朝日の糞
ひんやりとした感触が気持ちのいいベンチに座り、僕はぼんやりとガラスの外に覗く爽やかな夏空を眺めていた。
耳には万雷の拍手が残響していて、数時間前の出来事がまるで夢物語かのような気がしている。
「あの、久瀬朝日さんですよね? 今日、一番目のペアの伴奏者を担当していた?」
「あ、はい。そうですけど……」
「そ、その、私、あの演奏きいて感動しました! えと! お願いします! 握手してください!」
「えーと、構いませんよ。僕なんかでよければ」
「わぁ! ありがとうございます! 一生の思い出にします! これからも頑張ってください! 私も頑張ります!」
いきなり知らない女子に声をかけられ、さらに握手を要求された。
地味で丈の長い制服を見る限り、おそらく中学生くらいだろう。
初心な女子中学生の手を、この毎日糞で塗れている僕が触れるのはなんとなく悪いことのような気がしたけれど断るわけにもいかない。
それに今日の出番が終わった後に八回くらいは手を洗ったので、いつもよりはましなはずだ。
何度も僕の方に頭を下げながら去って行く名も知らない少女を見送りながら、中身が空になって浮雲のようにフワフワと浮かぶ心の行き先を思う。
第一回郡司壮真バレエ・ピアノコンクールは無事に終了した。
あとはもう帰路に着くだけなのに、僕はいまだに動けないでいる。
ベンチの右側にはリュックサックが置いてあり、左側には僕と郡司真結衣の名前が記された賞状が置いてある。
そのおかげか僕に祝福の言葉をかけてくれた人も、先ほどの少女が初めではない。
サインなんか生まれてこの方書いたこともないのに、要求してくる人もいた。
こんなに赤の他人にちやほやされるのは久し振りなので、また調子に乗ってしまいそうだ。
ちょうど八回繰り返されたモーツァルトのレ・プティ・リアン。
演奏終了後は一目散にトイレに逃げ込んだせいで、幾つかのペアのパフォーマンスは見逃してしまったけれど、郡司真結衣が言うには僕より上手く弾いた奴は一人もいなかったという。
彼女は僕にありがとうと言った。
なのに僕はまだ彼女にお礼を言い返せていない。
だから僕はここで自分のパートナーを待っている。
彼女に僕はありがとうと言いたかったから。
「おい」
するとふいに威圧的なバスの音色が聴こえる。
窓の景色に向けていた視線を横にずらせば、そこにはシックな礼装姿のままの菖蒲沢がいた。
彼もまた僕と同じ様に賞状を片手に持ったまま、真っ直ぐな瞳をこちらに注いでいる。
「どうも。お疲れ様。そしておめでとう」
「うるせぇな。嫌味かよ」
せっかく素直に祝福したというのに、予選の時と同様に菖蒲沢は僕の言葉を一瞬で切って捨てる。
相変わらず嫌な奴だ。
仲良くはなれそうにない。
そして僕のチャーミングな顔を見て満足したのか、彼はそのまま踵を返してしまう。
「次は負けねぇからな、久瀬」
強い響きを持った言葉を残し、菖蒲沢は振り返ることなくホールの外に消えていく。
この前は二度とピアノを弾くなとか言っておいて、今度は僕の意志を確認すらせず勝手に次があると決めつけている。
まったく意味の分からない奴だ。
でもあいつが僕のことをウンコクセと呼ばなくなったことに免じて、寛大な僕は彼のことを許してやることにする。
菖蒲沢圭介というピアニストの存在にずっと気づかなかった僕に、きっとあいつは苛立たしさを感じていたのだろう。
そこには少しばかり僕の方にも非がある。
それに何より、もう一度同じ舞台で彼と共にピアノを弾きたいのは僕だって同じことだ。
嫌な奴、いや負けたくない奴と書いてライバルと読む。
僕にとって菖蒲沢は間違いなくそんな存在だった。
「あー! いたー! 久瀬朝日いたー!」
