嫁が可愛いので俺は今日も最強です

そろもん。

1話

 勇者キュート・カワイデスが魔王を倒して5年がたった。

 平和になった世界。

 しかし彼には少し困ったことがあった。


 嫁が可愛すぎるのだ。


 とある日の朝。

 キュートは外から聞こえる鳥のさえずりを聞きながら、ベットで横になっていた。

 しかし寝ているわけではない。なんなら彼は1時間前ほどから起きている。

 しかし彼が頑なに布団から出ようとしないのにはとある理由があった。


「キュートくんおはよ〜……あれ?」


 寝室に一人の女性が入ってくる。

 亜麻色の長い髪に琥珀色の大きな瞳。白の清楚なワンピースを可憐に着こなす美少女中の美少女。

 そう、彼女こそ勇者キュートの妻であり、彼とともに世界を救った聖女、ルーティア・オシリスである。


「すぴーすぴー」


「寝てるの?もー、お寝坊さんだなぁ」


 キュートが寝たふりをしていることにも気がつかず、ルーティアは彼が眠るベッドに近づく。

 そして彼の枕元にちょこんと座り、じっと彼を見つめる。


「……可愛い寝顔だなぁ」


 にへらと笑いながらルーティアが呟く。

 なんてこった可愛すぎる。可愛すぎる自覚はあるのか。反省しろ。

 薄目で嫁の反応を楽しみつつも、寝たふりを続けるキュート。

 彼は知っている。ルーティアの可愛いのポテンシャルはこんなものではないことを。


「はっ!そろそろ起きてもらわないと朝ごはん冷めちゃう!おーい、キュートくん起きて〜!」


 慌てた様子でルーティアが体を優しく揺さぶってくる。彼女は本当に表情がころころと変わる。笑顔は言わずもがな、慌てている顔も可愛い。

 しかし目を開けるのは我慢だ。キュートは知っている。妻は追い込まれるほどそのポテンシャルを存分に発揮することを。


「お、起きない……!こうなったら!」


 しかしキュートは甘く見ていた。

 妻のあざと可愛いのポテンシャルを。


「もうっ、早く起きないと……キス、しちゃうよ……?」


「……!!!」


 彼は開眼した。

 そして勢いよくベッドから飛び起きる。

 「ふぇっ!?お、起きてたの!?」と驚く嫁。

 その反応すら可愛い。

 もう限界だ。


「……ルー、おはよう」


「お、おはよう、キュートくん。どうしたの?突然窓を開けて……?」


「ちょっと冒険してくる」


「えっ」


「すぐに戻ってくるから!!」


「キュートくん〜!!朝ごはん冷めちゃうよ〜!」


 愛する妻の声を背中に浴びながら、キュートは窓から飛び出した。

 野を超え山を超え。

 彼は風よりも速く走り続ける。

 嫁の可愛いところを思い出すだけでどんどん力が溢れ出してくる。

 キュートは魔王を倒した勇者だ。当然腕力も人並み外れている。そんな彼が感情のままルーティアを抱きしめてしまえば、愛する彼女に怪我させてしまうかもしれない。

 だからこそ適当な場所でガス抜きする必要がある。彼はその勢いのまま、禍々しい見た目の城の門をぶち破る。

 

「な、なんだ貴様……ぐふぅ!」


「ここが魔王デモンさまの城だと知って……ぬああっ!」


「殺せころ……あふぅん!」


 突然の侵入者に驚いた様子の魔物たちを蹴散らしながら奥へと突き進む。

 そして最深部の扉も容赦なくぶち破った。

 そこには悪い顔をした2匹の魔物がいた。


「くっくっく、準備はできたか」


「はっ、準備は万端でございます」


「くっくっくっ……前の魔王が倒されて5年。人間どもが調子に乗っているからな。ここらでお前たちは魔物に怯えているのがお似合いな虫けらなのだと教えてやらねば……まずは平和ボケしているだろう勇者キュートから殺してやるか」


「で、デモンさま!!」


「どうした?」


「あれをご覧ください!」


 魔王デモンは部下が指差す方向へ目を向ける。

 そして絶句した。


「なっ!?キュート・カワイデス!?なぜここに!」


「うわあああああああ!!」


 キュートは突っ込んでいく。

 嫁可愛いエネルギーが限界まで高まっていた。

 どうやら目の前の魔物は悪いやつみたいなので、ここで放出しても問題ないだろう。


「今日もうちの嫁が、可愛すぎるー!!!」


「ぐっ、はあああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 唸りをあげるキュートの拳。

 それはキュートの数十倍は大きい魔王の体を捉え、城の壁ごと空の彼方へぶっ飛ばした。


 これぞ必殺、嫁可愛いパンチ。


 悪は滅び、生まれてきたことを未来永劫後悔し続けるのだ。





「『魔王デモン、何者かに打倒される』か」


 翌朝。

 愛する妻が作ってくれた朝ごはんを堪能しながら、勇者キュートは新聞を読んでいた。

 どうやら別地方で急速に力をつけていた魔物が何者かに倒されたらしい。

 キュートがかつて倒した魔王の10倍は強いとも言われていた魔物だったようで、「一体誰が倒したんだ!?」と街はこの話題で持ち切りらしい。

 

「世界には強いやつがいるんだなぁ」


 感心しながらキュートは新聞を閉じた。

 魔王は倒したが、世界には常に新しい悪が現れる。今回は出番がなかったが、必ず勇者であるキュートの力が必要となる時が来るはずだ。


「もっと強くならないとな……愛する人達を守るために」


「あ、あの……キュートくん」


 そんな彼にルーティアが声をかけてくる。

 

「今日のご飯、美味しい?」


「ああ、美味しいぞ。いつもありがとう。それにしてもこのスープ、なんか懐かしい味がするな」


「あ、やっぱり分かるんだ。実はキュートくんのお母さんにスープのレシピ、教えてもらったんだ」


「まじか、作るの大変だったんじゃないか?おふくろ、なんかよくわからない薬草とか入れてたし」


「確かにちょっと作るのは大変だったよ〜……でも」


「でも?」


「キュートくんの喜ぶ顔が見たくて頑張っちゃった!ふへへ、キュートくん、大好きだよ」


「……!!!」


 そしてこの後、「おのれ勇者!今度こそ殺してやるぞ!」と復活して息巻いていた魔王デモンは再び勇者の嫁可愛いパンチによってぶっ飛ばされたのであった。


一一一一一一一一一一

ここまで読んでいただきありがとうございました!

ぜひ♡や★、応援コメントをいただけると嬉しいです。好評であれば続きを書きたいと思います。

ありがとうございました。

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