初仕事! ☆6☆


「なんじゃ、このド派手な建物はっ」


 深い森の奥。緑色の葉っぱを宿した茶色の木々が並ぶ場所の一角に、まるで「見つけてください」とばかりに不自然に明るい……いや、目に痛いショッキングピンクの建物があった。


「あれが暗殺者ギルドだよ」

「暗殺者というか、目立ちやがり屋の集団か、そなたらはっ」


 あまりにも不自然なほど目立つ建物に、シュエは思わずツッコミを入れた。ショッキングピンクに塗られた建物の入り口は、なぜか水色で、これまた目に痛い。その扉がギィっと音を立てて開かれた。一見優しそうに見える細目の男性が姿を見せ、シュエたちに気付くと重々しくため息を吐いた。


「こんな子どもにやぶれたのか」


 苦々しく顔をしかめる細目の男性は、額に手を当ててやれやれとばかりに首を横に振る。


「ボス……」

「え、この弱そうなのがボスなのか!?」


 ひょろひょろとしている細目の男性をまじまじと見つめ、シュエは信じられないとばかりに目を丸くして、細目の男性と黒ずくめの男性を勢いよく交互に見た。


 ぴくりと細目の男性の眉が跳ねあがる。


「人を見た目で判断してはいけませんよ、シュエ」

「ええー……だって、どう見ても強風で倒れそうなヤツではないか! もやしのように細いぞ!」

「も、もやし……」


 細目の男性は口端を引きつらせた。そして、袖の中からなにかを取り出し、勢いよくシュエに投げる。シュエは、扇子を広げてそれを払い落した。


「針、か? 落ちたところの草の色が変色したということは、毒針か。物騒なもんをいきなり投げつけるとは、卑怯では?」


 シュエが呆れたように肩をすくめる。不意打ちの攻撃を防がれたことで、細目の男性が驚いたように口を開けるのが見え、シュエはリーズを見上げる。


「アレも捕らえるか?」

「どうしましょうねぇ」


 ふたりがそんな会話をしていると、一緒にいる護衛と少年がシュエたちに声を掛けた。


「とりあえず、ここが暗殺者ギルドであの人がボスなら、話を聞きたいのですが……」

「おれが狙われた理由を知りたいよ」


 ふたりの言葉に、シュエは小さく「ふむ」と呟き、リーズの背中をぽんと軽く叩く。


 リーズは手にしていた縄をシュエに渡し、彼女に向けて小さく首を縦に動かすと、地面を蹴って一瞬で細目の男性の背後に回り、その身体を縄でグルグル巻きにした。


 あまりにも一瞬のことで、その場にいたシュエ以外の全員が驚いて声にもならないようだ。


「捕らえました」

「ご苦労さま! さぁ、ボスとやら。この場を壊滅させたくなければ、情報を渡すが良い」


 シュエがにーっこりと満面の笑みを浮かべながらそう言うと、それを近くで見ていた黒ずくめの男性が一言、「悪魔かよ」と呟いた。聞こえはしていたが、その言葉を無視していると、リーズが袖から短剣を取り出して彼の首元に当てる。


「なぜあの子を狙ったのか、教えてもらいましょうか」

「秘守義務があるんだが?」


 首元に短剣を当てられても、細目の男性の声はしっかりと芯が通っていた。そのことに意外性を感じ、シュエは感心したように彼を見て首を傾げた。


「わらわたちには関係ない。わけもわからず命を狙われるのも恐怖を感じるもんじゃよ」

「そ、そうだよ! 悪いことなんてひとつもしてないのに、なんでおれが狙われなくちゃいけないんだ!」


 シュエの淡々とした口調。少年の荒々しい悲痛の叫び。まだ生まれて十年くらいの少年が、睨むように細めの男性に視線をやる。


「おかしなことを言う。この世には、恨みがなくても暗殺を望む者は多いというのに」

「……なるほど、あの子が消えることで得をする存在がいる、と?」


 リーズがそう言うと、細目の男性は「さぁ?」と答えを曖昧にする。シュエは肩をすくめてゆっくりと言葉を紡ぐ。


「ならばなぜ、白昼堂々襲わせた? すっごく目立っておったぞ、この黒ずくめ集団」

「それは私も知らん。なんで白昼堂々行ったんだ」


 なんとこのリーダーと呼ばれた男性の独断だったらしい。シュエは呆れたように目を丸くして黒ずくめの男性を見た。彼は視線を明後日の方向に飛ばす。


「私がお前に下した命は、白昼堂々襲うことではなかったはずだが?」

「夜だと見えづらいだろ!」

「え、そんな理由で……?」


 思わず、というように護衛が言葉を発する。シュエも彼に同意するようにうなずいた。そんな理由で白昼堂々襲い掛かってくる暗殺者がいることに、心の底から驚いた。


「ならせめてもっと色を意識しろ! 山だぞ、森だぞ、なんだその黒づくめの服は! 主張が激しすぎる!」

「お主、実は苦労人枠か?」

「シュエ、それは大切なことではありません」


 扇子で自身をあおぎながら、頭の中を整理しつつ感じたことを口にすると、すかさずリーズからツッコミが入った。それはそう、と彼女が視線を泳がせ、一度深呼吸をしてから話を戻す。


「で、誰の依頼じゃ? そなたの言葉次第で、この場を壊すかどうか決めよう」

「そもそもなんで、幻想の魔法が効かなかったんだ……そこのふたりは掛かっていたのに」

「あんな子ども騙し、わらわたちには無意味よ。そして、ここで断言するがわらわとリーズだけでこの場にいる全員に勝てる自信があるぞ。のぅ、リーズ?」


 シュエの問いかけに、リーズは笑顔でうなずいた。

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竜人族の末っ子皇女の珍☆道☆中 秋月一花 @akiduki1001

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