第19話 推しのアイドルと秋のお買い物デート


「ふふっ、ゆうくんとデートだ〜!」

「別に近所のスーパーだけどな……」

「こういう方が、新婚っぽくて良いじゃん!」


 日曜日の昼下がり。

 俺たちは、二人で手を繋ぎながら、晩御飯の買い出しのために、近所のスーパーへと向かっていた。


 夏も終わり、秋の風が心地よい日、音葉は秋らしい長袖のファッションで彩られていた。

 落ち着いた白ニットのセーターに、少しゆったりめのデニムジーンズの組み合わせは、大人らしさを感じられた。

 半袖の時の無邪気な可愛さとは異なる、大人なファッションに、俺はいつもに増してドキドキしてしまう。


「今日の音葉のファッション……すっごい大人っぽくて素敵だよ……」

「お!分かってくれた!ゆうくん意外とこういうの好きでしょ〜?」


 そう言って、音葉はその場でクルッと一周回る。

 音葉の髪が秋風になびき、その目には秋の空を映すような澄んだ輝きがあって美しい。

 俺はそんな音葉を見て思わずドキッとして息を呑む。


「あ!今ゆうくんドキッとしたでしょ!」

「べ、別にしてねぇし〜!」


 新婚生活を経てなのか、最近音葉のセンサーがさらに敏感になっているように思う。

 俺の感情はほぼ全て筒抜けだ。

 音葉はニヤニヤとした楽しそうな表情で続ける。


「もう……ゆうくんは正直じゃないんだから……まぁそこが可愛いんだけどね!」

「う、うるさいなぁ……」


 そうして、俺は恥ずかしくなり、それを紛らわそうと音葉の頭を撫でる。

 音葉は俺に頭を撫でられるのが好きなようで、嬉しそうに俺の体にくっついてくる。

 正直歩きにくいが、音葉の可愛さを考えればどうって事はない。


 俺は、音葉のことを撫でていた手を、そのまま肩に回し、音葉をギュッと抱き寄せる。


「ちょ……!?ゆうくん……!?人前で恥ずかしいよ……」

「別に良いじゃんか、新婚なんだし……」

「ゆ、ゆうくんがそう言うなら……」


 音葉は恥ずかしそうに下を見つめながら、スーパーへと足を進める。

 さっきまでのニヤニヤとした表情とのギャップが、たまらなく可愛らしい。


「ね、ゆうくん……もうちょっとこうしてたいかも……」

「実は俺も……」

「ふふっ、お揃いだねぇ……」


 そして、俺たちはスーパーへの通り道にある誰もいない公園のベンチへと座る。

 さっき自販機で2本買った温かい缶コーヒーの片方を音葉に手渡す。

 段々と寒くなってきたので、こういう缶コーヒーが身に沁みる。


「ありがと〜ゆうくん!気が利く〜!」

「いつの間にか寒くなったよな……」

「そうだねぇ……あっという間の夏だったね……」


 俺たちは、ベンチで肩を寄せ合い一息つく。


「ねぇ……ゆうくん……寒いからもうちょっとくっついても良い?」

「い、良いけど……誰が見てるか分からないぞ?」

「どうせ誰も見てないから……」


 そう言って、音葉は俺の膝の上に乗り、顔を俺の胸にうずくめる。

 俺はその音葉を抱きしめて、頭を撫でる。

 音葉からは、女の子特有の良い香りがしていて、胸の鼓動が早くなる。


「ゆうくん……あったかいね……」

「そうだね……」

「ふふっ、ずっとこうしていたい……」




 公園のベンチで包まれた温もりは、秋の日差しと共に、音葉の笑顔をより輝かせていた。



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