【短編】君の花は可憐に散っていった。

白崎 奏

花は可憐に、ある日切なく散っていった。

本当にあいつは嘘つきだ




亡くなってしまった幼馴染を前にその言葉しか出てこなかった。



目の前にある一つの彼女の写真。

それを見つめ、周りの弔問客は皆涙を流していたのだろうか。



俺の脳内にはただお坊さんがお経を唱えている声だけが響いていた。



一昨日彼女が亡くなったと知ってから何も頭が回らなかった。

ただ現実を飲み込めないまま、彼女の棺を見つめ、

そっと涙を流した。



ふと目を瞑ると彼女との色んな思い出が浮かんでくる。


例えば夏祭りとか……




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「天翔!早く行こうよ!」




そう俺の名前を叫んだのは幼馴染の夜神 世界だ。


成績優秀、顔も良いと稀に見ない高スペックだ。


だが唯一、生まれつきの持病がある。


あまり詳しくは聞いてないが、運動は出来ないらしい。


それで成績優秀とはどれだけ筆記試験やレポートがすごいのか俺には理解できない。




対して俺はというと、


成績は低い。


世界と同じ高校に入ったが、世界に勉強を教えられてなかったら入れなかっただろう。


ゲームが好きなのでよく、家で世界とやったりする。


まあ、そうのんびりと高校生活を満喫していた。






「ちょっと待って」








夏祭り、俺は毎年のように世界にせかされながら、服を着る。

夏はいつも着ている白いTシャツを着ると部屋の扉を開ける。

階段を急いで駆け降りると、


ドアの前で少し不機嫌になった彼女を見つけて、申し訳ないという気持ちもありつつ

目の前で靴を履いた。



何も言わぬまま彼女はドアを開けて歩き始めた。

俺も後ろをついていく。


少し歩き始めた時、

「何か言うことは?」




世界がいつの間にか少し怒っていた。


そしてすぐ、1つ気が付いたことがあった。




「浴衣似合ってるね」



今日の彼女は浴衣だった。


シンプルなひまわり柄のものだった。


俺の印象だと彼女は黄色のイメージが強い。


現に彼女はその色が一番好きだとか。




「遅い」




「ごめん」




「無理。マナーでしょ?」




彼女は不機嫌のようだ。

ただ言い忘れただけなのに…そう思いつつ俺は彼女の後ろをついていく。



「それに何分待たせてるのよ……」


「ちょっとだけじゃん……」


「何をしてたのよ…」




そう呆れた彼女の声も聞こえた。


俺は申し訳なさそうに彼女の後ろを歩き続ける。




「ごめんって」




もう謝るしかないと思った。


彼女が不機嫌の時はそうすればいいと思ってる。




「はあ…」




そう日常的な事が起きつつ、そのまま夏祭りがあるところに着いた。




「最初に何しよっかな…」




彼女がそう周りを物色するかのように見渡す。


毎年大量に人が押し寄せてくるので、その分たくさんの屋台が置かれている。




「あれからしたら?」




俺が金魚すくいの方を指さす。


だが何もなかったかのように反対側にある輪投げの方へ向かっていった。


不機嫌な彼女は話すら聞いてもらえないのか。




「ね、夏祭りくらい許して…」




このままだと埒が明かないし、せっかくの夏祭りを棒に振りたくなかった。




「…そうね…」




何か肝心なものに気が付いたかのように目を見開いて、


そして俺が指した金魚すくいの方向に向かった。




「天翔、取って!」




お金を俺に渡すと同時に、すごくかわいらしい表情でお願いしてきた。


まあ、断る気もないので素直に受け取る。




「やった!」




もう取った気でいるようだが俺はそんなにうまくない。


毎年金魚すくいは恒例のごとく俺がやる。


そして金魚は世界の家に飼育されるのだ。


すでに結構な数が居るのだがそれでも欲しいのだろうか。




「取れるかな…」




あんまり圧をかけてほしくないなと思いつつ、


俺は腕まくりをしてポイを改めて握る。




お椀にあらかじめ水を入れて少し沈める。


そして近くに居る金魚にそっとポイを近づける。


触れるのは持ち上げる一瞬だけ…




そう考えてきたやり方は毎年のように通用し、今年も通用した。




「すげええ」




世界が喜びつつこっちをキラキラした目で見つめてくる。

俺はどうすることも出来ず何匹か捕まえた。


周りの人も感心したようにこっちを見ているが俺は気が付かずに夢中で取っていた。