菖蒲沢の背中が見えなくなってからしばらくすると、今度はボリュームの調整が狂っている声が僕にぶつけられる。
僕の座るベンチの方に向かって歩いてくる四つの人影。
そのうちもっとも小さな影が一足先にこちらまで辿り着き、兎みたいにぴょんぴょんと跳ねながら僕の手を取り振り回した。
「いぇーい! 久瀬朝日! 凄い! 凄かったよ! キミの演奏! うち、感動した! もう感動しまくり! さすが真結衣っちの選んだ伴奏者だね!」
「あ、ああ、ありがとう。梶さんのバレエも予選に続いて凄かったよ」
「まあね! うちって天才だから! でも今はうちの話はいいの! 久瀬朝日が凄いって話しようよ! 久瀬朝日のピアノを聴いたときの圭介の顔見せてあげたいくらいだもん!」
梶乙葉。
僕より三つも年下の若きバレエ姫は、宝石みたいに瞳を輝かせて僕の手を振り回し続けている。
着替えも済まさずによく回る舌で喋る彼女の声は、いつもと変わらずに鼓膜に少々刺激が強い。
「やめなさい、乙葉くん。ピアニストの手をむやみやたらに触るものじゃないよ」
「あー! たしかに! ごめんなさい真結衣パパ!」
「謝る相手は私じゃないだろう?」
「そうだった! ソーリー! 久瀬朝日!」
少し遅れて、見知った三人が僕のところまでやってくる。
暴れる梶を諌めたのは今日のコンクールの審査委員長でもある郡司壮真。
血が通っていないのかと疑うほど蒼白い肌をした痩身で、僕の方を値踏みするかのような目で見降ろしている。
僕の父を蔑むような発言をしたこの人のことは、正直言って今も苦手だ。
でも彼が僕に謝罪することは、少なくとも今日ではない。
なぜなら僕は約束を、守れなかったからだ。
「改めておめでとう。コンクール“第二位入賞”、久瀬朝日くん」
郡司父は特に表情も変えずに、冷たくそう言い放つ。
僕の左横に置かれた賞状。
それはコンクールの頂点に立った者に与えられるものとはまた別のものだった。
「もちろん表彰式の講評の際にも言ったが、“演奏者”としてなら君は今日ピアノを弾いた中でも群を抜いて素晴らしかった。正直に言って驚いたよ。君の演奏には作曲家へのリスペクトの欠片もなく、まるでコンクールのセオリーを無視した身勝手な演奏だった。……それにも関わらず、そのマイナス点をリカバリーするどころか、まるで気にならなくなるほどの圧倒的な表現力。こんなことを言うとどこかの偉い人に怒られるかもしれないが、一瞬君はモーツァルトを超えていた」
すでに賞状等を授与される時に聞いた話を、僕はもう一度聞かされる。
演奏者としてなら文句なしで一番ではあるけれど、伴奏者としてはそうではなかった。
そう。
僕のピアノは、パートナーである郡司真結衣を置き去りにしてしまったのだ。
「しかしこれは“バレエ・ピアノコンクール”だ。あくまでバレエとピアノの調和性、総合点を評価させてもらう。うむ。そうだな。簡単にいえば君のピアノのレベルに、真結衣が付いていけなかった。バレリーナが足を引っ張ったせいで、伴奏と踊りに乖離が生まれ、多少の歪さが見えたんだ。むろん、君の演奏だって完璧だったわけではないがね。中盤以降は解き放たれたが、序盤に固さと息苦しさがあったよ」
結局自己中心的なのは僕の方で、そのせいで優勝を逃してしまった。
どんなに演奏を褒められても、どこか心の底からは喜べない。
郡司真結衣のバレエは、予選の時以上に美しいものだった。
本当は僕が彼女に合わせるべきだったのだ。
「ただ、これがピアノコンクールだったら間違いなく君が優勝していただろう。……だから私は、君との約束をここで果たしてもいいと思っている。私が間違っていたことを認めよう。どうする?」
僅かに口端を上げて、郡司父は僕を試すように見つめる。
