第4話 剣術訓練

 この世界には3つ、剣都と呼ばれている場所がある。

 都といっても、そこには世界屈指の剣の大道場があるだけ。

 その3つの剣都は、聖界、龍界、そして魔界にある。

 聖界の大道場は、大聖堂の一角に道場を構え、聖堂騎士団に向けて、「聖王様のための剣」を伝承している。

 龍界の大道場は、山の奥深くに道場を構え、ダイナミックな、「飛竜と戦うための剣」を伝承している。

 魔界の大道場は、魔樹海の中に道場を構え、魔力を駆使した、「命を奪うための剣」を伝承している。

 それぞれの大道場で、それぞれの剣士の卵が、それぞれの目標のために、今日も懸命に、剣を振っている。

                           (『世界紀行日誌』より)

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 俺は5歳になった。

 俺はいま、中級魔術の習得に取り掛かっている。といっても、もう大部分は習得してしまった。残すところは回復魔術のみとなっている。

 この回復魔術、基礎でも、初級でも、中級でも、習得に一番時間がかかっている。回復魔術が難しいのか、それとも俺が回復魔術を苦手としているのか。

 母に聞いてみたところ、回復魔術は結構苦労する人が多く、俺はこれでも上達がはやい方らしい。回復魔術が難しいと思っておこう。

 あと、中級の教本には探索魔術の記述があったため、それも習得しようと思っている。除霊魔術はどこに載っているのだろうか。


 そして、5歳といえば、男の子は剣術を習い始める歳だ。俺は今年の誕生日には、木製の剣を両親からプレゼントされた。どうやらこれも慣習らしい。俺は今年、上級・王級・特殊魔術がたんまりと載っている『魔術大全』を注文しようと思っていたのだが。まあ、中級もまだ習得し終わってないし、焦る必要はないか。両親に変な心配を与えるのも申し訳ないし。

 父による剣術訓練が始まるのは明日から。

 父・カリズム=シャルロは、聖界の出身だ。聖界の修道士の家に生まれたカリズムは、修道士養成の下級学校に入っていたが、修道士になるのを嫌がり、卒業後は聖界剣術大道場に入門、「聖界風剣術上級」の称号を得て卒業し、聖堂騎士団に入団した。騎士団の一員として人界に出張中、母・ベニタスと恋愛し、結婚したらしい。

 両親とも現在は23歳だが、カリズムはこの短い年月の中で上級剣士になったうえ、結婚と子育てまでも経験しているのだ。剣士の階級も、基礎、初級、中級…といった魔術のランクと変わりないことを考えると、あらやだ、うちのパパン、すごい。僕、勇気もらっちゃったよ。

 まあ、勤務中の交際が問題となって聖堂騎士団を解雇され、今は野良の剣士となっているわけだがね。

 ともかく、そんなすごいやつに剣術を教えてもらえるのだ。どんな過酷な訓練でも乗り越えてやる。待ってろよ、ファンブル迷宮。

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 「ではフォルト、これから剣術の稽古を始める」

 「よろしくお願いします、父さん!」

 こうして、俺の剣術訓練が始まった。

 とはいっても、最初はひたすら筋トレと素振り。剣術の心得みたいな座学から入るのかと思ったが、いきなり始まった。この父、真面目な話を長々とできないタイプなのだ。

 筋トレの内容は、腕立て伏せ、腹筋、背筋、ランニングと、前の世界と同じ。TRPGにふけっていた俺は、体力がなくついていけない…ということはない。俺は日々高みを目指しているのだ。ある程度のトレーニングは、実は少しずつやっていた。秘密の特訓、ってやつさ。

 基礎トレが終わった後は、基礎剣術の型ごとに、素振りだ。

 基礎剣術にも型がいくつかあった。TRPGでの剣術は、「近接戦闘【剣】」というものしかなかったから、剣術には知らないことが多い。

 一個ずつ、覚えていこう。

 そんなこんなで、剣術訓練は進んでいく…。

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 剣術訓練を初めて3~4時間くらい。

 「それでは今日の稽古を終了する」

 「ありがとうございました!」

 今日の剣術訓練が終了した。

 今日はずっと素振りだったな。模擬戦とかはいつ頃出来るだろうか。

 「フォルト、明日は父さんと模擬戦だ」

 「えっ?」

 お、もうできちゃうの?

