2話
キュート・カワイデスは勇者である。
魔王から世界を救った彼には2つ大切なものがある。
1つは彼の最愛の妻であるルーティア・オシリス。
そしてもう1 つはというと。
「パパ、ただいま」
キュートとルーティアの間に生まれた愛娘、アキ・カワイデスである。
今年5歳になるキュートの宝物は幸運なことにルーティア似だ。
そのため、ただでさえ目に入れても痛くないほど可愛いのに、愛する妻に似ているのだ。最近では見るたびに視力が良くなっている気がする。
「ママは?」
「街に晩ごはんの買い物に行ったぞ。もうすぐ帰ってくるんじゃないかな」
「そうなんだ」
キュートの返答に納得したのか、アキは椅子にちょこんと腰かける。
なぜ我が娘は座っただけなのにこんなにも可愛いのだろうか。特に理由はないが頭をなでてあげたい。
「今日の学校はどうだった?」
「楽しかったよ」
「そうか」
キュートの問いにアキは真顔で答える。見る目のない人は彼女のことを愛嬌がないと言うだろうが、それは間違いだ。アキはクールで少し大人びているだけである。全く反省してもらいたい。
「そういえばパパ、見てほしいものがあるの」
そう言うと、アキは持っていた鞄に手を入れる。
何が出てくるんだと注目していると、目の前に一枚の絵が差し出された。
「これは?」
絵を見ながら、アキに尋ねる。
愛娘はポーカーフェイスを崩すことなく、口を開く。
「パパとママの絵。一番の宝物についての絵を書く授業があったから」
アキは話し終わるとこちらをじっと見つめる。
「これ、大切にしてくれる?」
「……!!!」
まずい。
これはまずい。
うちの娘があまりにも可愛すぎる。
これはうちの娘可愛すぎるだろエネルギーが湧いてきてしまう。
「パパどうしたの?突然ドアを開けて」
「ちょっと晩ごはん前に冒険してこようと思ってな」
「えっ、ママもうすぐ帰ってくるんじゃないの?」
「大丈夫、すぐ帰ってくるから」
娘にそう伝え、家を飛び出す。
力が溢れ出してくる。
いや、暴走しているといった方が正しいか。
この状態では愛する娘を抱きしめることができない。
早急にガス抜きする必要がある。
となれば、やることは一つだ。
「あ、あれは!」
「勇者キュート!?なぜまたここに!」
「まさかあの計画が知られたのか!?」
向かったのは前にも訪れた禍々しい城。
何やら騒いでいる魔物たちを薙ぎ払いながら、奥に進む。
そして最深部に続く扉を蹴り破る。
「くっくっくっ、あの計画は順調か?」
魔王デモンは側に控える部下に尋ねる。彼はまだキュートの存在に気がついていない。
「はい、デモン様。インプ達により、人間の子供を強力な魔物に生まれ変わらせる魔法が作り出されました。すぐにでも実証実験可能です」
「よし、なら早速人間どものガキを誘拐してくるのだ。そうだな、試しに勇者の子供でもさらってこい。あいつの目の前で子供を魔物に変えてやるぞ!」
「で、デモンさま!あちらをご覧ください!」
ここでようやくキュートの存在に気がついたのか、部下の魔物が慌てた様子でデモンに声をかける。
「なっ!?勇者キュート!なぜここに!」
デモンも驚いた様子で声を上げる。
しかしすぐに笑いはじめる。
「くっくっくっ、ちょうどいい。これからの計画を貴様に邪魔されてはたまらんからな。ここで始末してくれよう」
そう言うと、デモンはマントを脱ぎ捨てる。
彼の体には紫色に輝く鎧が装着されていた。
「これは私の部下の総力を結集させて作った鎧だ。どんな武器や魔法でも傷一つつけることはできん。前のようにいくとは思わないこと……」
「……うちの娘が」
「ん?」
「うちの娘がぁ!!」
キュートはデモンに向かって手を突き出す。
そんな鎧のことなどどうでもいいし、正直なところ、彼の話など聞いていない。
娘への愛が溢れ出しそうなのだ。
そして魔力とともに限界まで高まった可愛いエネルギーを一気に放出する。
「うちの娘が良い子すぎて……可愛すぎるっ!!!!」
「ギャアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
娘への愛は炎となり、悪の魔王を燃やしつくした。
これぞ必殺技、うちの娘可愛すぎるだろフレイ厶。
受けたものは死ぬ。
娘の可愛さのあまり暴走しかけていた力が無事にコントロールできるようになり、キュートはほっと息を吐いた。
これで愛する妻の料理に舌鼓を打ちながら、可愛い娘を怪我させることなく抱きしめることができる。
「さて、今日の晩ごはんは何かな」
そしてキュートは上機嫌で帰路についたのであった。
「『魔王デモンの野望、またしても阻止される』か」
翌朝。
キュートは新聞を読んでいた。
どうやら以前にも悪事を働いていた魔王デモンが復活し、子供をさらって魔物に変えるという恐ろしい計画を企てていたようだ。
本来であれば勇者である自分が討伐に向かうべきであろうが、今回も既に誰かが倒してしまったようだ。
「魔王を一人で倒すなんて……一体何者なんだ?」
「パパ、いってくるね」
そんなキュートの思考は愛娘の声によって終了した。
これから学校に向かう娘の見送り以上に大事な考えごとがあるだろうか、いやない。
新聞を机に置き、玄関の扉を開くアキへ歩み寄り、彼女の髪を優しく撫でた。
「いってらっしゃい、気をつけてな」
「うん、いってきます」
そう言って、アキは学校に向けて歩き出した。
その背中が小さくなっていき、街へ続く下り坂に消えていった。
今日も我が娘が可愛すぎた。
美しい嫁に可愛い娘。全く自分は幸せ者である。
「……」
「ルー?」
後ろを振り返ると愛する妻がこちらを見つめていた。その顔に笑顔はなく、少しむくれたような表情である。
「ど、どうしたんだ?」
「な、なんでもないよ!?」
キュートの問いかけにルーティアは慌てた様子で首を振る。
しかし何かを決心したように、キュートに歩み寄り、体を寄せる。
いきなり妻に抱きつかれ、目を白黒させるキュート。そんな彼に追撃を加えるように、ルーティアは耳元でささやきかける。
「アキちゃんが可愛いのはわかるけど、たまには私のことも構ってくれないと嫌だよ……?」
「……!!!」
この後、なんとか灰の中から奇跡の復活を遂げた魔王デモンへキュートのうちの嫁可愛すぎるだろファイアが襲いかかるのであった。
続く?
一一一一一一一一一一
ここまで読んでいただきありがとうございました。皆様からリクエストがあれば、3話も書きたいと思いますので、ぜひ♡や☆、応援コメントをいただけますと幸いです!
嫁が可愛いので俺は今日も最強です そろもん。 @soromon111
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