最終話「ここでおしまい」

 ライブハウスのステージの上は真冬でも暑い。スポットライトはまるで太陽みたいに眩しくて、熱を放っていた。何度経験してもライブの直前はちょっと緊張する。でも、その緊張感を楽しめるようにもなっていた。

 高校生になって、さらにライブを重ねて行ったことでお客さんはどんどん増えた。インディーズのレーベルからアルバムも一枚出した。ボクはネット配信だけでもいいと思ったんだけど、ミサトがCDにこだわったから、変なプレッシャーがあったけど、結果として結構売れたから、次作のレコーディングも決まってしまった。夏休みにはツアーをしようなんて話もしてるくらいだ。

 一方で、アノ先輩と剣崎先輩が少し離れた所の大学に進学しちゃったことで、イエロータンクは自然消滅してしまった。だから、もう一回エミを口裂け女に誘ったんだけど、断られてしまった。自分で一からバンドを作りたいらしい。


 学校生活は相変わらずだ。大学受験も視野に入ってくるから勉強はちょっと忙しくなったくらいだ。


 これがボクの今。


 小学校五年生の夏休みから全てが変わってしまった。ユミ姉ちゃんはもういないし、苦手な父親もいない。

 そういえば、父親は会社を辞めて実家でニートになってるらしい。あのプライドの高い父からは考えられないことだ。母はそれを聞いて満足げだ。ボクを女の子にしたのはユミ姉ちゃんじゃなくて母による復讐だったんだと思う。自分勝手な女だ。母への愛情みたいなものは薄れて、ほとんどなくなってしまった。スネを囓るだけ囓ったら、エミと一緒に出て行くつもりだ。


「凜は大学行くの?」

「あんまり興味ないかな。姉ちゃんは?」

「私も興味ないかも。それより東京に出てみたい」

 そういえば、東京への憧れはあまりなかった。ボク達が住む地方都市はそれなりに都会で、不便することはなかったからだ。ネットもあるし、地方だから、首都だからっていう意識もない。

「昭和の田舎者みたい」

 ボクが笑うと、エミは大げさに頬を膨らませる。

「じゃ、凜はずっとこの家にいるの?」

「私も出るつもり。大学に行くにしても、別の進路を選ぶにしても」

「だったら、一緒に東京行こうよ!」

「考えとく」

 そう答えながら、もう東京に行くつもりになっていた。ミサトやメイも誘ってみよう。


 今のボクはしっかりと未来を見据えることができる。まだまだ、流されやすい部分もあるけど、確かに変わった。それが良かったのか悪かったかは、きっと死ぬ時までわからないんだと思う。だから、そこは考えなくていい。


 ここで一旦、ボクの物語に幕を下ろす。どうか、明るい未来が待っていますように。いや、自分で掴みに行こうと思う。

 エピローグなんてつまらないから、ここでおしまい。

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「女の子になって」と幼馴染に迫られて ヨシモトミキ @miki_yoshimoto

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