愛されトイプードル 〜僕とご主人の15年の物語〜

ほしのしずく

第1話 ずぅーと、ずっと一緒だよ! ご主人っ!

咲野ポン太。


ご主人が大好きなドーナツという食べ物から、とったお気に入りの名前。


咲野家の愛されトイプードルとは、僕のことだ。


ご主人と出逢ってから、一体どれくらいの時間が流れたのだろう?


犬の僕では人間のような時間感覚なんて持ち合わせていないから、よくわからないんだけど。


今日で出逢って15年になるって、ご主人がお祝いしてくれた。


すっごく嬉しいなぁ〜。


これからも、ずっと一緒にいたいな。


ずっと。


「ポン太♪ これからもよろしくねー! 元気で居るんだよ! じゃないと許さないんだから」


ご主人はそういうと抱き抱え体に顔を埋めてきた。


全く、いつまで経っても甘えん坊さんだ。


出逢った頃は、体が小さくて可愛かったし。


どこへ行くのにも、縮こまっていた。


でも、いつの間にか大きくなって、お仕事へ向かうだって。


大きくなっても、ご主人はご主人のままなのに――。


でも、お仕事という狩り場に行かないと、ご飯が食べれなくなっちゃうみたいだ。


だから、がんばって。


ご主人には僕がついているさ。


だけど、お仕事はとてもしんどいんだって。


お家に帰ってきた時は、朝とは違って別人みたいな顔をしていた。


匂いでご主人ってことはわかるけど、ちょっと怖い。


朝にしていたお化粧はどろどろで、ぐちゃぐちゃになっているし、なんだかおてて触れるとぬるぬるしてる。


なんだか、お化けみたい。


むずかしいことは、よくわかんないけど。


がんばっていることはわかるから、帰ってきたら、いっぱい褒めてあげるんだ。


いつまで経っても、甘えたなご主人を癒やしてあげないとね。


お化けみたいになったご主人は、まだマシな方。


お仕事に行き始めた頃、「あんな奴と一緒に仕事はできない!」とか「能力がない」とか言って、体によくない不味い水を飲む。


一度、興味本意で舐めたとき、ご主人は慌てるし、僕はウェェ〜ってなった。


他にも「私って……居る意味ある?」なんて暗い顔をしながら、不味い水を飲む量がどんどん増えていく。


不味い水を飲んで様子が変わったご主人は、毎回決まってソファーで丸まって寝ちゃう。


そのままだと、風邪を引いちゃうから、一緒に寝てあげるんだ。


ほんとに仕方ないご主人。


翌朝になると決まって「しまったぁー! やらかしたよぉー!」と言いながら、バタバタと飛び出て行く。


ムゥー、今日もご飯を忘れていった。


仕方ない、今日も隠してあるオヤツを食べて凌ごう。


お水は、まだ量があるから大丈夫だね。


最近、自分の部下ができたと言っていた。


フフッ、僕のご主人が1つの群れのボスになった。


さすがは、僕のご主人凄いな。


だけど、ご主人曰く。


「悩みだらけだよぉ〜。ポン太ぁ〜! 慰めてぇ

〜!」


仕方ないご主人だ。


他の群れと交流をはかる為の研修というものであったり、群れの中で報酬を割り当てたりなど、他のことで悩み尽きないらしい。


この辺の大変さはなんとなく想像できる。


群れが小さくてもボスの役割は、とても多い。


他の群れと争わないように、自分の人間で言う部下が、その近くを通る時は事前に話を通しておかないと色々と揉めるからだ。


例えば、なんでここを通らなければいけないのか? とか、今本当に必要なことなのか? とか色々ね。


ともかく、群れを束ねるということは人間でも僕たち犬でも変わらないということだ。


それでも頑張って仕事にいくご主人を見送る時。


僕は誇らしい気持ちになる。


玄関で見送っていると、抱っこして顔を僕の体に顔を埋めていく。


そして、「行ってくるよー! 今日もがんばってくるー!」と声を掛けてくる。


僕にとって変わらない。


ずっと変わらない。


この瞬間がとても大好きだ。


でも、もちろん変わったこともある。


僕が、お家で日向ぼっこをすることが多くなった。


ご主人がお酒を飲んで、朝寝坊さんすることも、ソファーで寝てしまうことも無くなった。


おかげでバタバタすることも、ご飯を忘れることもない。


その姿に関心していた。


でも、少しだけ……


ほんの少しだけさみしくも思えた。


この気持ちをどう伝えていいのかわからないけど。


ひとりで、お家の中でお留守番している時とおんなじ気持ちだ。


お日様が明るい時間帯は大丈夫。


ご主人が被っていた毛布に包まれば、まだ温かいし匂いだってたくさーん残っている。


でも、お日様がお月様と交代した時間帯は少しさみしい。


ご主人にできることが増えちゃったせいで、僕のこと忘れたりなんかしないかな?


もっと甘えてくれてもいいのにな。


もっとのんびりしたらいいのにな。


なんかちょっとご主人が遠くへ行ってしまうような不思議な気持ちだ。


ご主人が帰ってこない日ができた。


どうやら、仲の良い人間のオスと交流しているそうだ。


出逢った頃の休日には、「私には遊ぶお友達も行くところがないから、ぽんちゃ! 今日も河川敷に行こうねー!」と言っていた。


でも、今は、「ポン太、二人で出かけるのは恥ずかしいから一緒に来て!」と言うようになった。


本音をいうと、僕という存在が居るというのに他のオスに行くなんてさみしい。


僕はこんなにも、ご主人を一番に考えているのに。


もっと構って欲しい。


もっと散歩に行って、もっと遊んで、もっと甘えさせたい。


もっと、もっと――。


だけど。


オスの話をするご主人の瞳が輝いていた。


だから、僕はそのオスを受け入れることにした。


やっぱり、ご主人が幸せなのが一番だから。


そこから、また月日は流れた――。




◇◇◇




――あの日から、どれくらいの時間が流れたのか、わからない。


「ポン太。よく頑張ったね」


ご主人は優しく膝の上に乗せて撫でてくれる。


気持ちいい。あたたかい。


大好きなご主人の匂い。


ご主人には、可愛い子供が産まれて、お世話をするのが忙しくなった。


だけど、今は僕を抱き締めてくれている。


出逢ったあの頃ように。


「クゥゥン」


「ポン太……」


嬉しいな。


やっぱりご主人が大好きだよ。


ご主人が毎日楽しそうな顔をするようになってよかった。



ご主人が幸せなら僕も幸せだよ。


僕はもう。


昔みたい甘やかしてあげられないけど。


小さい頃のようにおしっことか、失敗しちゃうようになったけど。


僕の代わりに子供を大切にしてあげてね。


ずぅーと、ずっと! 僕たちは一緒だよ! ご主人っ!


ご主人と入れた時間がとても大切で大好きだったよ! 


どうか、いつかいつの日にか。


ご主人にこの気持ちが届きますように、この言葉が伝わりますように――。


おやすみなさい。 

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