ダンジョンの子
昨日までROM専だったひと
プロローグ
変わらない「いつも」はある日突然崩れる。
俺はそれを駅の非常ベルの音で知った。
いつもと同じく、放課後の駅のホームで帰りの電車を待っていたときだった。
心臓が跳ねるほどの爆音が何処からか響いてホーム内はざわめき、一拍遅れてやってきた揺れでそれは小さな悲鳴に変わった。
ただの地震なら揺れが収まればそれまで。その後は精々テレビのニュースで震源地と震度を確認してそれで終わり、すぐに忘れられて当たり前の日常に戻る。
ただ今回のそれはそうはならなかった。
揺れがほぼ収まり、ホーム内は張り詰めた静けさに包まれた。やがて震源が近かっただけのただの地震だったのだと誰もが胸を撫で下ろす中、どこからか外を見ろと叫ぶ声がした。
再度ホーム内がざわつく。
外とホームとを隔てていた薄汚れた曇りガラスの先、住宅街があるはずの眼下に、巨大な泥の柱が吹き出していた。駅舎なんか軽々通り越し、雲を突き抜けるその青天の霹靂は、徐々にかたちを変え濁流の大波となって住宅街を蹂躙した。
大波の勢いは留まるところを知らず、あの勢いのままではすぐにここにも到達するとこの場のだれもが思い至ったのだろう。
そこでざわめきが悲鳴に変わった。先のとは比べ物にならない恐慌。
同時に響いた非常ベルの音はそれを冗長し、ホーム内はパニックに陥った。
そんな状態で落ち着いて避難を促すアナウンスが届くはずもなく、大多数は恐慌のままに逃げ出した。
俺もその例に漏れず、濁流に追い付かれないように遠くへ、もっと遠くへと走る。文化部の中学生の足だ、あれほどの質量を持った濁流の速度とは比べ物にならない。そんなことはわかりきっているのに、必死になって足を動かした。もしかしたら、運が良ければ。
混乱と恐怖でかき混ぜられた頭にめぐる思考は鈍く、正常な判断などできているはずもなかった。
「…………あ」
まあ、そんな奇跡は起こるはずもなく。
泥はもう鼻先まで迫っていて、できたことといえば、とっさに情けない悲鳴をこらえたぐらい。
そのまま濁流に飲み込まれて意識を失った。
まさに怒涛の勢いで巻き起こった濁流災害の詳細は、時間が経つごとに明らかになっていった。
行方不明者は当該都市民の98%超に及び、
北関東の地方都市のど真ん中から発生した濁流は、当該都市全域とその周辺を覆い尽くし、その後約一週間をかけて濁流の発生ポイントへ、栓が抜けた風呂のように吸い込まれていったのだという。
濁流が蹂躙した跡には草木も残らず、残ったのはすり鉢状に抉られ更地になった元地方都市と、その中心にぽっかりとあいた半径数キロの大穴だけだった。
ダンジョンの子 昨日までROM専だったひと @Honnnomusi0403
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ダンジョンの子の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます