第4話
♦︎世界が終わる6年と5ヶ月前♦︎
「なあ、廃棄場からなんとか地上に上がったは良いものの、そろそろ行き先くらい教えてくれても良いんじゃないか?」
「だから言ってるじゃない?約束の場所って」
「それがどこかって聞いてるんだよ……っとまた化け物のお出ましか?」
荒廃した街の中でビルの横から白い翼を持った狼が現れた。天骸獣。天使たちのオーラを浴びた動物か強大なオーラから自然発生する化け物。天使には絶対服従だが、人間の事はエサとしか思っていない。
「ルシファー、お前を使うまでもねえ。拾ったナマクラで充分だ!」
「ガルルッッ!」
「かかって来いよ!天使のペット!ぶっ殺してやる!」
背中の翼を使い飛翔しながら距離を詰めてくる狼に対して淘夜は一切動かない。それどころか目を瞑って錆だらけの剣を構えていた。
「ガルァァァッ!」
「今!」
淘夜に内包されていた堕天使の力が瞬間的に溢れ出しその全てが錆だらけの剣に纏わりつく。その切れ味はナマクラとは思えないもので向かって来た狼の首を綺麗に切り落とした。
「見たか!ルシファー今のカウンター!出来る気がしたんだけどマジで出来ちまったよ!」
「貴方って多分天才よね。あの天使と戦った時に初めて剣を持ったんでしょう?それに廃棄場を出て直ぐに天骸獣にあったけど一瞬で切り伏せるし。まあ、契約者が優秀なのは良い事なのだけどね」
「あ!また出てるよこの羽!邪魔くさいな!」
「なんて事を言うの!私たち堕天使の象徴よ!それに貴方が無駄に私たちとの親和性が高いせいで堕天使の力が高まると勝手に出て来てしまうんだから仕方ないでしょう!」
「なあこれさ?俺って人間なのか?」
「まあ正直言って怪しいわね。普通は堕天使と契約したら何かを対価に私たちが力を貸すのだけど貴方の場合は激しい痛みを負う事を対価と私が設定したの。でも貴方痛みを一切感じないでしょう?直接魂に痛みを与えてもけろっとしてたものね?そのせいで私も力の全てを貸さなきゃいけなくなってしまったのよ。他の契約者はせいぜい2.3割しか堕天使の力を借りられないから普通の人間と言えるでしょうけど、貴方はそのうち堕天使になってしまうんじゃないかしら?」
「まあ天使や神を殺せるならなんだって良いけどさ」
「その憎悪も堕天使と相性が良いのよねぇ…」
堕天使の力は負の感情との親和性が高く、その感情が深ければ深いほど相乗的にチカラは高まっていく。今の淘夜はルシファーの力の全てを扱える上に堕天使の力を行使するために必要なオーラも天使への憎悪によって無限に湧いている。
「おい。なんか来るぞ」
「あら?お出迎えかしらね」
黒い翼をはためかせてこちらに向かって来るのは透き通る様なアイスブルーの長い髪に紅の瞳をした美少女だ。
「ルシファー様……迎えに来たよ」
「アバドン、久しぶりね。元気だった?」
「怠い、働きたくない。早く神を殺して一日中ダラダラしたい……」
「それも近いかもしれないわね。私の契約者、相当優秀だから」
「びっくり……まさか本当にルシファー様と契約できる人間がいるなんて」
「しかもこの子、私の力の全てを扱えるのよ?もしかしたら人間から堕天使が誕生するかもしれないわよ?」
「それは喜ばしいね……んじゃ怠いし転移するね……」
「なんだ?!」
淘夜が驚いている間に景色は一瞬で移り変わり、どこかの豪奢な広いホールの様なところに立っていた。
「凄いな!これが転移か!」
「落ち着きなさい、多分貴方も使えるわよ」
「お!すげぇ!少しだけどできたぞ!」
小さな子供の様にはしゃぎながら短距離の転移でホール中を移動する淘夜を見てルシファーは嬉しそうにため息をついた。
「ルシファー様……みんな来るよ?」
「ええ、感じたわ。同胞の波動を」
