。
「と、とりあえず座ってくれ」
ミアは言われた通りに翔の隣に座った。翔は、自分が何かを言わなければいけない状況だと分かっていても、何を言えばいいのか分からなかった。
「……俺の方こそ、勝手に抜け出したりして悪かった。お前が気遣って言ってくれたことも何も考えずに切り捨てて悪かった」
「私は謝られる立場じゃないよ。ほんとにごめん」
「ミアも、もう謝んなくていいよ」
「うん……カケル、私はカケルと冒険をしたい。だから私と一緒に来てほしい。こんな私だけど――!」
ミアは翔の目を見てそう言った。
「少しだけ、語ってもいいか」
「うん、もちろん」
「正直、まだこの世界のことを信じてはない。頭の整理が追い付かないし」
前だけを見て話す翔の語りを、ミアは真剣な表情、眼差しで聴いている。
「俺は、俺の過去が嫌いだ。たしかに父親のおかげで生き延びてた。それでも親を親だと思ったことがない。俺は、感情がないってのは大げさだけど、感情はあるし。ただ、人ほどそれが豊かではないと思う。さっきも、死のうと思った。けど、できなかった。意志も弱い……何が言いたいのか分かんなくなったけど、こんな俺で、ミアはいいのか?」
ミアは少し驚いた表情を見せ、そのあと少し頬を緩めた
「名前、初めて呼んでくれたね」
そしてミアは翔の前に立った。
「過去は気にしないでっていうのは、無責任だから言わないけど、カケルにはここで新しい人生を送ってほしいの。命ある限りね。私がカケルに、世界を見せて、教えてあげるから――!」
「世界を?」
「そう、世界を!」
ミアは両手を広げてそう言った。カケルは小さく笑った。
ミアのその両手に収まるほど、世界は小さくないのだとカケルは思う。カケルは何かを決心した表情でミアの前に立った。
「よろしく、ミア」
「こちらこそ、改めてよろしくね」
ミアは嬉しそうな顔で、挨拶のハグを交わした。
「さあ、帰ろっ」
「そうだな……どこに?」
異界の星 厚めの枕 @Wakahuji
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