第6話 主人公とファン
『キアラちゃんが好きなんですよ、わたしは』
『深夜ちゃんはキアラ推しなのね、ド王道なタイプなのね』
病室で、ベットに寝転がりながら深夜は自身の身体を隅々まで調べている看護師に話しかける。
顔はクリップボードに向いているが、看護師も声の調子を上げながら話に乗る。
『看護師さんから聞いてる話だと、キアラちゃんは“可憐”で強いらしいじゃないですか! 最高じゃないですか!』
鼻息を荒くしながら、言葉に想いがこもる。息を荒くしすぎると死ぬのだが、そんなことは関係ないとばかりに、熱弁を止めない。
『記憶喪失になっても、魂が破壊されても優しい善性が失われずに人助けに精を出して、街を歩けばトラブルに巻き込まれることも多々あるけど仲間との絆で乗り越えて愛を深める…わたしはCP(カップリング)は別に誰でも良いんですけど、いや誰でも良いって言えば語弊があるんですけど基本的に全員大好きで、でもその中で一番やっぱり聖女ちゃんが大好きというか、聖女ちゃんの誰と付き合っても最高そうと他のヒーローさん達との性格や見せてもらったり聞かせてもらった本編外のイベントの話(未プレイ勢への紹介PVやパンフレット)が本当に素晴らしくてそこでも色々考えるんですけど、やっぱり最後は幸せなら誰でも最高そうだなって———』
『はい、そこで止めようか深夜ちゃん?』
『むぐっ』
『ちゃんと来週には、手を使わずに操作できるデバイスで、ゲームが出来るよう準備してくるよ』
はやる気持ちを抑えられない少女の口を塞ぎつつ、現状の様子を紙に書き込む。
書き込まれた紙の端には、“来週までにゲームの調整”と書かれており、看護師は笑みを浮かべた。
・・・・・
・・・・
「私の他に【聖女】が出てくるなんて…」
「?」
ヘメラは、苛立った様子で上を向く。声は低く、怒りを孕んだのが感じ取れた。
「なんで【聖女】が名乗る者が増えるのが嫌なの?」
「…以前にも言ったと思いますけれども」
深呼吸をしながら、目線を下す。しっかり見つめ合ったところで、再び口を開く。
「【聖女】は神の代行者で、常に一人しかいませんの。私は先代が天に還ったことで、【聖女】として生まれましたの」
「入れ替わりで新しく生まれるんだね」
「ええ…ですけれど」
はぁ、と力なく溜息をつく。ヘメラにしては、珍しいことなのでニクスは驚く。
「私は死んでいない」
「? それは良いことだし、二人も【聖女】がいるのはもっと良いことなんじゃ」
「【聖女】は、二人も要らない」
言い切ったヘメラの様子に驚く。
先ほどから見たことがないほど様子がおかしく、とても回りくどい。これは異常事態ではないかとニクスは訝しむ。
「災いを跳ね除ける力を与えられた【聖女】は、神そのものと言ってもいい。何故、神を増やす必要があるのか…」
今の彼女は口を開けば吐息しか出ず、ヘメラは震えながら両肩を抑える。
「それはつまり、信ずる神が、私を不出来だと思ったと、思われ、私を見放しに…」
———分かりやすい。ヘメラちゃんは不安なのか。
「それじゃあヘメラちゃんは、【聖女】失格なんじゃないかと思ってるんだ」
「そうです…わね」
それなら、と立ち上がりヘメラの背後に回る。
怯えるように身体を震わせているるが、それを力を込めずに背後から、ニクスは両手で抱きしめる。
「ヘメラちゃんは【聖女】だよ。神様が選ばなくても」
「私はそうは思いませんわ。…神を崇め、私は神の代行者として民衆を救おうとした。けれど、新たな【聖女】が生まれたのは私よりもその人を…むぐっ」
ごちゃごちゃと喋る口に、菓子を突っ込む。二人の魂が存在するこの空間で、ニクスも自由に物を生み出せるようになった。なので、喋らせないようドンドンと入れていく。
———ヘメラちゃんに落ち込むのは、似合わない。
「そうじゃなくて、心持ちの話。アバントさんみたいに、他人に影響力があるいい人って事」
「ニクス…」
「大丈夫。ヘメラちゃんに助けてもらった私ちゃんがお墨付きを与えているから、大丈夫」
———だからその顔をやめて?似合わないよ?
「お姉ちゃん、元気出せ!」
ニクスは抱きしめていた手を離し、思い切り背中を叩く。精神世界なので痛みはないが、ヘメラは思い切り飛んでいく。
「ああっ、ヘメラちゃん」
「…ふふふ、貴女の心遣い感謝するわニクス」
吹き飛びながらの姿勢で、語りかける。距離はどんどんと遠くなるが、声はどこまでもクリアに聞こえる。
というか何処まで飛んでいくんだ、と遠くを見る。
「いいわ! 本当にその子が【聖女】たり存在なのか、確かめにいきましょう! そのキアラって子をね! 私達三人で、民衆を救うわよ!」
——やっぱり、彼女はこっちの方が可愛いしカッコいい。
「了解!」
元気よく返事を返すニクスだった。
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聖女ちゃんが強すぎる! 物真似モブ @isaitu1312
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