転移先は異世界風〇店!? 能力がないけど裏方としてがんばるか
夏伐
え!? やっす!?
不安定な社会情勢、このまま働き続けても見えるのは、ただ税を納めるだけ納めたらくたばる孤独死ルート。
「俺はどうせ死んでも迷惑がられるんだろうな……」
真面目だけが取り柄で彼女がいたためしもなければ、友人すらいない。趣味がない? 趣味には金がかかる。
金がかからない趣味もある、とバイト先の社員になぐさめられたが、家計が火の車すぎて何かに没頭することもできない。
必要なのは、金、金、金。
新しいことをスタートするためにも金はいる。じゃあ、絵を描くぞ!なんて思って百均で画材を揃えるのも疲れるんだ。
鉛筆と紙があれば描けるだろって思うだろ。でも真っ白な紙を見て、そもそも描きたいものなんてない事に気づくんだ。
インターネットでちやほやされてる神絵師?を見て羨ましくなっただけ。欲しいのは他者からの承認だ。
一定以上の金がないならば、何をしているか。ひたすら興味もない動画を見続ける。宝くじを買うなんてバカだ、なんて言わてるけどさ、人生一発逆転できるような『何か』がないと俺みたいなのは夢を見る事すら出来ないんだ。
「それが、あなたが死にたい理由ですか?」
俺はあからさまに怪しい女性からの問いに頷いた。彼女はローブやとんがり帽子なんかを着た顔も見えない。
だから、その問いがどういう意味を持っているのか俺には分からなかった。
「だそうですが、どうします?」
目の前では露出の多い……というかほとんど裸の女性が呆れている。
露出狂と魔女さんとでも呼ぼうか。
魔女さんは絵本の魔法使いのような杖を持っている。その杖でコツコツと床を叩いた。
俺は目のやりどころに困る露出狂から視線を外し、この部屋に目を向ける。古ぼけた、そうだ、映画のハリーポッ〇ーやダンジョン&ド〇ゴンズみたいな剣と魔法の世界のようだ。
だって壁にドラ〇エに出てくる剣と盾みたいなのが飾ってあるもん。部屋の隅っこにでかい樽。ぶっ壊したら薬草でも出てくるんかな。
いつものごとく、ぼーっとしていると俺は突然光に包まれた。
そして上記の『死にたい理由』をやけくそな志望動機のように答え、その合間に俺が魔法陣の上にいることを把握した。
「う、う~ん……」
悩む露出狂に魔女さんは「覚悟を決めてください!」と言う。露出しているがゆえに分かることだが、悩みの度合いだろうか、彼女の細い尻尾がくねくねとうねる。
「召喚代もバカにならないのに……」
「最安値だったらこんなもんです」
俺は魔女さんに『こんなもん』と言われてしまったが、この状況にテンションが上がるのを押さえられない!
これは……やはり……『異世界転移』じゃないだろうか!!!
しかもエロい系の!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「見てくださいこのバカ面……」
俺の期待に満ちた顔を、魔女さんは杖で指示してドン引きしていた。
「召喚が『富くじ』と言われる理由が分かりましたか? そして前払いの理由も」
「だってだってぇ……! 運が良ければ体力がありあまっていて一日中えっちしてても元気な人が現れるって聞いたのに~~~!!」
露出狂の言葉に、魔女さんがまた呆れたように杖で魔法陣を消し始めた。杖でなぞると小さな風が起きて魔法陣の線が消えていく。
召喚術ってこんなカジュアルなもんだったっけか?
「キャンセルしますか? ちなみに……キャンセル代も高いですよ」
ジロリと露出狂を睨みつけた魔女さんは、何も答えられず視線を泳がせる彼女に「キャンセル代が出来たら呼んでください」とだけ伝えて、部屋から出て行ってしまった。
沈黙をこらえきれずに、俺は露出狂に話しかけた。肩に手を置こうとしたが、あまりの露出に手が止まる。今の状況を他人が見たらセクハラっていうか性犯罪者だ。
「あ、あの……」
「も~~~~~~!!!! やぁだぁ~~~~~~!!!!」
その場でペタリとへたり込んで、露出狂は大泣きし始めた。ぼろぼろと涙を流す彼女の叫びに俺もどうしていいか分からずおろおろしてしまう。
なぐさめた方がいいのか…でも俺だって拉致の被害者だろ。
急にドタドタと音がし始めたと思ったら、扉がバーンと開いて露出しかない少女たちが部屋に飛び込んできた。
「「「「店長~~~~~~~!!!!」」」」
四人は露出狂を取り囲み、悲しむ彼女と俺を見比べて残念そうな顔をした。そしてすぐに露出狂――店長を泣きながら抱きしめる。
「みんなぁ~~~!!! ごめんねぇ~~~~~!!!」
「いいんです店長! みんな店長の気持ちはわかってます!」
「うんうん、みんなで頑張っていけばいいだけだよぉ」
「次は魔王像にお祈りしてから召喚しましょ!」
「……召喚は、仕方ないょ」
俺は部屋の隅にある樽の上に座り、店長が泣き止むのを待った。露出が多い女性や少女たちがくっついている姿は、いや~眼福眼福。
「……ねぇキャンセルしてもこいつが別のところに行くだけでしょ?」
大人しそうな少女が俺を指さした。
「別のところって言っても、魔王様が飼ってる魔物のエサ場に放り込まれるだけよ」
「え!?」
「異世界人でも、死体が見つかると面倒なのよ。だからなかったことにするのよ」
「え”ぇ”!?」
店長の言葉に俺はつい叫んでしまった。
「元の世界に戻れるんじゃないのか!?」
「『死にたい理由』を聞いたじゃない? 元の世界に戻すのは召喚するよりもお金がかかるから、その必要がないのを呼び出してるのよ。常識じゃない?」
店長はめそめそしながら呆れたように言う。
「育てるにしても……、人間じゃぁね…」
「しかもスキルがない世界から来たんでしょ?」
エロいスキルで異世界を無双するのが……俺の……いや全人類の夢じゃないか!!!! 召喚された時にスキルが付与されるって定番だったのに!!!