僕に頭を下げて、謝罪しても構わないと口にしている。
でも、当然僕の返事は決まっていた。
僕の正しさを証明するための機会は、きっとこの先も沢山あるはずだから。
「いえ、結果は結果です。約束は“まだ”守らなくても結構です。今日は本当にありがとうございました」
「そうか。そうだな。君ならそう言うと思っていたよ。やはり私が間違っていたようだ。“久瀬”はいい息子を持った」
銀縁眼鏡の奥の瞳を細め、郡司父は微笑む。
そして彼は梶の肩を軽くと、僕の向こう側へ歩いて行く。
「それでは私はこの辺りで失礼させてもらうよ。後始末が忙しくてね。ほら、乙葉くん。君も来なさい。ご両親がお待ちだ」
「ねー! 約束ってなに! 真結衣パパと久瀬朝日! なにを約束したのー!?」
「男同士の約束さ。……それではまた舞台の上で会えることを楽しみにしているよ、朝日くん」
飛び級ながらもコンクール優勝をさらっていった若き天才バレリーナを連れて、郡司父は僕から遠く離れていく。
だけどいつの日か、あの細身な背中に追いついて見せる。
たとえそれがどれほど遠くにあったとしても。
僕らはピアニストで、音楽家だ。
白塗りの壁に覆われた個室に籠らない限り、道はいずれ交わる。
「ういーす久瀬、おつかれ。今日のあんたのピアノは悪くなかったよ。ちゃんと曲を弾いてた」
「ありがと小野塚。できれば僕の優勝してる姿をみせたかったんだけどね。なんか小野塚がいると僕、いつも二位になっちゃうんだ」
次に僕に声をかけてくれたのは、心なしかアルトが跳ねている小野塚だった。
髪を切ったおかげで、綺麗なヘーゼル気味の瞳がよく見える。
いつものボサボサの前髪から隠れるのを止めた彼女の顔は案外整っていて、真正面から目にするのはなんとなく気恥ずかしかった。
「わざわざ僕の応援に来てくれたのに悪いね、期待に応えられなくてさ」
「べつにいいよ。そもそも久瀬の応援じゃなくて、真結衣の応援だし」
唇を尖らして、小野塚はそっぽを向く。
変なところで意地っ張りな彼女は、時々こうやって歳相応の可愛らしさをみせる。
「それにあたしもまた隣りに立ちたいと思ったし」
「また隣りに? 郡司さんの伴奏者やったことあるの?」
「……ばーか」
なぜかちょっと頬を桃色に染めている小野塚は、やたらと楽しそうに笑っている。
どうにも今日は機嫌が良いようだ。
普段からもっと笑うようにすればいいのにと思った。
今更気づいたけれど、彼女は笑顔がよく似あう。
「それじゃ、あたしはもう行くわ。……久瀬、いま真結衣、珍しくまじセンチメンタルだから。告るなら今だよ。上手くやんな」
「なっ!?」
ふと耳元に顔を近づけたかと思うと、小野塚は心臓に悪い台詞をいきなり吐く。
悪戯な表情を浮かべたまま、そして彼女はさっさと去って行った。
髪型が変わっても糞みたいな性格は変わっていないらしい。
「終わっちゃったね、コンクール」
「うん。終わったね、コンクール」
最後に残ったのは、いつもより控えめなメゾソプラノを響かせる僕のパートナー。
郡司真結衣。
若干俯きがちな彼女はベンチに置かれた賞状を手に取ると、静かに僕の左隣りに腰を下ろす。
「負けちゃったね、コンクール」
「うん。負けたね、コンクール」
互いの視線は合わせずに、途切れ途切れの会話を紡ぐ。
もし今から三か月前、郡司真結衣が僕をコンクールに誘ってくれていなかったら、今頃僕はどうなっていただろう。
考えただけで怖ろしくなった。
「郡司さん、本当にありがとう」
「それはこっちの台詞だよ。ありがとね、久瀬くん」
僕は郡司真結衣に感謝していた。
彼女は僕の想い人で、僕にとって誰よりも可憐なバレリーナだった。
そんな彼女と過ごした時間はどれもかけがえのないもので、その全てが星屑のように輝かしい思い出。
