第4話

 あたしはそれからもやたらと綺麗なお兄さんもとい、アレクセイさんと出くわした。


 ウェリナが言っていたように、やはり緑の瞳の若い女性を探しているのか。不安になりながら、毎日を過ごしていた。


 アレクセイさんと自己紹介をし合った日から、早くも半月が経っていた。初めて会った時からだと、三週間近くが経つ事にはなる。会う中でわかったのは彼が王都から来た高名な魔法使いで、年齢は確か二十三歳ぐらいと言う事だ。また、アレクセイさんはどうやら伯爵家の次男坊とかでお貴族様の出身らしい。

 あたしはそれを知ってから、余計に神経を尖らせる毎日だ。早くアレクセイさんがアルーシェの街から引き上げてくれたら良いのだが。そんな事を願いながら、木枯らしが吹きすさぶ空を見上げた。


 いつものように、買い物に行った。けど、あたしはアレクセイさんに会いたくなくて遠回りをすることを決める。常に通る道から脇道に逸れたのだ。裏小路に入ると、人気が一切無くなる。不気味に思いながらもテクテクと歩く。

 ふと、後ろから複数の足音が聞こえた。あたしは後をつけられているとすぐに直感でわかる。


(くっ、こんな時に……!)


 内心で舌打ちをしながら、歩く速度を上げた。が、足音もそのまま付いてきた。泣きたくなりながらも家路を急ぐ。

 しばらくはこの状態が続く。足音からすると、ブーツらしい。人数も五人はいるだろう。仕方なく、あたしは裏小路から表通りに足を進めた。


 これで撒けると思っていたが、相手もなかなか諦めてくれない。家まで後少し、そう自身を励ましながら無言で歩き続ける。


「……お嬢さん、なかなかに頑張るが。こちらもそんなに暇じゃねえんだよ」


「あなた達、一体あたしに何の用なの?」


「なあに、あんたに訊きたい事がある。アレクセイ・ラールガーと言う男を探していてな。居場所を知らないか?」


 声を掛けられたので振り向き、答えた。やはり、嫌な予感は当たっていた。だから、アレクセイさんには関わりたくなかったのよ。

 悪態をつきたくなったが、首を横に振る。


「知らないわ、あたしはアレクセイと言う人には会った事がないから」


「ちっ、しらばっくれるんじゃねぇよ!お前がアレクセイを知っているのは調べがついてんだ!」


「あら、だからって。それが何なの。答える理由になるわけ?」


 そらととぼけてみせた。おかげで、五人組の破落戸達の表情が一気に険しくなる。


「このアマ、下手に出てりゃあ。調子に乗りやがって!!」


「……!!」


 破落戸達の内、頭とおぼしき男が懐からダガーナイフらしき刃物を取り出す。あたしは胸元に両手を組み合わせて一歩、後退る。絶体絶命と思われた。


「……おいおい、てめえ等。用があるのはこの俺なんだろ?」


「な、今頃現れやがったか!!」


 頭が大声で怒鳴り散らす。あたしのすぐ後ろから、音もなく金の髪に暁の瞳の男性が現れた。アレクセイさんだ。が、いつもと雰囲気がまるで違う。穏やかで飄々とした空気が鳴りを潜め、代わりに鋭いナイフのような雰囲気を纏っている。


「ふむ、それにしても。こんな若い女の子を脅すとはな、男の風上にも置けない奴らだ」


「何だと、この野郎!?」


「無粋だな、お前らは黙っていてくれないか」


 アレクセイさんが腕を上げ、一振りする。そうしたら、破落戸達の口から声が出なくなった。


「一時的にお前らの声を奪った、これで静かになる」


「……!!」


「お前らの主人に伝えておけ、俺は目当てのモノを見つけない限りは戻らないと」


 アレクセイさんが言うと、頭は顔を怒りで真っ赤にしながらも頷いた。それを見届けてから、彼は指をパチリと鳴らす。


「……やっと、声が出たぜ。それにしても、やっぱり不気味な野郎だ。おい、お前達。ずらかるぞ!」


「へい、お頭!!」


 破落戸達の一人が言うとそれを合図に、皆で行ってしまった。茫然と見送った。

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風吹く街で 入江 涼子 @irie05

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