「ていうか、俺は何のために召喚されたんだよ」
戦わせるなら、弱くてもなんでも戦場にぶち込んで生き残ったら正解でいいだろうに。話を聞くに、世界を背負ってとかではなさそうだし。
「……、店長もしかしたらなんか良い異世界知識があるかも、ょ」
「確かにぃ!」
そんなこんなで俺は、異世界の風俗店に召喚されてしまったのだった。
サキュバス族が経営している組織なのだが、少子高齢化や悪魔崇拝者の現象により、なかなか店に来てくれる者がいないという。
「サキュバスとヤると子供が出来なくなるなんてウソ知識をばらまかれてから、うちの店の経営にダイレクトに悪影響が出たのよ。クソ教会め!」
「他にも、人間をダメにするとか」
「それはまぁ大変っすね」
「魔王さまの娘がサキュバスなんだけど、勇者と結婚しちゃってからサキュバスに対する当たりが強いのよ」
この世界、既に勇者いるんだ…。
俺たちは店の待機室に移動して、菓子を食べながらだらだらと状況を整理していった。俺が何を知っていて何が出来るのか、ここで何もできなかったら、低級な淫魔の集落に売られることになっている。
淫魔の村では、相手が行為の最中に死んだとしてもさらにヤり続けるという地獄が日常風景だという。
「教会のお偉いさんの聖女が勇者と幼馴染で片思いしてたからって最悪よね!」
それは……、聖女からしたら面白くないだろうな。エロ漫画ではまぁ見る展開だけども。
「それで、イケメンを召喚して聖女さまに?」
「「「「は?」」」」
「そんなのあの金額の召喚じゃ無理に決まってるじゃない!」
「サキュバスは精を得ることで生きてるのよ!? 『精ありて、サキュバスあり』と言われるくらいには切り離せないのよ。つまりこのお店もお金と生きる糧をゲットできるサキュバスにとってはお得な店だったのに……」
「勇者だのなんだので人間が襲い掛かってきてから少しずつお店の規模が縮小!」
「いっぱいいた嬢も、この五人だけになっちゃったのぉ」
「人間狩りが流行っちゃったしねぇ」
「狩りは、ハイリスクハイリターン……」
やっぱ魔族は人間からしたら加害者じゃねぇか? と思いつつも、状況を整理すると召喚された者に求められてるのは……。
「つまり求めてるのは……男ってことか?」
「そう! でも、このザマなのよ」
まったくもって失礼なやつらだな……。
「じゃあ俺でもいいんじゃ?」
「――いいけど、あなたじゃ5分で死ぬわよ?」
「ご、五分!?」
「気持ちいいとか感じる間もなく、死ぬわよ。ちなみに低級な淫魔は雑魚だけど集団で襲い掛かってくるだろうし30秒ね。まばたきの間にあなたは死ぬわ」
「何その『お前はもう死んでいる』」
とりあえず、『死にたい』やつは消耗品として呼び出したかったらしい。今の異世界ご時世で人間を飼うのは問題らしい。オークやゴブリンなど精力モンスターは引手あまたでこんな弱小店には呼べないという。
「で、この状況、異世界人には解決できて?」
チートもなしにそんなこと……。
「ここで働かせてください!!!!」
戻れないし、こいつらチャンスがあれば死体が残らない方法で俺を消そうとしてくるし。お菓子食べてて思ったけど、砂糖とか塩でチートできるほど文明レベルは低くない。魔法とかいう謎のエネルギーが存在する現代だ。
――俺はその場に土下座した!
