最終話 公判トーク4
村井「ヒロさん、前に一度聴いてるが警察署での事を改めて訊きたいが良いかい?」
神野「勿論、何でも」
村井「取り調べ時間はどのくらいだった?」
神野「最初の制服警官の時は4時間半ぐらい。2度目の私服のは3時間ぐらい。ああ、こいつは現場検証に立ち合った例の下品な奴。信じられんが警部補らしい」
村井「内容はどんなん?」
神野「2度とも、同じような事を何度も訊いてきてたな。普通に考えたら1時間半はかからんと思うが、内容が思いだせない。一度実演があったが」
村井「書記は居た?」
神野「いやそれが……、気い付かんかった。刑事ドラマでは必ず居るね。でもあの小汚い部屋には居なかったと思う。それで取り調べ官がタブレット端末に直接入力していた。たぶん、初めに入力していたのは削除して最後の方で再入力したように思う」
村井「2度とも?」
神野「今のは最初の方。2度目の下品な方は後の1時間ぐらいで打っていた。誤字脱字だらけで、プリント後何度も打ち直してた」
村井「原告との関係とかストレッチを教える必要性とか訊かれんかった?」
神野「それがどうもよく覚えてない。どうしてかな? 惚けたかな?」
仙人「しょうもない質問ばかりだったん?」
神野「だと思う」
村井「最後に署名させられたんだよね?」
神野「そう。最初のは彼の打った文章に一度ざっと目を通して安易に署名してしまった。まさかこんな事で裁判になるとは夢にも思ってなかったからね。形式的に記録を取るだけかと思っていた。もし署名しなかったらどうなっていたのかな?」
村井「署名のないものは無効だから、検察官はそれでは裁判は起こせない。いや、起こしても分が悪い」
神野「その辺の知識が有れば、徹底的にやってたのに…先に村井さんに相談すれば良かったなあ」
仙人「ほんとやね」
神野「その時はまさか野々宮が後ろで糸を引いてるとは夢にも思わんかったので、自分が思ってたより上に当たってたのかなと思って警察相手の実演でも少し上にしてた。早く帰りたかったんで」
村井「それですんなり署名したん?」
神野「最後に妥協できない一文があったのでこれは拒否した。『著しく迷惑をかけ…』という文言だけは一旦拒否したが、後で訂正できるというんで、『この文言を外せばよいのか?』と彼が言いかかってたのに、早く帰りたい一心で署名してしまった。あれが大失敗やね、あまりに無知過ぎた、あまりに」
仙人「徹底して署名拒否すればどうなるん?」
神野「どうなるん、村井さん?」
村井「たぶん、一旦帰されて再度呼ばれるやろ。それでも話がつかなければ精神的拷問で責めてくるやろね」
仙人「精神的拷問?」
村井「ウンつまり、アメとムチを使い分けながら疲れさせて署名させようとするよ」
神野「当番弁護士は利用できるん?」
村井「あれは、逮捕された後の弁護だと思う」
神野「そうか。まあ、ヤツらがそんな手を使ってくるんなら、その時こそ……」
村井「ン? 何かあるん?」
神野「いや、何も……」
仙人「ヒロさんなら、警察相手に思い切りやりたかったんじゃあない?」
神野「いやまさか! 国家権力相手にそんな! まあ一度カチンと来たら、もはや言いなりにはならんけど」
村井「最初に相談受けた時の話で大体分かってたが、彼らは原告側からの訴えで99%有罪と決めつけていて、如何に早く自白文に署名させるかだけに絞ってたんよ。みんな一人の女に手玉に取られたのさ」
仙人「恐ろしい女やな」
村井「さてと、ヒロさん先日、山本さんから連絡有ったやろ?」
神野「ああ控訴の件ね、有った」
仙人「えっ、控訴?」
神野「控訴断念という連絡」
仙人「ああそうか。またやるんかと思った」
村井「元々、原告よりも美魔女の意志だったからね。偽証がバレればそれまで」
村井氏は愛用のトライアスロン用バイクで帰って行った。
神野と仙人はゆっくり歩いて、近くの学生食堂に向かった。
「ヒロさん、録音バレてたね?」
「そうだね、バレてたね。実はバレてると思ってた」
「えっ、じゃあ完璧だと思ってたんは俺だけ?」
「村井さんの言ってた通り、俺の脳みそであれだけしっかり覚えられるわけがない」
完
痴漢冤罪に遭わない為にー小説版・こうして痴漢冤罪は作られるー 門脇 賴 @chirolin
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