孤高を貫く

わたくし

春 3月 卒業式

 桜舞う校庭で卒業生達が三々五々集まっている。

 互いに記念写真を撮り合ったり、サイン帳に名前やコメントを書き合っている。

 互いに抱き合って泣いているグループもあった。


 オレには誰も近づいて来る人はいない。

「やっと、終わった……」

 一言呟いたオレは校門へ向かって歩き出す。


 オレにとって、この三年間の学校生活は何も得る物が無かった。

 授業中教師の講義は無視して、難しい問題集を解き続けていた。

 教師は何かとオレに指導をしてきたが、一切無視していた。

 定期試験だけは真面目に受けて、常に好成績を収めていた。

 運動も徒競走などの個人競技は良い記録を出すが、球技などのチームプレー競技では非協力的でチームの足を引っ張っていた。

 クラス内でも非協力的で、クラス行事などに一切関わらなかった。


 最初は成績などで近づいて来る人がいたが、それに対しても無視を続けるうちに誰も寄って来なくなった。


 この学校でオレの存在は無い物になっていた。

 当然、オレもそれを望んでいた。

 オレはこの三年間「孤高を貫いた」のだ。


 殆どの卒業生は地元の学校へ通うのに、オレは四月から都会の超名門進学校へ進む。

 この学校始まって以来の快挙だが、教師を含めて誰も祝ってはくれなかった。


 校庭では卒業生の集まりに、在校生が加わり一段と別れの情景を醸し出していた。


「春は別れと涙の季節と言うが、オレにとってはただの季節の通過点でしか無いな」

「別れを惜しむような人は誰もいないし……」

 校門を出たオレは家の方角へ向きを変える。


「A山先輩!」

 突然、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、2年生のS子が立っていた。

 オレが唯一話をした事が有る後輩だ。


「先輩、卒業おめでとうございます!」

「別に、祝うほどの物でも無いし……」

「いえ! 先輩のおかげで私たち文芸部はとても助かりました!」

「そんな事、あったかな?」

「はい! 先輩が文芸部員になってくれたので、廃部にならないで済みました!」


 思い出した、オレの教室に受験対策の為に退部するクラスメイトを説得に来ていたな。

「別に部活動に出なくても良いです」

「名前だけでも残してくだされば」

「先輩が退部すると、人数不足で廃部になってしまいます」

「せめて、『市の文芸コンクール』まで残ってください!」

 S子は一生懸命に説得していたな。

 二人のやり取りを横で聞いていたオレは、

「誰でも良いなら、オレの名前を貸してやるよ」

「しかし、オレは一切部活動には参加しないからな」

「それに、こんなその場限りの事をしてもオレが卒業すれば来年も人数不足になるぞ」

「そうならないようにするには、何か実績を作って来年の新入生にアピールをしないと」

「ありがとうございます! 頑張って文芸部の実績を作ります!」

 S子はオレの手をしっかりと握って感謝をしてくれたな。


「あれから先輩の言葉を胸に部員一同頑張ってきました」

「おかげで我が文芸部は『市の文芸コンクール』で『特撰』に選ばれました!」

「それから先輩が都会の進学校に合格したので『我が校一の天才が所属した部活』として箔が付きました」

「これで今度の新入生にアピールができます!」

「あとは、この文芸部を残して行けるように努力していきます!」

「ありがとうございます!」

「先輩も都会の学校で頑張ってください!」

「ああ、ありがとうな!」


 オレはS子と別れ家路へと向かう。

 オレは『孤高を貫いて』学校やクラスに関わらないでいたが、オレの何気ない一言が文芸部に新たな伝統を生みだしていたとは……

 オレは心の中が少し暖かくなっていた。

 目には涙が浮かんでいた。

「春は悲しくて泣く季節ではない」

「嬉しくて泣く季節だ……」


 おわり


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孤高を貫く わたくし @watakushi-bun

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