結局もらえるのは最高3匹ということで3匹もらった。


横で吊り下げている彼女はずっと金魚達を見ている。




嬉しそうに見ていると俺もうれしくなってくるのは仕方ないだろう。




その後も色々な屋台を巡った。


りんご飴とかたこせんべいとか、あるあるなものを今年も食べた。


世界は案外そういうものが好きなので俺が食べきれなかったら全部食べてもらっている。




「夏祭り楽しい!」




大体の屋台を周り、そろそろ締めの花火と言ったところだ。


場所取りも済ませて待機していると、世界は喜びながら俺にそう言った。




「そうだな」




「花火楽しみだなあ…」




何か感慨深いものでもあるのか、少し遠いような目で空を眺めていた。


気軽に何かあるの?とは聞けない状況で、


ただ俺は何も見ていなかったふりをして待っていた。




するとすぐに花火の上がる音がして、


キレイな花が空に打ち上げられていた。




「天翔」




彼女に呼びかけられて、俺は世界の方を向く。




「お誕生日おめでと!」




この夏祭りの開催日、8/27は俺の誕生日でもあった。


俺の家は誕生日を祝うことがないので、あまり意識しても居なかった。




「ありがと」




俺はうれしくて、笑顔でそう返した。


その後会話が続くこともなく、


ただ世界が何度か何かを言いかけていた声だけは聞こえた。




「きれいな花火だな…」




そう彼女は声を漏らした。




「そうだな…」




俺も何か吸い込まれそうな花火を眺めていた。










花火も終わり、特にすることもないので俺たちは家に帰る。




「楽しかったな」




毎年夏祭りという慣れた光景ではあるが、


何度も楽しいと思えるイベントでもあった。




「そうだね!」




横を向くと彼女は笑顔で歩いているのが分かった。


だがそれの顔は何か少し悲しさをも感じられるようにも見えた。




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「天翔!早く行くよ!」




大体のイベントごとは彼女の呼び出しから始まる。


そして相変わらず俺は遅れてやってくるのだ。




「ごめんごめん」




そう言って俺は靴を履き外へ出る。




辺りは一点雪景色だ。


もう季節は冬となり、今日は正月という新年最初の行事だ。




「あけましておめでとうございます」




俺は深々と彼女に礼をする。


そして彼女も返すかのように礼をして、




「あけましておめでとうございます」




そう返した。




毎年この季節となると最初にやることはやはり、


初詣に行くことだろう。


今年もやはり行くのだろうと思い、朝から起きていたら世界がピンポンを押した。


特に予定を前から決めているということの方が少ない。


大体はもうあるようなもので片付けられている。




「今年ももうこんな季節か…」




「そうだね…去年の受験が懐かしいや」




去年の今頃は初詣には行ったが、それ以外の日は大体彼女付きっ切りで勉強だった。


何よりも苦痛だけど彼女の期待に応えたくて頑張った。




そんな時期ももう去年だ。






「今年は何をお祈りしよっかな」




電車の中でそう言った。


初詣の時は少し遠い、人気のある神社に行くと決まっている。


今年も例外ではなく、電車で移動中だ。




「去年は受験…今年はなんだろ」




あんまり考えていなかったが、1つだけある。


だがそれは本人の前では言えない事だろう。




「ないかな」




嘘をついた。


だがこれは大事な嘘だ。




「無いなあ…」




彼女はすごく考え込んでいた。


まあ年に一回神様にお願いを出来る日だ。


何か大事なことを決めるのは大切だと思う。






電車が駅に着き、少し歩くとお目当ての神社が見えてくる。


鳥居の周りにはたくさんの人が居る。


相変わらず人気の神社と言ったところだろう。




「さて行きますか…」




俺はそう言って鳥居をくぐった。


まずは干支の神様にお願いをする。


どちらも同じなので同じところに行く。




軽くお参りしたら、次が本殿だ。




「やっぱり人が多いね」




世界はそう言いつつ少しずつ前に進み、俺も後をついていく。




「さて、お参りするか」




いつの間にか自分たちの番になっていた。


お賽銭箱に五円玉を投げ入れて、お願い事をする。




(彼女が今年中生きてますように…)




