第五話 さやけき月明かりのもとで
「早く!」
父親の部屋を飛び出した
その方角には、
十八歳の
守らねば。
まだ、大きな火は見えない。
しかし、ここに来るまでに、ちいさな火を見た。
恐ろしい。
あたりは薄く、広く、きなくさい白い煙が漂っている。
「
「お姉さま!」
「まだ兵士は来ないの? 火がせまってるわ。逃げましょう。」
「へ、兵士が来るまで待ったほうが良いのでは……。」
火の手から逃げるには、ここからすぐ逃げたほうが良いだろう。
でも、賊の手からは?
この部屋から逃げて、賊とかちあったら?
この部屋に
「わかったわ。……
「
「そう。……こちらからも、兵士を呼びにやりましょう。
「はい! 必ずや!」
(頼んだわよ、
そのような
ぽっ。
ちいさな炎が、
「あっ!」
「きゃあ……!」
「ここにいてはいけないわ。部屋を出るわよ!」
ただのお守りのようなものだが、ないよりは良い。
「ウェンメノコ、アトイキッカラ……。」
男の声がした。日本語じゃない。
賊の声だ……!
近い!
「まずいわ、隠れて!」
しかし、
「いい、絶対に喋っちゃ駄目よ。」
そう怖い顔で二人に言い含め、自分は
息を殺す。
遠くからは、
(まだなの、兵士は、まだ来ないの……。)
(守ってみせる。守ってみせる。死なせない……。)
とうに
この世にたった二人の、血を分けた姉妹なのだ。
「アトイキッカラ、アウェンキッカラ……。」
賊が、部屋に入ってきた。
まずい!
几帳の後ろなど、すぐに見つかってしまう。
ぱちぱち……。
火の手がせまる音が、大きくなる。
部屋に流れこむ煙が、濃さを増す。
……さっき、
だとしたら、ここが無人だと、ごまかしきれない。
(死ぬなら。
この
走って遠くにいき、この部屋から、賊をひきはがす。
……上手くいくかは分からないけれど。)
賊がうろうろしながら、部屋の奥まで入ってきた。
賊はすぐに気がついた。
「
もがくが、すぐに腹をうたれ、気を失った。
* * *
───
頂上は、東には政庁。西には身分の高い人々の住まいがある。
政庁はくるりと
その築地塀、東西はニ十一丈あまり(約65m)。
南北は二十三丈あまり(約70m)。
ここで
政庁を囲む築地塀とは別に、さらに大きい築地塀が、山、そして山のふもと全体を囲む。
東西、およそ九町(1km)。
南北、およそ六町(650m)。
築地塀は、高さ一丈三尺(約4m)。
厚さ四尺(約1.2m)。
それが、えんえんと、続く。
まさに、築地塀の、柵。
柵が威容を誇る。
ゆえに、
* * *
「逃がすなぁっ!」
馬上の人となった
石を敷き詰め、整備された一本道。
くだり終わり、一の
五人に燃える
火の粉が早駆けする馬の後ろに飛ばされる。
ぽつぽつ、と背の高い木々が生え、夜に濃い影を落とす。
六丈六尺(20m)ほど先の野原に、六人ほどの蝦夷が走る背中が見えた。
一人、色鮮やかな衣の
「
「
五百足が、足のみで馬を御し、
ビン!
最後尾を走る賊の背中に命中し、悲鳴とともにその男は倒れた。賊どもの走る足が乱れる。
「はいっ!」
背に乗せる主の怒りを感じ取り、今、速く走れ、と望まれた荒ぶる馬、
あっという間に賊に追いつき、
「その
「おっ、と。」
(つい怒りのまま斬ってしまった。)
ひらっ、と
「よっ。」
気を失った
見たところ、怪我も、衣の乱れもない。
「ほ───っ。」
(良かった。)
安堵のため息が、
「一人逃がせ。」
「
五人の
蝦夷に亡骸を引き取らせる為、
すぐに、他の賊も、連れてきた
そこに近づいてきた兵士がいた。
「
「おん?」
(誰だ?)
「いや、良い。」
───しかし、
そのまま、熊手から
「帰るぞ。」
そう思うが、それだけではない。
熊手から聞いたが、
なんという勇気のある
正直、険のある態度がいけすかない
さらわれたままに、しておけない。
必ず、救う。
(ここまで、
どうした事だ。)
そう思いつつも、一晩じっくり寝れば、明日にはすっきり残らない感情であろう事も、
これらが、
雲の多い暗い夜であったが、雲間が晴れた。
細い三日月が姿を現す。
(今だけだから。
助けたのだから、それくらいのご褒美があっても、良いだろ?)
長いまつげ。
抜けるような白さの、肌。
美しく整った、目鼻立ち。
桜色に色づく、柔らかそうな唇……。
(本当に綺麗だ。まるで天女だな。豪族の娘、
ところで、
汗っかきである。
まわりに驚かれるほどの、汗っかきである。
今しも。
ぱたっ、と汗が
「んん……。」
(うっ……! しまった……!)
ここに来て、
(なんで、自分で運んじまったんだ、馬鹿野郎!)
この裳瘡を見たら、きっと
恐ろしい穢れを見る目で、
「…………さっきの兵ね。あたくしの
「えっ……?」
(それだけ?
なのに、それだけ?
見えてないのか?
そんな、この月明かりで、ありえない。)
「無事なの? 隠さずに言って!」
「無事です。
と伝えた。
「そう……。良かった。ありがとう。」
ふう、と息をついた
(あ……!)
(この人は。
この人は……。
オレの
眼の前で起こっている事が
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330668015844159
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