第54話 パリブス国の宣言

 そんな宴会を繰り返し、決められたパリブス国の決まり事。


 発表を受け、各国はその書面で驚く。


 一、パリブス国は、王からの権利を剥奪。民主共和国として新たな歩みを始める。

 二、パリブス国は、技術、教育において他国にも門戸を開く。

 三、パリブス国は、望まれれば、武力を供与する。

 四、パリブス国は、自由と平等を基本理念として、それを侵すものは他国といえど許さない。

 五、王位は、世襲によりこれを継続をする。


 等々。全二〇の条項について、記述されていた。


 そんな中、下位の方ではあるが、しっかりとパリブス国は、誰に対しても退かぬ、媚びぬ、省みぬ。が明記されていた。


 顔を引きつらせる他国の中で、独立自治領を治めている、佐々木 慶子はそれを見て笑い始める。アルトゥロ男爵はそれを見て驚く。

「どうしたんだい? その決意文に、何か面白いところがあったのか?」

「ええ。真面目そうに見えて、ふざけているわ。これは、漫画のいいえ、物語の台詞ね」

 指し示すのは、みんなが恐れた文面。


「これが?」

「主人公に、負けそうになった敵が言った言葉。他にも探せばあるかも」

 嬉しそうに、条文。この世界では宣言文と言うらしい。

 それを抱えていく。


 だが予想に反して、お巫山戯はそこだけだったようだ。


「だけどそうか、民主共和制ね。一応王は残して、しばらく様子見…… かあ。正当な流れで、進めているのね。さて、うちはどうしよう?」

  慶子は思考に没していく。


 パリブス国では混乱の最中、西側にあるオコーデンタリス共和国から連絡が入る。


 元々、羊を飼ったり、蚕を飼ったりしていた小さな国と、製糸に特化した小国。

 生地や反物を生産していた小国。

 そして、縫製に特化し、大陸中からオーダーを受けて成り立っていた国々が、オコーデンタリス共和国だ。


 お互いに、得意分野には手を出さず、協定を結んでいた。

 だが、そこへやって来た、パリブス国からの製品。

 ある程度の大きさで作られた、既製服という概念。


 今まで、裕福な市民が、一生のうちで一回か二回作れれば良い方だった、新品の服。

 それが、破格値で入って来た。


 体に合わせて、職人が数ヶ月掛けて作る服は確かにいい。

 だが人の体型は変わる。


 一気に、市場は荒らされた。


 当然服だけではない。

 人の手で紡いでいた糸も、パリブス国では機械で紡ぐ。


 羊も、毛を刈るだけではなく、食用にもまわしているし、毛に関してもオコーデンタリス共和国が洗浄をしても綺麗にできず、一部の毛は廃棄していたが、パリブス国では洗剤と洗濯機により、ほとんどロスが無い。


 

 綿花もそう。

 オコーデンタリス共和国は手摘み。

 方や機械。

 それも、時期をずらして植えて、年がら年中採取。

 また、オコーデンタリス共和国は知らなかったが、摘芯てきしんと言って、茎の先端部分を摘み、植物の成長を止めて、より多くのコットンボールを収穫していた。


 機械化と知識。

 まさに無敵状態。


 そこで、先日送った宣言文。

 そこに書かれていた、一文。

 『パリブス国は、技術、教育において他国にも門戸を開く』

 ここに目を付けた。


 そして許可取りから、派遣まで流れるように話が決まった。


 そこで意気揚々と派遣されてきた、既得権益を守ろうとしていたじじい達は、心を折られることになる。


 土作りから、まず違う。

 植物の品種改良?

 環境作り?


 すべてにおいて、無知だったことを教えられる。


 種をまき、与えても水くらい。

 後は、お日様が育ててくれる。


 それが知っているすべて。


 だが、パリブス国では謎の言葉。

 科学と化学。自然を相手にすべてを任していた年寄りには理解できない。

「こんなモノ、錬金術ではないか?」

「酸とアルカリとは何だ?」

「浸透圧?」

 まだ、概要の説明段階でこれである。


 羊の生産現場では、流れ作業で刈られていく毛。

 バリカンの威力を見て驚く。

 なれた人間でも、鋏やナイフで羊を怪我させていた。


 そしておとなしく、順番を待つ羊たち。

「こいつらみんな、魔術師だ。獣使いがいるんだ」

 そんな言葉が出てくる。


 そして、ジンギスカンとビールで喜ぶ、研修生達。


 次は、製糸段階。


 人は確かに居る。

 だが、大部分は機械。


 デニール単位で、分けられていてドンドン糸が巻かれている。

  基準である九千メートルで一グラムの糸、それが一デニール。

 つまり同じ長さで重い、イコール太い糸となる。


 それが送られ、染色されて、その後布となっていく。

 当然すべてが機械。


 縫製では、型紙とミシンが活躍していた。

「えーこの型紙が、すべての基本です。基準となるサイズで服を作る為にはこの型紙が無いと駄目です」


 目の前で作られていくパーツ。

 それが次々と送られ、気がつけば服になっている。


 そうライン生産。

 根本の考え方が違う。

 一から丹精を込めて作り、最後にできあがった物を見て達成感を得る。

 それが職人としての喜び。

 だがここには、そんなモノは無い。

 日々数字。


 その日に決まったパーツをきっちり作り、ミスがないこと。求められるのはそれだけ。


 その違いに、オコーデンタリス共和国の職人は愕然とする。


「こんなモノ。職人としてのこだわりや、喜びは? どこにあるんだ」

 焦ったように、担当者に聞く。


「そんなモノ。仕事の中へ入れないでください。ジャマです。決まったモノを決まっただけミスなく作る。それがすべてです」

 だが担当者は、キラッとメガネのレンズを光らせ、呆れたように言ってくる。


「そんなモノだと……」

 その言葉で、とうとう膝をついてしまった。


 工場という魔物。

 そこに個人の、職人としてのこだわりなどない。

 あるのは、数字。それのみ。

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