マシュマロ たいまつ 甘い香り

藤泉都理

マシュマロ たいまつ 甘い香り




 マシュマロ

 たいまつ

 甘い香り


 テレビのコマーシャルだったか。

 電車の中吊り広告だったか。

 バスの運転席後部の広告だったか。

 雑誌の裏表紙の広告だったか。

 どこで見聞きしたのか忘れてしまったけれど、きっとこの中のどれか。

 忘れられないフレーズ。


 マシュマロ

 たいまつ

 甘い香り


 真っ暗な暗闇の中。

 そうだな、星の明かりさえない、キャンプ場。

 静謐な空気の中、誰もいない特等席のこの場で、煌々と燃える焚き火。ではなくたいまつ。


 たいまつか。

 松や竹などの割り木を手頃な太さに束ね、その先端に点火し、手に持って照明としたもの。か。

 片手に串に刺したマシュマロを持って、片手に持っているたいまつに近づけて、甘い香りをくゆらせては、舌に内頬にと火傷を作るのを覚悟で一口で食べてしまう。


 たいまつか。

 オリンピックみたいに持って走って次の走者に手渡してを繰り返して、ゴールまで運び終えて、走者みんなで。いや、観客も含めてみんなで、たいまつで軽く炙ったマシュマロを食べる方がいいかな。


 ロマンチックな場面がいいよな。

 あとは、うーん。


 たいまつか。

 真っ暗な暗闇の中。大きな湖の近くで佇む恋人にそっと近寄って、手を握って、たいまつの明かりだけを頼りに、湖の周辺を散策。時々、恋人が持って来たマシュマロを歩きながらたいまつで炙って食べる。




 どれがいいかなあ。

 今まさに、プレーンヨーグルトにプレーンマシュマロを振りかけてはスプーンで掬って一緒に食べている友人に尋ねてみれば、にっこり笑って言われた。

 たいまつが恋しくなる季節になったら、もう一回尋ねてみて。




 十一月に入って九日目。

 まだ初夏のような異例な陽気さだった。


 そだねーと友人に返して一口分だけもらいながら、クリスマスにするのもありだなと思ったのであった。




 マシュマロ

 たいまつ

 甘い香り











(2023.11.9)



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マシュマロ たいまつ 甘い香り 藤泉都理 @fujitori

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