第四話 今こそ教えが役立つ時。
「いいか。
漢詩にはこのような使い方もある。覚えておけ。」
そう言って、パチン、と片目をつむってみせた
三男、
「勉強ばっかりで人生の
とからかうが、真面目で
(さあ、今こそ、
* * *
「その漢詩も良いけど、漢詩なら、もっと好きなのがある。
金漢星楡冷。
銀河月桂秋。
靈姿理雲鬢。
仙駕度潢流。
窈窕鳴衣玉。
玲瓏映彩舟。
所悲明日夜。
誰慰別離憂。※
……なっ? 素敵だろ? 皆もそう思うだろ?」
と、つらつら、わけのわからない言葉を淀みなく並べ立てた源は、
また、笑顔の向こうに後光がさして見えた。
「言葉がわからん。」
「えっ?
……ほらねっ?」
「ほらね、じゃねえ。わからん。」
うんうん、と
「天の川には星が冷たい。
……
織女星はしとやかに、衣につけた玉を鳴らし。
麗しいその姿は、織女星の乗った舟に色彩豊かに
逢瀬も一夜限り。
明日の夜からは織女星は悲しまねばならない。
誰がこの別れの憂いを慰められるであろうか。
いや、慰める事が可能な者など誰もいない。
……ねっ?」
「…………。」
意味は分かった。
天の川を渡る織女星が、
それは切なく。
───
「良いうただな。」
と言ってくれたので、
「そうだな。」
と
「そうだろ?」
と満足そうに目を細め笑った源は、
「
あなたはそのように美しい。」
と
「……!」
みるみる赤面し、白い
「ふぉっふぉっふぉっ……!」
「いやはや、これほどの傑物が
「……はい。」
かすかに、えもいわれぬ良い匂い……木の落ち着く匂いのなかに、
「見わたせば───、
凛として良く響く、綺麗な歌声。
ふわ、ふわ、と
ここがどこか、今何をしに来ているのか、たしかに、幽玄の地で忘却した。
「軍監殿。我が娘の舞い姿はいかがですかな?
どうでしょう? あなたなら安心して我が……。」
「やめて、やめてっ!」
「あたくしは婚姻なんてしない! いやっ!」
「
「かまわないわ! あたくしは婚姻相手を見つけて欲しくて、帰ってきたんじゃない!
どうして分かってくださらないの、お父さま!」
「
「かまわないわ! あたくしは生涯ひとりでかまわない!」
「……一人?」
そうつぶやいたのは
「寂しいぞ?」
しまった、と口を押さえた時には、ぎん、と睨む
「おのれ、誰が発言を許したか!」
カッ、カッ、
「無礼者!」
ぱあん、音が響き、されるがまま、張り手を受け入れた
(なんでこんな事言っちまったんだろうなぁ……。)
と思いつつ、謝罪を口にしようとした。
───その時。
カンカンカン!
と急をつげる
はっ、と皆息を呑み、押し黙る。
ここは戰地だ。
「
と倚子を立ち、さっと礼の姿勢をとり、身を
たたた、と
* * *
女官はすぐに
礼の姿勢をとることも忘れている。
「火が! 館の
「なんですって……、
さあっと青ざめた
* * *
精悍な横顔。
そこには、先程まで
「何があった?」
「東より
「わかった。」
夜の闇での敵襲。
たしかに東門がやぶられ、
「三方から囲め! 一人も逃がすな!」
常に佩いている
「おらぁ!」
駆ける速さは少しも緩めず、
一合。
二合。
三合も刃をかわせば、
眼の前の敵を、右脇腹からまっすぐ、左へ、一刀両断する。
血が、ばあ、と闇夜に黒く噴き上げ、その向こうから小男が顔をのぞかせ。
ぷっ。
吹き矢を放った。
「おっと!」
(危ない、危ない……。)
右足を踏みしめ。
腰に力をぐっとため。
手から火を吹くように。
小男を脳天から真下に切り下ろす。
小男は、血まみれになり、倒れた。
その身体が力を持って動く事はもう、ない。
「ふっ。」
そこでやっと
制圧が終わった。
「
北に逃げられた!」
「な、なぁに〜っ!!」
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330667965999192
* * *
※参考。
○古代歌謡集 日本古典文学大系 岩波書店
この年の一月、揺れる思いを、相手に絶対にわからないであろう異国の言葉で口にした、不器用な男がいました。
麗しいその姿は、織女星の乗った舟に色彩豊かに
逢瀬も一夜限り。
明日の夜からは織女星は悲しまねばならない。
誰がこの別れの憂いを慰められるであろうか。
「あらたまの恋 ぬばたまの夢 〜未玉之戀 烏玉乃夢〜」
第十五章 「白梅の枝」
第四話へ飛びます。
リンク先は一方通行ですよ。
これは、物語を両方読んでくださった読者さまへの、答え合わせのサプライズです。
https://kakuyomu.jp/works/16817330650489219115/episodes/16817330652071008684
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