第3話

 あたしがやたらと綺麗なお兄さんと出会ってから、三日が過ぎた。


 妹のウェリナと二人で風の岬亭に行く。このお店は食堂兼宿屋を営んでいた。ちなみに、食堂ではお弁当をお持ち帰りもできる。あたしが毎日作るのも大変だと言ったら、母さんが「たまにはお弁当もいいかも」と提案してくれたのだ。

 ならと、あたしとウェリナとで三人分のお弁当を女将さんに頼みに来た。


「あら、イーシャちゃんとウェリナちゃんじゃないか。今日はどうしたんだい?」


「女将さん、あの。今日はこちらのお弁当をお願いしたくて。それで来たんです」


「はいよ、何のお弁当にするんだい?」


 あたしが言うと、女将さんはメニュー表を手渡してくれた。その中から、ウェリナと二人で選ぶ。少し考えてあたし達が頼んだのは、白身魚のフライのお弁当だった。アリーシェの隣街には漁港があり、魚介類が豊富に採れる。女将さんはその隣街からおろして、料理の食材として使っていた。風の岬亭の魚介料理はなかなかにここら一帯では名物になっている。

 安いし美味しいしであたしも気に入っていた。


「分かった、白身魚のフライ弁当だね。三人分かい?」


「はい、母さんとあたし、ウェリナの分になります」


「じゃあ、今から作るから。待っていておくれ!」


 女将さんはそう言って、食堂の厨房に入って行った。あたし達はまだ、準備中の食堂にて立って待つ事にする。たぶん、三十分くらいは掛かるだろう。そう思っていたら、二階の宿屋に繋がる階段から誰かが降りてきた。そちらを見ると三日前に会ったあのお兄さんだった。


「女将さん、いるかな?」


「……はーい、どうかしたのかい?」


「腹が減ったから、何か食べたいんだけど!」


 お兄さんが言うと、女将さんは手を止めた。厨房を出てカウンターにやってくる。


「アレクセイさん、ちょっと待っておくれよ。今、あの子達のお弁当を準備していたところだからさ!」


「そうだったのか、ごめん!」


 アレクセイさんと呼ばれたお兄さんは両手を合わせて謝る。あたしは驚いて、つい彼を凝視してしまった。


「……あれ、こないだのお嬢さんじゃないか。こんにちは」


「こんにちは、お兄さん」


「いやあ、あの時は本当に助かったよ。ありがとう」


「お礼を言われる程ではないですよ」


「それでもだよ」


 お兄さんは笑いながら、再度お礼の言葉を述べた。


「あ、そういえば。自己紹介がまだだったね、俺はアレクセイ・ラールガー。お嬢さんは?」


「あたしはイーシャ・フォーレです。隣にいるのが妹のウェリナですね」


「へえ、イーシャさんて言うのか。妹さんがウェリナさんね、分かった。改めてよろしく」


「はい、よろしくお願いします」


「うん、じゃあ。俺は部屋に戻るよ」


 お兄さんもとい、アレクセイさんはひらひらと手を振りながら、二階に上がって戻って行く。それを見送りながら、あたしはウェリナと顔を見合わせた。

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