その全面降伏に、店長も嬢も顔が青ざめるほど呆れていた。
結局、キャンセル代が払えない以上、俺は裏方スタッフとして事務やら掃除やら何でも屋としてこのエロい店で働くことになった。
ひょろい、もののきちんとした働きをしている俺は数か月後には店長や嬢と仲良く世間話が出来るくらいに馴染んでしまった。
死にたい、とはいえ苦しみたいわけじゃないからな。魔物のエサルートは嫌だからそりゃぁ真面目に働くさ。
何なら店の嬢に手を出しても良いと許可をもらったが、逆に好待遇すぎて怖かったし五分で死ぬんだろ……。
そうこうしているうちに店にチラシを作ってみたり、イベントを企画したりしているうちに、ふとキャッチがいないことに気づいた。
店の外で嬢が呼び込みをしていることはあるが、キャッチがいない。法規制さたりする路上キャッチセールス、この店にいないのかと思ったら『いない』らしい。
「店長、キャッチ雇ったりしないんですか?」
「ああ~、『おにいさん、いいところ知ってますよグフフフ』みたいなあれね」
「やっぱあるんすか?」
店長は遠くを見るように視線を店の外に送った。
「悲しい……事故があったのよ」
「事故?」
「種族によって一般性癖も変わったり苦手な属性があったりするせいで、ちょっと、ね。それからあまり推奨されてないの。店の印象も悪くなるようになっちゃったし」
「はぁ……(なんも分からないが)何かあったんすね」
俺はその日も変わらず、掃除や会計をし飯を食ってねむ……ろうとしたところで、とんでもない天啓を受け取った。そう、まさしく天啓! こんな感覚は始めてだ!
「店長ォーーーーーーッ!!!!!」
「いやああああああああ!!!!」
この店は店長の自宅兼店だったので、勢い込んで店長の部屋を開けると店長がエロい映像を壁に投影して楽しんでいるところだった。
……。
「で、何?」
そそくさと片づけを終わらせた店長は、怒ったように俺を見つめる。気まずいが、俺は店長にアイディアを聞いてもらう。
初めは早く話を終わらせたいと思っていたらしい店長も、少しずつ話にのめり込んでいった。
「い、いいかも……。あんたなら人間の村でも普通に入れるしね」
「でしょう!?」
「……逃げるつもりじゃないでしょうね?」
「こんなエロいい環境、手放すわけないでしょ」
俺の言葉に、店長はニヤリと微笑んだ。
次の日から数時間程度、魔王領人間居住区にキャッチに行くことにした。俺のアイディアは少しずつだが、店に影響をもたらすようになった。
店に新規の客がやってくる。そして店を離れていた嬢がこの店に戻ってくるにつれてプレイの幅も広がり、常連客ももどってくるようになった。
今では噂が噂を呼び、店にやってくる志願者も現れるくらいだ。
俺は、今日も自殺スポットを巡る。森だとか滝だとか、そういうところに集まるのはどこも一緒みたいだ。
そして今日も今日とて良い絶望顔の人間と出会うことが出来た。彼は俺が店の旗を振りながら近づくと、呆気にとられたようだった。ちなみに森の中でも目立つように夜に光る石を体に張り付けている。
エロい店の旗を持った夜光石を体に張り付けた人間が笑顔で走りよっている状況だ。
「死にたい? ならいいところありますよ、おにいさん!」
俺がチラシを渡すと、男は絶望から正気に戻ったようにハッとする。
「えっ、こんなところで風俗のキャッチ?」
「どうせ死ぬなら気持ち良く死にませんか?」
サキュバスが本気出したら五分で死ぬが、彼女らも客相手には加減をしてくれるらしい。そこは淫魔、店に入った客はもれなく晴れ晴れとした表情で再来店している。毎度ありがとうございまーす!!
これが淫魔の店を復活させた、死なばもろとも大作戦だ!
「勇者との戦いでお客さん減って困ってるんですよ。ちなみにチラシの金額が正規の料金ですが……はい」
俺は男にクーポンを渡した。
「え!? やっす!?」
「サキュバスのお店なんですが、本当に困ってるんですよ。彼女ら精を得て生きながらえる種族ですから……」
「それにしても安すぎない?」
「初回料金ってことで。ちなみに勇者と結婚した魔王の娘もサキュバスなんですが……、戦争を終わらせた手練手管、冥途の土産にどうです?」
「……」
男は黙り込んだ。
「……マジでこの料金なの?」
「はい!」
俺の返事に、男はそそくさと街の方向へ歩き去った。
急げばまだ営業時間に間に合うからな……一時的にでも辛いこと、忘れろよ。
嬢に感謝され、命も救えて一石二鳥ぉおおおおおおおお!!!!! 俺は異世界キャッチ道を走り出したのだった。
余談だが、自殺したいやつが女だった場合は店長の知り合いの女性向け風俗店をサービスサービス!だ。
そもそも金がないだとか、そういうのも俺が便利屋として培った魔人脈で即・解決のちエロい店へゴーだ!どうにもならずとも低級で雑魚な淫魔の村への派遣()で遺族に少しでも金を残すことができるからな。
まさか異世界にも自殺スポットがあるとは思わなかったが、結果的に命が救われてるんだから万事OKだよな!
転移先は異世界風〇店!? 能力がないけど裏方としてがんばるか 夏伐 @brs83875an
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