最終話:希望
「もし、もっと早くあの桜を伐っていたら、君はいまでも隣にいたのかな」
入道雲の見える丘に、それはある。
「私、これから君の影を追いながら、ずっと一人で生きてもいい?」
いつぶりかのお墓参りは、まだ時薬の効き目もないまま。
「あ、一人ではないか。君の妹と、その大事な人も一緒だよ」
ひまわりなんてお墓っぽくないけど、君はきっと喜ぶから。
春色の君は、いつだって夏の風を纏っていたね。
海が好きで、綿菓子が好きで……。
「芳乃ちゃん、去年の今頃に結婚式を挙げたんだよ。すごく綺麗でね、本当に幸せそうだった。今でも彼と二人であの廃校に住んでるんだよ」
式ではご両親を差し置いて私が一番泣いてしまったくらいだ。
そう、ふたりは自分たちをこんな目に合わせた田舎から出ていかなかった。
地元愛だとか、望郷だとか、そういったものではないのだと思う。
文字通り、何かを新しく築き上げようとでも言うように生きている。
私が半ばでっちあげた仮説により、人々はいともあっさりと桜を伐ることを許した。元々あの人たちのものなんかじゃないんだけども。
これからあの街に住む人々は、桜を忌み嫌うようになるだろうか。
春先にあの独特な色を見る度、私は複雑な気持ちになると思う。
それでもやっぱり、どこかでは大切な思い出として残っている。
「返事くらいしてよね……なんて、無理か」
「もう、クロスワードはいらないね」
「!?」
幻聴?喜んでもいいのかしら。
「澄春……私もね、澄春のことが大好きよ」
ひまわりが風に揺れる。
蒸し暑いはずの今、ふわりとあたたかい春の風。
もし不思議なことがあるのなら、これもそうなのだろう。
いつかこの世の不思議すべてを解明出来たら、もう一度あなたに会いに行きたい。
それが私の、私たちの新たな希望の種だ。
さかなマーチ 海良いろ @999_rosa
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