ホールの中心に黒いオーラが立ち上る。その数は4ヶ所で中には二人ずつ人影が見える。
「ルシファー様。ご機嫌麗しく、また無事に会えた事心より嬉しく思います」
現れたのは全身を黒い鎧に包んだ大柄な堕天使。
「ええ、相変わらずみたいね。カイム」
「ルシファー様!早く神様殺しに行きましょう!アタシの契約者とっても強いんだよ!」
次に現れたのは異様なまでにテンションが高く真っ赤な髪をサイドテールに纏めた堕天使。
「まだその時ではないわ。少し待ちなさいアポリオン」
「ルシファー様…………本物だな。良かったよ」
純白の髪を肩のあたりまで伸ばした女性の堕天使はルシファー見て一瞬不安げな顔を見せたが何かを確認したのかその表情は直ぐに明るくなった。
「ベリアル……貴女も生き残ったのね」
「ルシファーさまぁ。俺は神に災いを与えたくて仕方ねぇよ……」
「ワームウッド?!その子……まさか契約者?」
「ああ、ほんとラッキーだよ。俺に適合できる人間が居るなんてよぉ。まあルシファー様に契約者が居る方が驚きだけどな。ハハハ」
黒い髪の飄々とした男の堕天使は不気味に笑う。
「お互い驚きね。貴方の契約者も中々クセの強そうな子みたいだし。まあ、取り敢えずカイムの契約者から自己紹介してちょうだい」
カイムの側にいるのは金色の髪に青い瞳を持ち全身を純白の鎧に身を包んだ美男子。
「お初にお目にかかります、ルシファー様。堕天使カイムの契約者、シリウス・レイドールと申します。我が騎士道に恥じぬよう誠心誠意、貴女のために剣をふるいます」
「期待しているわ。シリウス」
「次は私だね!堕天使アポリオンの契約者!最上 朱音です!ルシファー様について行けば世界を変えられると聞いたので頑張ります!!」
「アカネは元気があって良いわね。私の契約者、トウヤも日本の出身だから仲良くしてあげてね」
「契約者?その人が?堕天使じゃないの?」
「私もよく分からないわ、私たちとの親和性が高過ぎて堕天使になりかけてるみたいなんだけど」
「へー!凄いんだね!トウヤ君は!」
「ま、まあな」
褒められる事に慣れていない淘夜は照れて顔を背けてしまう。
「ベリアル、あの子良いわね」
「セレン、君もルシファー様にご挨拶を」
「ルシファー様、初めまして。堕天使ベリアルの契約者、セレンと申します。以後お見知り置きを」
「よろしく、セレン。先に言っておくけどトウヤに手を出したらただじゃ置かないわよ?」
「しょ、承知いたしました……」
「セレン、気をつけるんだよ?ルシファー様は自分の気に入ってるものに手を出されるのが大嫌いだから」
「トウヤだけはダメなの、怖がらせてごめんなさいね?」
「いえ、こちらこそ失礼をいたしました」
「そして、最後の貴方が厄災の堕天使ワームウッドの契約者……」
「暁 詩織……久しぶりだね。淘夜兄」
「詩織……………クソ!頭が痛え!誰なんだお前?」
「え……?どう言う事?私だよ!昔一緒に!天使どもが現れる前に遊んだ従姉妹の詩織だよ!」
「従姉妹って事は俺の両親の……両親?俺の両親って誰だ?」
「待ちなさい、詩織。トウヤは天使から受けた仕打ちで記憶に障害をきたしているわ。私が契約した時も酷い姿だったもの。時間が経てば良くなるはずだから今は……」
「なあルシファー。俺の記憶は戻るのか?」
「大丈夫よ、必ず戻るわ。両親や親族の事も思い出せる」
「ああ、それなら良かった……」
「トウヤ!!」
ふらついたまま意識を失う淘夜。それを心配そうに見守るルシファーの瞳には焦燥の感情が現れている。
世界が終わる6年前 @matupurinn
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