俺はたまたま親同士の会話を聞いた。


それは世界に余命宣告が出されている事だった。


あまりにも混乱し、部屋に戻って何も考えられなかったのを覚えている。


期間が俺には分からないからこそ余計に怖く、


だからこそ彼女にはずっと幸せに過ごしてほしいと思うようになった。


極力彼女のお願いは断らず、何ごとも楽しくするを意識している。




俺の願いが終わり、横を見ると彼女はまだ目を瞑っていた。


何か大事な願いなのか、表情はすごく真剣だった。




そして目を開けて




「次はおみくじよ!!」




先ほどまでの真剣な表情は何か勘違いだったようだ。








少し段を降りた先には、お参りした人たちが流れ込むであろうおみくじがあった。


去年の結果は覚えてないが、普通だった気がする。


勉強のとこが良かったから満足だった記憶だ。




「今年は何が出るかなあ…」




世界はそう言って、お金を渡してお店からおみくじを1枚もらう。


俺もおみくじを一つもらう。




「せーの!」




そう言って同時に開けた。




彼女は中吉。


俺は小吉だった。




「私の勝ち!!!」




そう言って煽り口調ぽく俺の方を笑顔で見てきた。


すごく殴りたいが我慢する。




「なんて書いてある?」




俺はそう言って彼女のをのぞき込む。




《特に高い壁のない楽しい1年となるでしょう。》




「結構よさそう!」




そう言って、次は俺のを見る。




《困難に当たり、それに立ち向かう1年となるでしょう》




「なんか深いね」




俺もそう思った。


困難にぶつかるとしたら、クラス替えだろうか。




「まあなんとかなるだろ」




そう俺は言って、おみくじ掛けをする。


自分の願いが叶うことを祈るためだ。




「私は持ち帰る」




彼女はバッグの中に入ってあったファイルにしまっていた。






「さて何をしようか」




特にもうするべきことは無くなった。


強いて言うなら毎年通り、


世界と俺の家族同士で正月の夜に集まってご飯を食べるのだが時間がありすぎた。




「昼ごはんでも食べて、ショッピングモールでも寄るか」




世界は特に何かしたい様子でもなかったので、俺はそう言った。


そして彼女もうなずいて、そのまま着いてきた。




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今思えば懐かしいな。


そう思った。


やっぱり彼女と居る時間は俺の中でものすごく長い。


1つのことを考えただけでいくつものことが連想されるのだ。




「今年も夏祭り行きたかったな…」




涙を流しつつ、そっと呟いた。












だが、そんな当たり前がもう無いということに俺は気が付きたくなかった。








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ちょうど梅雨の時期に入ったころだろうか。


高校2年生となり、同じクラスで世界と喜んでいたのもつかの間だった。




世界はある日突然倒れた。




俺の部屋に居た時だった。


高校2年生になり、勉強も難しくなってきたことで


一緒に勉強をしていた。


土曜日ということもあり、午前中は勉強して午後からは遊ぼうという計画だった。




だがその時は一瞬で起こった。




ちょうど、彼女がトイレに行こうとしていた。


俺の横を通り過ぎた時、


いきなり世界が俺の方向へ倒れてきた。


最初は何かいやがらせかと思った。

もしくはただ疲れていてふらついたのかなって。


だが、それどころではなさそうだった。




慌てて、親を呼び、病院に連れて行った。






そして今、俺は世界が寝ているベッドの前で椅子に座って外を眺めていた。


病室は彼女以外誰も居ないので、すごく静かだ。


世界のお母さんは今お医者さんから話を聞いているようで不在だ。




だが、お医者さんは俺に




すぐ意識は戻るさ。






そう言った。






俺は特に何か喋るわけでもなく外を見ていた。




すると何分くらい経ったのだろうか、




彼女が、




「どしたの…天翔」




そう聞こえた。


俺が慌てて後ろを振り返ると、


すごく眠そうに目をこすっている彼女が居た。


急いで彼女の母に連絡を入れた。


そして彼女にも状況を伝えた。




「部屋で倒れたんだよ?」




「え?」




彼女は聞き間違いだと信じたかったのか、


俺の言葉が伝わっていなかった。




「まあ、寝不足だったのか?」




さっきから目をこすったり、眠くなっていることからそういうことなのかもしれない。




「あ、もしかしたらね」