「でもごめんね、私のせいで優勝逃しちゃった」
「そんなことないよ。僕がもっとうまく弾ければよかったんだ」
「それ、本気で言ってるの?」
「もちろん。僕はいつだって本気だよ」
郡司真結衣は疲れたように笑う。
彼女が謝る必要なんて何一つない。
元々、僕が便器の上以外でピアノを弾ければ、もっと二人で合わせる練習だって積めたはずなんだ。
それなのに僕の情けないお腹のせいで、その機会を逃してしまった。
彼女はずっと僕にとって太陽だった。
理想だった。
だから僕がもっと強くなるべきだった。
もっと早くに。
「そっか。久瀬くんは、強い人だね。羨ましいよ」
「僕が強い? ……それはきっと違うよ、郡司さん」
朝に僕が彼女に言ったように、彼女は僕のことを強い人だと言う。
でもそれは間違いだ。
もし間違ではないとしても、彼女は一番大事なことを見落としている。
「僕は強くなんてないよ。かりに今の僕が前とは違ったとしても、それは君のおかげなんだ。君だよ。郡司さん。君なんだ。君が僕を強くした。僕、君のために強くなったんだ」
俯かせていた顔を上げて、郡司真結衣は驚いたように僕を覗き込む。
僕がまたピアノを弾けるようになったのも、始まりはたった一人の少女のお願いからだ。
自分のために弾くピアノ、家族のために弾くピアノ、誇りのために弾くピアノ。
僕がまたピアノを弾くようになった理由は沢山あるけれど、一番初めは眩しくらいに美しいクラスメイトのためだった。
舞台の上で僕がピアノを弾く時はいつも、君がいた。
「僕、君のことが好きなんだよ、郡司さん」
下痢便並みの勢いで飛び出た決定的な台詞。
訪れた沈黙が耳に痛い。
聴こえるのは自分の心音だけ。
僕は郡司真結衣に告白してしまった。
「……そう、だったんだ。気づかなかった」
「え」
予想とは少し違った答えを返す彼女の方を見てみれば、どうにも本気で驚いているようだ。
口を半開きにして、耳まで赤くして瞬きを短い間隔で繰り返している。
信じられない。
本当に気づいていなかったのか。
自分で言うのもなんだが、どっからどう見ても郡司真結衣に惚れてる系男子だったと思うのだけど。
「あの、それって友達としてって意味じゃないよね?」
「えと、その、はい。うん。そうです。その、異性として」
「だよね。あ、ありがとう。私、あの、嬉しいです」
「ほら、その、郡司さんって凄くいい声してるから」
「声? そう、なんだ。声を褒められたの初めてだよ」
「あ、うん」
いつも飄々としている印象の強い郡司真結衣が珍しく照れている。
意外に鈍感なところもあるらしい。
なんとなく拍子抜けした僕は、告白する前より落ち着き始めてきた。
それにしてもこれどうなんだろう。
とりあえず女の子は褒めておけとかいう、あいつのアドバイスも一応生かしておいた。
しかもちゃんとあいつの言う通りオリジナリティも抑えてある。
もしかして案外いけちゃったりするのだろうか。
「……でも、ごめんなさい。今の私は、久瀬くんの想いに応えられない」
「あ、ですよね」
とちょっと期待を持ちだしたところで、普通に僕は振られた。
ごめんなさいプラス想いに応えられないと来た。
どんなに頑張って難聴振りかざしても現実からは逃げられない。
どう考えても振られている。
告白は失敗したのだ。
「ちなみに、いつぐらいから私のこと好きだったの?」
「あー、わりとけっこう前から」
「そう、だったんだ」
郡司真結衣は遠慮がちに止めを刺す。
なんだか無性にピアノを弾きたい気分だった。
一ヵ月前とは違って今なら、かつての恋人を想って作曲したとされるショパンの舟歌を上手く弾ける気がする。
「じゃあ、私そろそろ行くね」
