第55話 魔と天国は表裏一体

 オコーデンタリス共和国の職人達は、心を折られ、宿舎へ帰る。


 苦境に立たされ、志願した技術交流。

 そこで見た物は、自身達のこだわりを、根底から引っこ抜いてうっちゃり、場外にまで投げられるほどのモノだった。


「なあ、どう思う。あの効率化という魔物」

「ああ、プライドや拘り、そんなモノを入れるなと言われるとはな」

「だが実際、機械により質は良く均一。あの均一さは、手では無理じゃ」


 自国での師弟制度。

 子供の頃から、一子相伝のように守られた技術。

 それが、ここでは基本技術。


 肌にあたりこすれる部分には、縫い代の裏から布を当て、着心地を良くするとか、返し縫いを元まで返す、本返し縫いで丈夫にする。

 用途による、裏生地の選定。

 そんな少しのことが、オーダー品としては技術の差となり、客を掴む。


 だが、当然のように知られていて、使われていた。


 さらに立体裁断。

 型紙。

 足踏みミシン。


 自国では見たこともない。


 糸にしたって、繭により差がある。

 それを、大量に扱い規格というモノで選抜して、望めば同一の物が手に入る。

 これは大きい。


 結局、彼らは基本と特殊技術を習い、自国での服飾はやはりオーダーメイドに特化することに決めた。


 問題は、生産国や製糸をしていた自治国。

 繭や、羊毛をそのまま輸出して、細々と暮らす道を選択した。


 後に、温泉が発見されて、観光国へと舵を切ることになる。



 そんな国々との関わりの中で、パリブス国は重要な国としての地位を固めていく。


 数年が経ち、鉄道が秘密裏に繋がる。

 例の地下道だ。


 メリディオナル王国を除き、一気に地下で国々が繋がった。


 これは、発電とモータの実用が大きい。

 初期は、ワイヤーで駆動する箱だったが、本数が増えると駅ごとで止まる箱と、それ以外の箱もトンネル内で止まるため時間が掛かる。


 本体にモーターを組み込み、トロッコでやった自動制御をそのまま使った。

 コンピューターの介在しない、物理的なスイッチング制御。

 意外とかたちになった。

 予想外なことが起きなければ、問題ない。


「あー。少しは近代化した気がする」

「だな」

「とりま世界は平和になったし」

「それが一番」

 そう最近は、パリブス国内では仕事が多く。

 盗賊など、やっている奴らは消えた。


 自由意志で、仕事が選べるのも大きい。


 国家間の相互協力で、セプテントリオ王国では漁師になる人も増えたし、木造家屋の増加で、オコーデンタリス共和国で林業も活発化してきた。


 クラスメイトは減ったが、子供が出来て、相対的に人数は増えている。


「ここまでで、来てから一〇年。以外とあっという間だったな」

 幾本もの墓標が立つ丘で、今日は生き残ったみんなが集まっている。


 この丘には、サクラのような木を見つけて植えてある。

 いやサクラだろうが、葉と花が同時に出るので、山サクラの系統だろうと誰かが言っていた。


 見つけるたびに、移植してくるので、実桜もあってサクランボも採れる。


 来たときは、三七人。

 ああ先生は、子供も出来て元気だ。


「結局、行方不明も合わせて、半数以上が死んだか」

「そうだな」

「途中の流行病が大きかった」

 結局、連絡が付かないだけで、生きているのかもしれないが、ここに居るのは八人の男子と七人の女子。先生がいるから男九人だな。


「ああ。佐々木 慶子も元気そうだったぞ。子供を見せられたよ」

 そう言う山本秀明も、実は子供がいる。


「パリブス国の歴史書。編纂は進んでいるか?」

「ああ。ぼちぼち。それでだな、面白い資料があったぞ」

「なんだ?」

 秀明が嬉しそうに言ってくるときは、ろくでもない。


「神の奇跡だが、基本は過去に有った超文明の遺跡だ。それがだな、セプテントリオ王国の北方に島があって、そこに遺跡が比較的綺麗な状態で残っているらしい」

「やめろよ。下手にいじって俺達みたいな人間を呼んだらかわいそうだ」

「そうだな、人間なら良いが、魔王みたいなのを呼んだら、せっかくの平和が終わっちまう」


 会話をしていたのは、俺、神野裕樹と樋口雄一そして、山本秀明だったが、過去に子供を三人同時に作って逃げた馬鹿、榊原慎也はその島にいた。


 生活のために、出稼ぎに来ていたようだが、その島には宝があると聞いて、上陸をした。

 宝というのは、遺跡だ。


 おバカな奴は、言葉の通り、金銀財宝だと思ったようだ。


「ようーし、帰りの燃料はまだある」

 そう言って、ウキウキしながら上陸する。

 だが、みんなが宝があると言っているのに上陸してこない、その意味などは考えなかったようだ。


「おおっと、遺跡発見」

 ワクワクしながら、まともな武器も持たず、遺跡へと入って行く。

 装備と言えるのは、漁師の必需品。ナイフ一本。


 門らしき所から中へ入ると、ストーンヘンジっぽい石柱が立つ広場に出る。

 太陽でも表しているのか、地面にも八方に真っ直ぐな石柱が埋められている。


「うわっ、なんか、昔写真で見たことがあるな」

 そうして、キョロキョロして、下へでも降りるところがないかと探す。

 するとだ、階段ではなく、額に角が生えたヒョウのような生き物がやって来た。

 慎也が見た瞬間には、腹を刺されていた。


「げっ。ちくしょう」

 一応反撃して、首筋にナイフを突き立てる。


 意外と弱かったのか、たまたま急所だったのか、それだけでそいつは動かなくなった。

 だが慎也も、丁度肝臓付近の、大きな血管でも傷つけたのか、血が止まらない。

 めまいがし始め、疲労感や息切れがし始める。


「あちゃー。お父さんドジッちゃった。ごめんよ。亮、真衣、里奈……」

 そこまでで、力尽き、母親達三人、鈴木 友美、松田 智子、渡辺 綾香の名前は残念ながら呼ばれなかった。


 そして、この世界ではあまり見かけない獣と、慎也の血は混じり合い、地面に吸い込まれていく。


 壊れていた感じの神殿だが、光を発し始める。


 それが収まった後、結構、痛そうな格好をした男が一人。

「我を呼び出し、誰もおらぬとはどういう事だ?」

 周りを見回し、何の革で造られているのかわからないが、マントを翻す。


 その時、コンティニアス大陸側でも、光が見えて大騒ぎとなった。

「おいおい」

「北だぜ。お前フラグ」

「わりい」


 

--------------------------------------------------------------------

 さて、コンティニアス大陸では、これからも波乱が起きそうですが、召喚されてからの騒動は何とかなったようです。

 平和にもなったし、これで、裕樹達の話は一応終了です。


 現れた奴は、何者でしょうね?


 気になるところですが、では。

 お読みくださりまして、ありがとうございました。m(_ _)m


 こそっと。男と女、恋愛集。短編。の共用社会で公開します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

集団転移から始まる、非現実な日常。-人間死ぬ気になれば、何とかなるかもな。- 久遠 れんり @recmiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