彼女はそう言って、またベッドに寝転がった。


一応母が何をしているかや、詳しい経緯を伝えた。




「そう」




そう言ってまた目を瞑った。


眠たいのだろう。


俺はそう思い、話しかけるのをやめた。






彼女の母が戻ってきたので交代した。


なんとなく状況は詳しく聞かない方がいいだろうと思っただけだ。


勉強で切羽詰めすぎたんだろう。




俺はそう思い病室を後にした。












日曜日、彼女を見に行くと、普通に元気だった。




「天翔来たんだ!」




特に何かあったわけでもない普通の世界だった。




「うん。まあ心配だしね」




いつもいる彼女が居なくなると人は心配するものだ。




「そう?ありがとね!」




そう彼女は言った。


特に異常があったようには見えず、ただ単に体調不良なのだろう。


そう思った。




何時間くらいだろう。

もう窓から夕陽が差し込んでいる。


時間も気にせず久々に世界と話したところで、


彼女が急に話を切り出した。




「天翔に一つ伝えないといけないことがあってさ。」




それはとても真剣な顔で、ふざけられるような空気感ではなかった。




「私、余命があるって前に話したじゃん?」




それは知っていた。


いつだろう。


ちょうど春休みあたりだろうか。


急に言われて俺は戸惑ってしまった。




「うん」




考えたくもない。


彼女が死ぬなんて




「実はあと余命1年なんだよね」




彼女は少し申し訳なさそうにしていた。


そしてそのまま彼女は後ろを向いた。




「ごめんね。前から分かっていたのに……伝えられなくて」




「大丈夫だよ…」




少し悲しくて泣きそうではあったが、


絶対に泣かないと決めていた。




「だから、しばらく入院することになったんだ…」




久しぶりに彼女の情けない声が聞こえた。


そして少し泣いているのか、声が裏返ってる。




「そうか…。まあまだ1年はあるじゃん」




どうにか涙を引っ込めたかったため、


ポジティブに考えた。


でも少しそれは難しかった。




「でも、でも、でも…。」




彼女は何か思い詰めていた。




「一緒に苦しみは背負えないけど支えることなら俺にも出来るよ」




少し涙声になったが、どうしても伝えたかった。


頼れる人は居るってことを。




「そうだね」




そう言って彼女は振り返った。


その時初めてかもしれない。




世界が泣いているのを見た。




それは少し笑顔で、何か隠そうとしているようにも見えた。


























7月に入った。


6月の鬱陶しく、長い雨は止み、少しずつ天候は良くなってきた。


彼女の容態はずっと安定していて俺も安心する。


実際高校にも来ている。


退院とはなっていないが、ほぼそんなもんだろう。


なぜ退院しないのかは分からない。




でもどうやら友達には余命を知らせていないらしい。


友達らの言動からそれがうかがえた。






そんな7月。


俺たちは文化祭があった。


ちょうどテスト明けの土曜日だ。




特に誰かとまわるつもりもなく、のんびりしとこっかと思っていたら、


世界が一緒に回ろうと言ってくれた。






そして当日。






「天翔~行くよ!」




なぜか聞きなれてきた彼女の声を横目に俺は靴を履いて玄関を出る。


私服で良いということもあってか、彼女は淡い黄色のパーカーを着ている。


俺はお揃いの形をした白いパーカーだ。


ちなみに合わせてきたのは彼女だ。




「さて行きますか…」




一応病院の人にあらかじめ言われていたことがある。


それはもし容態がおかしかったら早めに帰るということだ。


先生には病院の方から伝えてあるらしい。


おそらく余命は伏せているだろうが。




「暑いなあ…」




まだ夏休みの1カ月くらい前だというのにすごく暑い。




「楽しみ!!」




そう言って彼女は少しはしゃいでいた。
















現に文化祭は楽しかった。


色々と食べ物もあったし、体育館であったプログラムも面白かった。


自分たちのクラスは屋台とかをやらず、ただ遊びまわるだけという意味が分からない企画だったが、それでよかったと思う。




だが午後に入り、少しずつ彼女の容態に違和感があった。


少し呼吸が荒かったのだ。


直接彼女に言っても帰らせてくれないので、自然に




「そろそろ帰らない?」




そう言った。


彼女は静かにそううなずいて、素直に俺に着いていった。


念のために門の前に置いていたタクシーに乗せて病院まで行った。




病室に着くと少ししんどかったのか、世界はすぐに寝始めた。