「あ、うん」
じわじわと心にダメージを受けている僕の横で、ゆっくりと郡司真結衣が立ち上がる。
両手を胸の前で合わせて何かを思案するような彼女は中々動かない。
コンクールが終わり、夏が来た。
彼女はオーストリアに行ってしまう。
たぶんもう会えない。
「久瀬くんは私の期待に応えてくれた。でも私はまだ久瀬くんの期待に応えられない。だから私、頑張るね。久瀬くんに相応しいバレリーナになる。やっぱりオーストリアに行くことにして正解だった」
落ち込む僕に少しだけ申し訳なさそうにしながら、郡司真結衣は優しく微笑みかけてくれる。
交差する僕らの目。
彼女の瞳に映る僕は、僕の知っている僕より輝いて見えた。
「久瀬くんは私の理想になったんだよ。だから待ってて。私、絶対に追いついて見せる。今度は私が久瀬くんの期待に応える番。……次会う時は、きっと久瀬くんに応えてみせるから」
待っていて欲しい、そんな言葉を最後に郡司真結衣は走り去って行く。
僕らのコンクールは終わってしまったけれど、夏が来た。
彼女はオーストリアに行ってしまうけれど、もしかしたらまた会えるかもしれない。
「いやぁ、綺麗に振られてしまいましたね。でもアサヒさんにしては頑張った方なんじゃないですか。火事場のクソ力という奴ですかね。最後の最後でなけなしの勇気を振り絞ってちゃんと想いを伝えたことは評価しますよ」
右隣りに置いたリュックサックの中からいきいきと唄うソプラノを聞き流しながら、僕もまたベンチから立ち上がる。
ポリ袋の中は息苦しそうだなと少しだけ思ったけれど、よく考えたら排泄物に酸素は必要なかった。
きっと“彼女”は宇宙空間でもペラペラと喋り続けるのだろう。
「でもこの大一番で二位とる辺りがまさにアサヒさんって感じですよ。生まれながらのうんこです。まあうんこしながらピアノを弾くとか、ぶっちゃけ反則行為すれすれですけどね。順番が後のピアニストの方は匂いとか気にならなかったんですかね? それとも何週間もかけて一番アサヒさんの尻にフィットするオムツを探したのが功を奏したのでしょうか」
もうここに用はない。
僕もまた他の皆と同じように前に進むことにする。
コンクール会場の外に向かって、足を一歩踏み出していく。
「そういえばオムツって燃えるゴミなんですか? 私、いつも水に流されているので、燃やされる経験がないんですけど、大丈夫なんですかね? うんこのアフターケアとかちゃんとしてくださいよ? ああ、怖いな。というか捨てなくていいんじゃないですか? 告白失敗の思い出として額縁に飾っておくとか――」
――ごそごそという大袈裟な音を立て、うるさく喋り続ける彼女をリュックサックから取り出し、ホールの外にあった燃えるゴミにポリ袋ごと捨て去る。
たぶん僕の頭はおかしいのだろう。
でもこの異常がなくなってしまう時、少しだけ寂しい気持ちになるのもまた確かかもしれない。
「うるさいよ。本当によく喋るうんこだな」
燦燦と照りつける太陽の下、ずっと外で待ってくれていたらしい三人の家族へ向かって手を振る。
気づけば知らない間に姉からラインが来ていた。
今日の晩御飯はカルボナーラにして貰うよう頼んでおいてくれたという。
夏蝉の鳴き声は耳障りで、あの煩わしいソプラノの方がましだなんてちょっと思ってしまう。
僕はこれからもきっとピアノを弾き続ける。
よく喋る君と一緒に。
いつか君の声が聴こえなくなる日が来るとしても、それでもやっぱり僕はピアノを弾き続けるんだろうなって、そう思った。
(了)
七月は僕の糞 谷川人鳥 @penguindaisuki
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