明るい部屋

 ホラーとかお化け屋敷とかダメなんで好きこのんで観たり行ったりしないんですけど、一番怖いのってどんなものだろう、と考えると圧倒的に「何もない」だと思う。

 この作品「明るい部屋」はそういう怖さだった。


 悪魔が大暴れするよりも、人のような人でないものに驚かされるとかよりも、じっとりとした見えない怨念の話とかの方が怖いと思う。


 いわゆる「リミナルスペース」とか画像検索すると震えあがるタイプなので(しかし怖いもの見たさでたまに検索しちゃう)、この話は死ぬほど怖かった。


 最近気づいたことに、怖い話って「オカルトを題材にしたエンタメ小説」とかもあるんだなと。

 怖さにもいろいろある。

 理不尽に痛い目に遭うような話だと、理不尽さという形のない怖さ半分、物理的な怖さ半分、という感じ。


 身体的な怖さを除いた精神的な怖さのみ。「何があるのかわからない」「そもそもあるのかどうかもわからない」「けれどもないとはどうにも思えない」という怖さって逃れようがない。


 この作品に派手な展開は何もない。派手なものは何も見せてこない。ただひたすらに問いかけてくる。「何があると思う?」

 がらんとした広い空間で自分が急に小さくなったような、静かな中で小さな物音が異様に聞こえてくる感覚とか、先の見えない角の向こうに無性に何か気配を感じてしまうとか。

 そういう「気のせい」で済ませられるはずの感覚を一つ一つ詳細に取り上げて、磨き上げて、改めて差し出されることで、読んでいると感覚が敏感になってすべてに反応してしまう話だった。



 そして、読み終わって考えて気づいた。

「何もない」という怖さが本当に効いてくるのは話に没頭している時ではない。読み終わって日常生活に戻ったときだ。なぜなら「何もない」空間なんて日常のどこにでもあるものだから……

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読書と鑑賞の記録 芳岡 海 @miyamakanan

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