第3話 一人作戦会議

 【特殊魔術】

 前述したように、特殊魔術について探索者諸君が知っておくべきことはあまりないが、知っておくと便利な特殊魔術もあるので、紹介しておこう。

 

 ・探索魔術

 記憶の中にあるものを探し当てる能力。判定はシークレットダイスによって行われる。失敗すると、まったく違う方向に誘導されることになるので、注意が必要だ。

 

 ・除霊魔術

 超科学的存在の撃破のために用いる。戦うべき相手が科学的存在か、超科学的存在かは、シナリオ若しくはKPの判断に委ねられる。

              (『クス伝説TRPGルールブック 第3版』より引用)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 もうすぐ俺は4歳になる。

 俺はこの2年ほどで、攻撃魔術・防御魔術に関しては初級魔術を習得した。回復魔術はやや難しい(11歳くらいから習い始めるものらしい)が、おそらく1年以内には習得できるだろう。

 初級魔術の完成は、下級学校(6歳~12歳で通う、小学校みたいなもの)の魔術科で目指すものらしいから、すでに俺は、下級学校卒業間近、といったレベルだ。

 なかなかいいペースだろう。

 

 俺もこの世界に来てはやいもので4年。

 ということで、ファンブル迷宮探索まで残り12年だ。長いようで、意外とはやく来るものだ、こういう来てほしくない日というのは。

 このまま無計画にやっているのもいいが、どこかで大失敗する可能性はある。こうした事態は絶対に避けたい。

 

 というわけで、第1回作戦会議の開催を決定した。

 参加者は、フォルト=シャルロ。以上。

 俺一人だ。仲間はいない。寂しいなあ。


 まず一つ目の議題については、この状況。

 そう、仲間だ。

 現在、俺は独りぼっちだが、あのTRPGを思い返してみよう。俺は少なくとも2人の仲間を集められるはずだ。その仲間とはそう、

 剣士・インジュラ=ジョナー。

 剣士・サナ=カルギュス。

 前の世界でのTRPG仲間の可能性が高い、この二人だ。この二人と出会えば、俺のこの状況、そして俺たちに待ち構えている未来を知っていて、一緒に行動してくれる人が増える。

 無論、俺はこいつらがどこにいるかは分からない。だから、俺のすべきことは、こいつらをこの広い世界のどこかから探し出すことだ。そのために俺はまず、冒険者を目指そうと思う。世界中を旅するなかで、あいつらを見つけ出すのだ。

 まあ最も、迷宮探索に行く未来が見えるのだから、どうしようと俺はどこかでいつの間にか冒険者になっているのだろうが。

 しかし、あの二人を探し出す手掛かりはあるか。そうだ。HOハンドアウトを思い出せ。ええと、何だったかな…。

 『HO1 あなたは、HO2と幼馴染で、今もよく行動を共にする。』

 『HO2 あなたは、宮廷騎士団を追われて、やや自暴自棄気味だ。』

 『HO3 あなたは、遊牧地帯出身の冒険者だ。』

 大体こんなことが書いてあったと思う。HO1はジュラのもの、HO2はサナのものだ。そうか、ジュラとサナは幼馴染、サナは迷宮探索直前に解雇されるものの、宮廷に従事する。つまり二人は、どこかの宮廷にいる可能性が高い。いい情報を知った。一方、HO3は俺のものなのだが…。うーん、情報に乏しい。なんで俺だけこんな雑なんだ。俺の行動指針が分からない。自分で決めろってことか。厄介なHOを選んでしまった。

 まあ、手掛かりはつかめた。冒険者をめざして動くとしよう。

 あと、そのほかにも仲間が欲しい。だから、学校には行こう。読み書き計算初級魔術をほぼマスターした俺にとっては不要かもしれないが、学校は友達作りの場でもある。たとえ両親に反対されたとしても、ここは強硬姿勢で行こう。


 二つ目の議題。それは、俺の成長方針だ。

 12年後を生き延びるには、当然のことながら強くなっておかなければならない。ただ強くなるだけじゃだめだ。正しく、強くならなければならない。

 もうすぐ初級魔術の習得を終える。そうしたら次は中級魔術だ。中級魔術から先は家にある『魔導読本』『初級魔術教本』には記述がない。4歳の誕生日にでも、母に『中級魔術教本』を注文しようか。

