第2話 魔術師入門
【魔術の発出】
魔術を発出したい探索者は、その魔術の種類(攻撃魔術・防御魔術・回復魔術)・属性(攻撃魔術の場合)・再生or解毒(回復魔術の場合)をKPに宣言する。
また、階級を基礎・初級・中級・上級・王級(王級には5種類あるが、探索者諸君は考慮する必要はない)を選択することが出来る。
成功条件・魔力消費は以下のようである…
(『クス伝説TRPGルールブック 第3版』より引用)
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俺は言語学習も兼ねて基礎魔術を習得することにした。
魔術には魔術体系とは別に階級もあるらしく、大きく分けて基礎、初級、中級、上級、王級の5つだ。
基礎は、ただ魔力を出力するだけ。実に入門的だ。
初級は出力した魔術を実際に利用する。6歳から通う下級学校の魔術の授業では、攻撃・回復のどちらかの初級の習得を目指すらしい。
中級からはいよいよ職業にできるレベルだ。とはいっても、趣味で中級を学ぶ人もいるし、魔術系の上級学校・大学では中級以上を学ぶから、中級を扱える人は少なからずいる。中級を触った程度では、下級戦士レベルだろう。
上級はプロを名乗れるレベルだ。魔術大学では、特定の分野の上級について研究成果を出すことを目標としているが、あくまで研究であり、実際に上級魔術師を輩出するような大学は上位の魔術大学だ。中級と上級の間には、まあまあな壁がある。
王級は少しややこしい。王級には5種類ある。まあ、ルルブには王級5種のことは書かれていなかったため、俺はこの存在を初めて知った。この5種とは、ランクが高い方から順に、魔王級、龍王級、聖王級、人王級、獣王級だ。これは、この世界に存在する5界(魔界、龍界、聖界、人界、獣界)の初代王の魔術のランクに由来するらしい。この5界のこともルルブに載っていたような気がするが、よく覚えていないため、今度調べよう。ともあれ、王級ともなると、習得は困難を極める。魔術師のトップを目指す人が習得するのだろう。
16歳の迷宮探索を確実に切り抜けるためには、王級習得も視野に入れたい。
まあ、いまから上ばかりを見ていてはしょうがない。まずは基礎魔術だ。基礎は大事だからな。
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さて、いよいよ実践だ。
とはいっても、どうすれば魔術が出るのかは分からない。TRPGではKPに宣言して許可が下りれば、ダイスを振っていざ発射という感じだったが、実際やってみるとなると、そうはならないだろう。まずは理論の理解からだ。
この世界の魔術には、よくあるファンタジーもののような詠唱はいらない。体中の魔力の流れと、魔術の名前がすべてだ。適切な魔術の流れを体中に組み、発出と同時に魔術名を正しく唱えられれば、成功だ。魔術名を唱えるのは、魔術の認識のブレを防ぐためだ。魔術名を言わずに発出しようとすると、上手く出力できないらしい。
詠唱すれば出る魔術とは違い、体内の魔力をうまく操作しなければいけないので、やや難しい。詠唱だったらよかったのに。まあ、詠唱は中二病患者みたいでイタイような気がするから、別にいいか。べ、べつに詠唱するほうがカッコいいなんて、思ってないんだから!
とりあえず何から手を付けるか。電属性とか便利そうだな。
この世界には電気がない。LEDも、電子レンジも、何も無い。こんなところで電気が活用できたら、攻撃目的以外でも、生活に大いに役に立つだろう。
まずは電属性基礎攻撃魔術だ。書いてある通りに魔力を体中に張り巡らして…。
いざ!
「
魔力が吸われる感じがした。そして、ビリっと、掌に弾けたような感覚があった。これは…静電気だな。基礎魔術はあくまで魔力を出力するだけ。割と簡単に成功したが、これでは活用できない。
とりあえず、一通り基礎魔術を習得して、さっさと初級魔術に移ろう。
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(視点:母)
最近、フォルトの様子がおかしい。
「魔導読本」を読みながら、何かをぶつぶつ呟いていると思ったら、魔術を使った。基礎魔術を習得するには、あまりにも早すぎやしないか。基礎魔術の習得は早くとも5歳だ。
思えば、フォルトは最初からやや変な子だった。
まずはフォルトを生んだとき。フォルトはなかなか産声をあげなかった。「何でここに?あんたは誰だ?」と言わんばかりの懐疑的な目で、こちらを見てくるのだ。助産師さんも困惑といった感じだった。フォルトはしばらくしてから、まるで空気を読んだかのように、棒読みのような産声を上げた。
それから1か月くらいは、フォルトは茫然といった感じだった。こんなに悩ましげな赤ちゃんは、見たことがない。
1か月ぐらい経ってから、ようやくフォルトは赤ちゃんらしい行動をし始めた。とはいうものの、やはりどこか悩ましげだ。あるときには、まるで死期を悟ったかのような、絶望的な表情もした。この子はなにか心を病んでいるんじゃないのか。心配だった。
1歳になって、フォルトがすごくコミュニケーションを求めてくるようになった。表面上は赤ちゃん言葉だが、なんだかもう言葉を理解しているような気すらした。すごい訴えかけてくる。まあ、母としては賢くてよろしい!というところなのだが。
フォルトは変な子だが、やはり私の息子。息子は可愛らしい。そう思って息子に頬ずりすると、息子はニタニタと笑う。まるで変態おじさんのような表情。正直、気持ち悪い。それでもフォルトを愛することには当然変わりないが。
2歳になって、息子はよくしゃべる子になった。子供っぽくない話しかたもする。本当に賢い子だ。寝る前の読み聞かせが効いたのだろうか。
そう思っていたら、急に「魔導読本」を片手に魔術の習得を始めた。驚くべき速さで、基礎魔術を習得していく。最近は基礎魔術をすべて習得したらしく、初級魔術の習得を始めた。初級魔術って、8歳から習い始めるものよね…。
息子は魔術の天才なのか。いや、天才的なのは魔術の分野だけではない気がする。
旦那様は、フォルトを立派な剣士に育てたいようだ。この天才児は、剣術も魔術も極めてしまうだろう。
息子は、あの5王使徒にでもなるのではないか。
5界の王に認められた、最強の戦士に。
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