第3話 ヒラヒラがたくさん付いていて、かなりの面積がスケスケで色は赤。ただしサイズはM。
前回は酷い目にあった。期待していた分、ダメージも大きかったし。
それに、逃がした魚は大きいとはよく言ったもんだ。かわいかったなあの子。
しかし、終わったことを悔いても仕方がない。今は、あの親子が上手くいってくれることを願うとしよう。
さて、前回、前々回のようなことはそうそう起こることではないと思いたい。それこそ宝くじに2回連続で当たるような確率だったに違いない。
もう今回に限っては、私の姿形から想像できる結果にしかならないはずだ。
そう、今回の私は布面積のほとんどが透けており、たくさんのひらひらがついている、真っ赤な下着だったのだ。
いわゆる、勝負下着というやつだろう。
置かれている場所も今までの銀色の棒にぶら下がっているのではなく、特設コーナーに綺麗に並べられている。しかもサイズはM。
すまないな、世の中の男性諸君。どうやら今回こそは勝ち組のようだ。
特設コーナーだけあって目立つせいからか、容姿に自信のありそうな女性ばかりが集まっている。
これはすぐに私が売れる番がやってきそうだ。おっ、言ってるそばから私を手に取った人物がいるな。
切り替わる視点を楽しみながら、私を手にした人物を確認する。
(ほう、これはまたずいぶん意外な女性が手に取ったものだ。だがこれはこれで悪くはない)
私を手に取った女性は、おそらく高校生くらいと思われた。しかも、いわゆる『ギャル』と呼ばれる分類で間違いあるまい。
もっと大人の女性を想像していたが、これもまた一興。潔く自分の運命を受け入れよう……グヘヘ!
ギャルは私をレジに持って行き会計を済ませる。ここで少し違和感。
なぜ私だけ?
こういうのって、大抵色々まとめて買わないかい? 前回も他の肌着先輩たちがいたのだが。
ギャルは私を購入後、店の出口には向かわず駐車場へと向かったようだ。そこで、さらに人気の少ない角の柱の陰へと進んで行く。
そこに待ち受けていた者は……
「ぐふふふふ、ありがとうなんだな! 今ここで君がこれを履いてくれたら、倍のお金を払ってもいいんだけど、どうする?」
歳の頃は50代。バーコード頭に脂ぎった顔。程よく肉がついた中年太りの男性だった。
「はっ? ふざけんなよ! んなことするわけねぇだろ! さっさと金をよこしな!」
そう言ってギャルは私を中年男性の顔に叩きつけ、一万円札を奪うように彼の手からもぎ取り、足早に去って行ってしまった。
「ぐふふ、ごちそうさまでした」
鳥肌が立った。肌はないけど、鳥肌が立った。そして絶望した。この変態が次のご主人様だということに……
この変態、こともあろうに早速次の日の朝、私を履いた。私の身体を無理矢理引っ張り、ピッチピチの状態で履きやがった。
その感触に私の方が吐きたくなった。
前々回で痛みに慣れているのもいけなかった。やつのものの感触が何となく感じ取れてしまったのだ。
だが私に抗う術はひとつもない。これほどの拷問はあろうか。終わりの見えない日々に、私の精神は徐々に壊れていった。
それはそうとこの男性、こんな変態な趣味を持ちながら、職業は教師だった。それも思春期真っ盛りの中学校の教師。
スケスケの女性用下着を履きながら、クソ真面目な顔をして、中学生に授業を教えているのだ。同僚の教師からもそこそこ信頼されているのか、若い教師からの相談にも乗ったりしている。
女性用下着を履き、モノを若干はみ出させながら。
世の中こんなんでいいのかと思いつつ、私にできることは何もない。私基準ではこいつは変態だが、そうとは知らない生徒や他の教師たちにとっては、良き先生なのかもしれない。
そう洗脳され始めたある日、その出来事が起こった。
「おい、たけし。お前、女みたいなしゃべり方するな! 本当はオカマなんじゃねえか?」
変態教師が教室の前を通りかかった時、中からそんな会話が聞こえてきた。
これは俗に言うイジメってやつだろう。何人かの男子生徒が、ひとりの男子生徒を取り囲んでいた。
この時俺は、この変態は無視して通り過ぎると思っていた。こいつは生徒の揉め事にあまり関わらないようにしている節があったから。
だがこの日は違った。勢いよくドアを開けたかと思うと、迷うことなく取り囲んでいる男子生徒たちを怒鳴りつけたのだ。
「お前ら! 何てことを言うんだ! 保健の授業で何を習ったんだ! 今の時代、男らしいとか女らしいとかなんてないんだぞ! 全てはその人の個性なんだ!
背が高い、歌が上手い、運動が苦手。それと同じなんだよ! しゃべり方や仕草がちょっと自分と違うだけで、そいつを差別するな! そうでないと、この先の時代に乗り遅れるぞ!」
怒鳴りつけられた男子どもは、話の内容を理解したと言うより、この先生の剣幕にひびったらしく、いじめていた男子生徒に謝罪して、逃げるようにトイレへと駆け込んだ。
「先生、ありがとう」
残された男子生徒がそう呟いて自分の席へと戻って行った。
俺はこいつを見直した……わけないだろう! こいつは絶対自分の趣味を否定されたから怒っただけだろう! 何ちょっと周りの生徒から尊敬の眼差しで見られて、ドヤ顔してるんだよ!
だが、こいつのおかげでひとりの生徒が救われたのも事実。動機はどうあれ、こいつが立派に先生しているのを認めないわけにはいかないな。
そう感心していたその日の夜、変態先生は私を洗った後、なぜか私をベランダに干した。女性と暮らしているとでも思わせたかったのだろうか?
全く理解できない考えだが、私は夜風に揺られながら真っ暗な中で、この生活がいつまで続くのか考えていた。
その時だった。何者かがこっそりベランダに忍び込み、私を盗み出したのだ。
(下着泥棒か!?)
その瞬間、下着泥棒は私に顔を押し付けて、思いっきり匂いを嗅いだ。御愁傷様。
若干の気持ち悪さを感じながら、しかし、私はこうも考えた。
(ひょっとしてこの生活から抜け出せるのでは?)
と。
しかし、その心の声が漏れてしまったのか、変態教師がベランダへと飛び出してきて叫んだ。
「わたしの下着を返せ!」
下着泥棒は慌てて逃げ出しながら、その言葉の意味に気がついたのだろう。
「おげぇぇぇぇぇ」
変態教師から逃げ切った後、草むらに向かって嘔吐し、私をビリビリにちぎった後地面へと叩きつけた。
(神様お願いします。どうかもう私を下着に転生させないでください)
薄れゆく意識の中で、私はそれだけを必死に願った。
次に目を覚ました時、私は某百貨店の水着売り場にいた。
(神様。そういうことじゃないんだよ……)
下着転生~女性用下着に転生した私は、幸せを見つけられるのか?~ ももぱぱ @momo-papa
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