今日はそのまま終わった。








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いつの間にか夏休みが訪れた。

だが彼女はいまだ病室の中だった。

まあ余命1年なので当たり前ではある。


だが、どうやら心拍数が少し低いらしい。




だが本人には違和感がないらしいのか、いつも笑顔で接してくれた。


しょうもない話にも付き合ってくれて、あまりつらくはなさそうに見えたのだ。


そう時間が過ぎていった。




8月も序盤に差し掛かったころだろうか、


少しずつ彼女が寝ている時間が増えた。




「世界?」




そう言っても反応はなくすやすや寝ている。


そしてそこからしばらくの間、俺も予定と被っていたこともあり病室に訪れることができなかった。




予定の間少し不安だった。


このまま彼女が眠ってしまったらどうしようって。




でも帰ってきたら声をかけてきてくれた。




2週間ぶりにようやく病室を訪れることができた。

午前中だから起きてないかもと思ったが、彼女は体を起こしていた。




「あ、天翔!久しぶり!」




ベッドの上で本を読んでいた彼女は俺に気が付くと本を机の上に置いた。


この声を2週間ぶりだというのに聞くとすごく安心した。




「最近行けなかったんだ…」




俺は本当に安心をした。


彼女は少し笑って、




「そんなに心配しなくても私自身まだまだ元気だよ?」




そう言って彼女は両手を挙げた。




そんなタイミングで俺は本題に入った。




「お誕生日おめでとう!」




8/23 俺の4日前に世界の誕生日があるのだ。




「ありがと!!!」




俺はそう言って誕生日プレゼントを渡した。




「開けていいの?」




そう星のような目で見てきたのだ。


俺は無言でうなずいた。




彼女は笑顔で少しずつラッピングの紐を外した。




中から出てきたのは黄色のしおりだった。


最近本を読んでいるというのを彼女の母から聞いていたのでこれにしたのだ。




「うれしい!!!」




そう笑顔で言ってくれた。


俺としても大満足だ。




そんな笑顔を見ていると1つ思い出したことがあった。




「今年も夏祭り行けるかな」




世界がそうつぶやいた。




「もちろん!!」




俺は自信満々にそう言った。




彼女はそのあとわくわくしながら


もし夏祭り行ったら何がしたいか喋ってくれた。


そんなに元気ならもう大丈夫だろう。


そう思って俺はそろそろ帰ることにした。




「じゃあね」




そう言うと、彼女は今までに見たことない笑顔で




「今までありがとね!」




なぜ急にそんなことを言いだしたのか、


なぜ俺はその時違和感を感じなかったのか。


どうせ明日も来るから…そう感じてしまったのか。








彼女の声はこれが最後だった。












8/27 夏祭り当日。


その後目が覚めなかった世界から一本の着信があった。




わんちゃん行けるのでは?




そう思いかけ直し、出てきたのは世界の母だった。




「世界の……容態が……」




そう言われて、俺は頭が動かなかった。

あまり記憶は残っておらず、

ただ身体だけが病院へと進んでいった。




病室に着くと、彼女には布が覆いかぶさっていた。

横で彼女の母が泣き、医者が少し残念そうな顔をしていたことから状況が察せられた。




「世界?」




俺は静かにそう名前を呼んだ。

彼女からは反応がなく、ただ静かに俺の泣く声が聞こえた。




まさかそんな早くこうなるとは思わなかった。

余命1年とはいえ、いつ死ぬかは分からない。

そう知ってはたんだが、

俺は何も状況が呑み込めず、

ただ彼女に被さる白い布の上で泣くしかなかった。


そこからのこともあまり記憶がなかった。








あまりにも感情を失ってしまい、俺は次の日の学校に行けず家でぼーっとしていた。

気持ちを切り替えてゲームでもしようかと思ったがやはり何も手は動かない。


お通夜にも参加したが、何も頭に入ってこなかった。




もちろん葬式にも呼ばれた。


行く直前に世界の母に一つ紙が渡された。



どうやら生前に俺に当てた手紙のようだった。




『青柳天翔様


 


 この手紙を読むということは私はもうこの世界から旅立ったんですね。


 私自身も亡くなることが前提で書いているのが不思議ですが、


 ここでしっかりと本当の事を話そうと思います。


 私、八神 世界の余命は今年、4月の時点で迎えていました。


 なので最近は入院生活だったのです。


 あなたには1年あると伝えました。


 それは単純にあなたを悲しませたくなかったのと、私ならそこまで生きれる!


