第20話 推しのアイドルとアルバム鑑賞


 日曜日の15時。

 俺は音葉が買い物のついでに買ってきてくれたドーナツとホットコーヒーを飲みながら、ソファに座ってのんびりとしていた。

 日本には四季があると言うが、ここ最近は夏と冬の二季敷かないのではないかと思えるほどに、寒暖差が激しい。

 つい2週間前まで冷房をつけていたのに、今となっては暖房が必要だ。


 そんな暖房の効いた暖かいリビングで、食べるドーナツとコーヒーは格別で、甘味と苦味のハーモニーが最高に美味しい。

 俺の隣にピッタリと座る音葉も美味しそうに食べている。笑顔でドーナツを口いっぱいに頬張る姿はとても可愛らしかった。


「ねぇねぇ、ゆうくん!この期間限定のさつまいも味のドーナツ、すっごい美味しいよ!」

「えぇ……?ほんとに?そういう期間限定のやつって変なの多くない?」

「確かに変なの多いけど……これは美味しいって!ほら、あ〜ん!」


 音葉は自分のドーナツをちぎって、俺の口元に近付けてくる。

 そうして、俺はそのドーナツを差し出された指ごと口に入れた。


「ちょ……!?ゆうくん!?私の指は美味しくないって!……きゃっ!そんなに舐めないで!!」

「うん、これすっごい美味しいよ!」

「な、何言ってんの!!……ってドーナツの話か……そ、そうだよね……美味しいよね……」


 音葉は、小さな声でボソボソと喋りながら、床の方を見ている。

 その真っ赤な顔がとっても可愛くて、揶揄いがいがあるというものだ。


「もう……ゆうくんのばか……」

「はぁ……音葉は可愛いなぁ……」

「だからそういうこと言うなぁ……!」


 すると音葉は顔をぷくっと膨らませて、俺の肩をぼかすかと殴ってくる。

 その仕草や、ころころと変わる表情が愛おしくて、俺は思わず笑みが溢れてしまう。


「ゆうくん!なに笑ってるの!私怒ってるんだから!」

「悪い、悪かったって!」

「ほら!まだ笑ってる!……もう!」

「だって音葉が可愛いから……」

「また言った!ゆうくんのばかぁ……何かゆうくんを辱める方法はないかなぁ……」

「な、なんだよ辱めるって……」

「あ。そういえばこの前良い物が!!」


 そう言って、音葉はソファから立ち上がり、ドタバタと足音を立てながら納戸へと向かう。


「何するつもり……?」

「ふっふっふ……それはねぇ……じゃ〜ん!」


 音葉が納戸から取り出してきたのは、白い表紙の分厚い本であった。


「なんだそれ……?」

「これはねぇ〜私が幼稚園の頃からのアルバムです!!」

「そ、それがどうしたんだ……?」

「ふふっ、ここにはゆうくんの写真もいっぱい入ってるからね!何か変な写真でもあるでしょ!」

「ふ、ふ〜ん……そんなのないと思うけど、何だか緊張するな……」

「だったら一緒に見ようよ〜!」


 そして、音葉はその大きなアルバムをソファの前のローテーブルに置き、2人でソファに座る。

 幼稚園時代〜と書かれたそのアルバムには、入園式からの沢山の写真が時系列順に綺麗に並べられていた。


 最初のページは、入園式の写真だ。沢山の子供たちが写っているものの、やはり音葉の可愛さは当時から凄まじく、目を見張るものがあった。

 そして音葉の隣には、知らない子供に囲まれて緊張しているのか、べったりとくっついている俺の姿もあった。


「ねぇねぇ!この時のゆうくん、私にくっついててめちゃくちゃ可愛い〜〜!!」

「や、やめろよ……なんか恥ずかしい……」

「ふふっ、まだまだあるからね〜!!」


 音葉は悪戯心のこもったニヤニヤした目で、アルバムを捲る。


 そうして、次に出てきたのは俺と音葉が一緒に幼児用プールで遊んでいる写真であった。

 プールで遊ぶ音葉の姿は、やはり今とは違った可愛らしさがある。そして、その奥にはプールに入って遊ぶ音葉をプールサイドから眺めている俺の姿があった。

 恐らく水が怖かったのだろう。


「この奥に写ってるゆうくん!泣きそうな顔してて可愛いぃ〜!!」

「も、もうこれぐらいにしろよ……!」

「ふっふ〜さっきの仕返しだからね!まだまだ終わらないよ〜!」


 音葉の笑顔は、ここ最近で一番のものだった。

 そんなに幼少期の俺を見るのが楽しいのか……。


 そして、ページを捲り続けると、そこにはクリスマス会兼音葉の誕生日会が行われていた。

 音葉の誕生日は12月24日なので、誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントが一纏めにされることをよく嘆いていたのを思い出す。


 大きなケーキと共に、音葉が満面の笑みでピースをしている写真は、とっても可愛らしい。

 さらに、その隣の写真には、俺が音葉にプレゼントを渡すところが写されていた。

 プレゼントは、駄菓子屋でもらえるおもちゃの指輪で、音葉はそれを嬉しそうに左手の薬指にはめていた。


「わぁ〜!この指輪!懐かしい〜!今でも家の宝箱に大切にしまってあるやつだ!」

「そうだなぁ……ここからほんとに結婚することになるとはな」

「ふふっ、そうだねぇ……今年のクリスマスも楽しみだなぁ……」

「そ、そんなに期待すんなよ?」

「えぇ〜!ゆうくんがしてくれる事ならどんなことでも嬉しいよ?」

「やめろやめろ!恥ずかしいから……」



 寒風が外を吹き抜ける中、家の中に広がる温もりが、俺たちの心に安らぎをもたらしていた。



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アイドルを辞めた幼馴染との新婚生活は幸せすぎた 冬たけのこ🎍 @budoumikan

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