 「フォルトの伸び具合は父さんの思っていた以上だった。すごいぞ。これで、基礎剣術を習得したものとする。明日から始める初級からは、模擬戦が中心だからな」

 1日で習得しちゃったの!?

 「基礎剣術習得って…今日始めたばっかだけど…。合格基準は何だったの?」

 「型の素振りの正確さだ」

 そ、それだけかーい!

 「素振りだけでも苦労する人は苦労するからな…。いや、最初の準備運動でバテるやつが多い」

 確かに、最初は普通の5歳児にはきついだろう。俺みたいに少し鍛えたやつじゃないと、乗り越えられないだろう。

 「にしても剣術も魔術も、フォルトはすごいな。母さんの言っていたように、5王使徒にでもなるんじゃないか?」

 「5王使徒?」

 「ああ、5界の王に力を認められた、最強の戦士だ。今いる6大王のうち、封邪王は、5王使徒だったな。」

 5界の王、5王使徒、6大王…。うーむ、数字が多くてわかりにくい。今度、書籍でも漁ってみるか。

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 初級剣術の訓練が始まって1か月近くが経った。

 さすがに初級剣術の習得には時間がかかりそうだが、カリズムとの模擬戦にもだいぶついていけるようになった。最初は毎日のようにボコボコにされたからな。あと、この1か月で、中級魔術の習得を完了した。次は特殊魔術と上級魔術だな。早く「魔術大全」を入手しなければ。

 それにしても最近、剣術、特に聖界風剣術というものが分かってきた気がする。カリズムとの模擬戦のなかで気が付いたこと。聖界風剣術は、「守りの剣術」だ。防御のためのテクニックというものがしっかりしている。確か、『世界紀行日誌』に、「聖界風剣術は聖王様のための剣術」とか書いてあっただろうか。

 魔術主体の攻撃に、剣術での防御。いい組み合わせかもしれない。

 ちなみに、剣術の訓練中は魔術を使わないようにしている。使ってしまったらフェアじゃないし、トレーニングにもならない。

 「フォルト、そろそろ休憩は終わりだ。模擬戦を再開するぞ」

 おっと、父さんからのお呼び出し。ちょっと行ってくら。

 

 今日も今日とて剣を振る。

 カリズムの攻撃の一手。

 それを防御剣術で直撃を避ける…

 あれ?思った軌道と違う。そこに来る…

 あ。フェイントだ。まずい!

 

 ここからのことは無意識のなかの出来事だったため、よく分からなかった。

 気が付いたら。

 カリズムが吹っ飛ばされていた。

 俺が吹っ飛ばしたのだ。俺が実力でやった?

 否。

 無意識のうちに初級魔術「電光」を唱え、電光きらめく木刀で、カリズムを吹っ飛ばしたのだ。

 禁忌を犯した。そう思った。

 打撃と電撃をモロに食らったカリズムは、意識を手放している。

 俺は急いでカリズムに中級再生魔術をかけてやる。

 「いてて…いやあ、派手にやってくれたな、フォルト」

 「…っ、…ごめんなさい」

 名前を呼ばれて、ついビクつく。めちゃめちゃ怒られる。謹慎、勘当を言い渡されるかもしれない。そんな思いが脳内をめぐる。今のは俺が悪い。魔術を使うのは卑怯だ。

 「お前、魔界風剣術もいけたか」

 え?マカイフウケンジュツ?聞いたことはあるけど…。

 「なあに、知らないって顔だな。魔界風剣術は、魔術によって剣を強化する剣術だ。殺傷能力が一番高いヤツだな。魔術を混ぜてくるとは実にお前らしい。二つの剣術を混ぜて使える人は少ないからな。やっぱすげえヤツだ、フォルトは」

 なんだか新たなものを習得してしまったらしい。

 剣術で魔術を使うのは禁忌ではなかった。

 

 混合剣術、はじめました。

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100ファン魔術師 ~致命的失敗のち異世界生活~ かじきまろ @tsunamaro

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