 12年後までに、上級魔術は完璧にする。いや、それだけでは足りない。1,2分野くらい、王級魔術が使えていいだろう。

 特殊魔術をいくつか習得してみてもよいだろう。ルルブには特殊魔術の記述は少なかったが、探索魔術と除霊魔術が書いてあったのは覚えている。迷宮探索なのだから、探索魔術は当然持っておいた方がいいだろう。除霊魔術はどうだろう。最後は、骸骨との戦いだったな。骸骨は霊に入るのだろうか。まあ、覚えておくにこしたことはない。

 確実に、生き延びるのだ。

 あと、魔術だけでは心もとない。剣術もいけるところまで強くなりたい。

 この世界、いや、この国?では、5歳になった男子は剣術を習うそうだ。道場で習う人、知り合いに習う人、様々だ。

 うちでは、どうやら父が剣術を教えてくれるそうだ。父はいまからやる気に満ち溢れている。この人厳しそうだなあ…と思いつつ、訓練はしっかり受ける気だ。厳しい試練を受けて、強くなるのだ。良薬は口に苦し、ってところだ。

 俺は今のところ、魔術師になる気がするが、剣士といっても恥ずかしくないような、剣術の強さも手に入れたい。二刀流、万歳。


 三つ目の議題。俺の行く末だ。

 俺は、16歳になってから迷宮探索に行くという前提で事を進めているが、そもそも迷宮探索に行かないという選択肢もあるのではないか。

 そもそも俺はどんな経緯で、迷宮に行くことになったんだっけ…。シナリオ概要を思い出そう。

 『それは、宮廷から少し離れた砂漠。

  ある日から、砂漠に行った冒険者が消息を絶つという事件が起こるようになっ  た。

  宮廷からその事件の調査と解決を任されたあなたたち探索者は、魔の砂漠へと突き進むことになる…。』

 宮廷からの依頼か。サナのいる宮廷が関わるのか?砂漠の近い宮廷…。とはいっても、この人界の真ん中の大部分は砂漠。それを囲むような山脈をはさんで宮廷があるということが多い。軍事的理由だろうか。

 というわけで、この情報だけでは、サナたちの居場所はわからないし、迷宮の特定もできない。なんていう迷宮だったかな…。それが分かれば簡単なのに…。大事な情報を忘れてしまった。くそーーーー!恨むぞ…俺の記憶力の無さを…!

 忘れてしまったものはしょうがない。冒険を積むなかで、情報収集もしておこう。

 ファンブル事件を未然に防げたら、これ以上のことはない。


 以上で、今日の作戦会議、終了します。

 次回は、一人作戦会議でないことを、心から祈って。

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 一人作戦会議の夜、夕食の場にて。

 「フォルト、もうすぐお前の4歳の誕生日なわけだが…何か欲しいものはあるか?」

 「なんでも好きなものを言ってね!母さんたち、はりきって用意するから!」

 「いや、何でもって…。」

 よしきた。俺はもうその答えを準備してあるんだ。

 「僕、『中級魔術教本』が欲しい!」

 さあ、言ったぞ。俺が欲しいもの。「なんでも」って言ったよね?

 両親は、困ったような、そんな笑みを浮かべている。あれ、まずいこと言った?確かに、ちょっと値は張るかもしれないけど、高価すぎる、というほどのものではないはずだが…。

 「うん、わかった、わかったわ。母さん、用意するから…。」

 「フォルト、お前、生き急いでいないか?」

 言葉を濁すような母とは裏腹に、父は直球で、こう言う。

 「わかった。お前の欲しいものは、用意する。するのだが…。いや、大丈夫。ちょっと心配事があっただけだ。」

 父の心配する気持ちもよくわかる。息子が、何か焦ったように動いているのだから。なんだか、よくわからないけど、心配なのだろう。

 「僕は…俺は…強くなりたい…。」

 俺が言えるのはこれだけだ。

 

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