死神のしっぺがえし

地崎守 晶 

死神のしっぺがえし

『私はいま、事件の現場に来ています』


 連日の無差別殺人事件の報道。男はナイフを蛍光灯にかざした。

 自分は絶対に捕まらない。無敵の死神。この手で幾らでもあの世に送ってやる。

 血曇りを帯びた輝きに満足して、刃を仕舞おうとした時。


「ウチがおっぱじめたらここが現場やな、死神さん?」


 耳元、揶揄するような囁き。

 弾かれたように振り向く。黒いパーカーのフードを目深に被った、女子高生とおぼしき少女が、四畳半の真ん中に佇んでいた。


「なんだお前は……!?」


 とっさに向けた刃にも関わらず、少女はフードの下の唇をにぃ、と釣り上げて見せる。

 背中が粟立つ。その笑顔が、今度はお前が狩られる番だと告げていた。

 追い立てられるように飛びかかる。ナイフを握る手が掴まれ、ぐるりと天地が逆転。床に背中から叩きつけられ、息が詰まる。

 少女は奪った凶器を首に突きつける。切っ先に染み着いた血が鼻を刺す。死の匂いだった。

 訪れた死神を受け入れられず、男は絶叫し、意識を手放した。

 

 程なくサイレンの音が近づいてくる。

 少女はやや苦笑いを浮かべる。

 

「あちゃー、ほんまにここが現場になってもうたわ」

 

 肩を竦め、少女は泡を吹いて倒れた男の耳元に囁きかけ、立ち去る。

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死神のしっぺがえし 地崎守 晶  @kararu11

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