兵器

 ガラスが割れた。


 直後に衝撃と爆風が人々が長き時間をかけ築き上げた文明の時間を巻き戻す。

 創造することは時間がかかるのに破壊となるとなんとあっけなく儚いものなのだろう。俺は双眼鏡で荒れ地となった大地を見ながらそう思う。


 今は隣国と戦争中である。開戦からすでに2年が経過しており、我が国の政府はこれ以上の戦争の長期化を避けるために、より強力な兵器の製造を我々科学者に命令してきた。

 我々はその命令に従いさらなる研究を進た。そしてある兵器を完成させた。それは破裂した瞬間に下方にハイパワーレーザーを射出し、一瞬で超高温を発生させ、固体を瞬時に気体にすることによって水蒸気爆発を起こすという代物だった。その威力は絶大だった。大規模な水蒸気爆発はあらゆるものを飲み込み消し炭にしていく。残るのは大きなクレーターだけだ。


 実験は成功し、兵器はさっそく使用されることになった。今は爆撃機で敵国の大規模な都市に落とすべく輸送中である。俺や数名の科学者もそれに同乗している。政府の役員からはこの作戦が成功した暁には、君たちは戦争終結を早め、自国を救った英雄として語り継がれるだろうと言われた。

 俺は気分が高揚していた。俺が作った兵器が国を救うのだ。そして未来永劫語り継がれていく。こんなにも名誉なことがほかにあるだろうか。俺は思はずにやけてしまう。


 爆撃機が雲の中に突っ込んだ。あたり一面が白色に包まれる。周りはもう何も見えない。けれどパイロットが言うにはこの雲を抜けると敵国本土であるという。もう少しだ。もう少しで俺は英雄になる。

 もう少しで雲を抜けるというときに雷が爆撃機を直撃した。爆撃機から火が上がり、態勢を大きく崩す。爆撃機は速度を上げて落下していく。俺はこんな状況にも関わらずいつもと変わらない兵器を見た。そして俺はこう思った。創造することは時間がかかるのに破壊となるとなんとあっけなくむなしいものだろうと。


 爆撃機は実践で使用されることのなかった兵器と、科学者の野心を乗せたまま海に落ちた。浮かび上がることはもうない。

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ガラスが割れた 坂間 新 @kokohashi

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