 という自信がありました。


 


 けれど無理のようです。


 もうすぐ死ぬというのが分かってしまいました。


 これはなんとなく勘で分かるんです。


 私はもう長くないと。


 


 だからここであなたに伝えたいことをすべて書きます。




 幼馴染として一緒にいろんなことができたね。


 私はあなたと色んな行事が出来てよかった。


 生まれつき身体が弱く、それでも頑張ってこれたのは天翔のおかげでもあるよ。


 


 私は天翔と最後に一緒に頑張りたかったの。 


 だから一緒に受験勉強ができた。


 それも楽しかった。


 




 今年の正月にも一緒に初詣行ったね。


 その時にあなたはなんてお願いをしたの?


 私は




 天翔がこれからも前を向いてくれるように




 そうお願いしといたよ。




 だから私が亡くなってもいつまでも悲しまずに、がんばって!


 


 


 私はずっとあなたのそばに居ます。




 大好きだよ


                          


                 


                        八神 世界』






俺は泣くことしかできなかった。


支えるたかったのに何もできなかった。


そうして俺は始まる前から泣きながら葬式場へと行った。




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お坊さんのお経が脳内にいまだ響く。


そして目の前の彼女の写真を見ると、涙が止まらない。


思わず下を向いて目を瞑るが、


色んな思い出が思い浮かび、やっぱり涙は全然止まらなかった。






彼女は最後まで俺を安心させてくれた。


本当に俺を支えてくれて、最後に恩返しがしたかったのにそれが出来ないまま終わってしまった。




彼女の笑顔はいつまでも頭をよぎり、そして離れることがなかった。


自分の人生をも支えてくれた彼女にしてあげれることは一つだけだった。




彼女の願いをかなえることだ。






俺はここで悲しまずに、前を向いていかなければならない。






そう思って俺は、彼女を真正面から見た。


やっぱりいつまでも隣に居てくれたと考えると涙があふれてくる。




いつも、どんな時も一緒に居て、いろんな壁を乗り越えた。


なんだがいつまでも居てくれそうだった彼女はもう居ない。


だが彼女なら俺の横にずっと居てくれる。


そう信じている。


だから俺はこれからも頑張っていく。






僧のお経が終わるとすぐに、火葬場に棺が持っていかれる。


だがそのわずかな間にみんなで棺に花とかを入れる時間がある。




最後に彼女と対面するのだ。




初めて亡くなった彼女を見た。


それはやはり今まで見慣れてきた笑顔でどこか安心した。


そしてもう泣かないと決めたがやはり涙はあふれてくる。




(これが最後のお別れか…)




そう思うと何かこみあげてくるものがあった。




彼女の印象的な声が忘れられるはずもなく、ただ棺の前で涙を流していた。




そして棺がもうすぐ運ばれると思い、最後に何か入れてあげようと思った。





皆が見守る中俺が最後に入れるようだ。

無言で入れても何かせつない。


どうせならすべて言ってしまおう。

後悔は絶対しないように。




「本当に君には感謝しているよ。

いっつも横に居てくれて、俺を支えてくれた。

世界は俺にとっての誇りだし今までよく頑張った。


俺は前を向くよ。

これからも世界が隣に居ることを信じて、

横に居ても恥じない人間になれるように。


だから温かく見守ってくれよな?」










「君の笑顔が一番だよ」




そう言って俺の涙は限界点に達した。


けれどここで負けてはいられない。
















「でも本当に君は嘘つきだ」








涙を流しながら俺は笑顔でそう言った。












3本の黄色のガーベラを添えて

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【短編】君の花は可憐に散っていった。 白崎 奏 @kkmk0930

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