第42話 カウンセリング



「では、黒井さん。カウンセリング…というか、半分お話みたいなものですが…、始めてもよろしいですか?」


「はい。お願いします。」


俺は桝田さんの言葉にうなずく。



話す内容はもちろん決まっている、俺があの会社に行ったときに、一体何をされたのか、そしてそれによってどんな精神的影響を伴ったのかだ。


「まず、黒井さんが前に私の病院に来ていただいたとき、その人のことを思い出すと気分が悪くなるとおっしゃっていたと思うんですけど、今回のことが起きる前、以前に診察を受けていただいた亜tからは、その人の顔を思い出して気分が悪くなることはありましたか?」


「…なかったと思います。」


俺は思い出しつつ、そう答える。

ここ最近は俺を支えてくれるみんなと楽しきやっていたしな、それもあってか変に嫌なことを思い出すこともなく、仮に思い出しても気持ち悪くなったりはしなくなっていたと思うし。


「なるほど、では今回また再発してしまったという感じのようですね…。」


桝田さんがメモを取りつつうーんとうなる。


数秒沈黙が続いた後、


「正直なところ、つい先日の黒井さんは本当に危険な状態でした。」


「…そうですか…。」


まあそうだよな…、普段死のうなんて考えたこともないのに、急に首を吊ろうとか、そんな突発的な行動に出るなんて…。


「あの日何をされたのかは私も詳しくはわかりませんが、すくなくともあなたはそうとう絶望するようなことが続いたんだと思います。」


「…はい。」


桝田さんは続ける。


「ゆっくりで大丈夫です、気分が悪くなったらすぐにやめていただいて構いません。なので、あの時自分が何をされたのか思い出せそうなら思い出してみてください。」


「わ…かりました…。」


俺はちょっと戸惑った。けど、自分の心の状態を知るためだと思ったら、やらないとなという心が強く動いた。


俺は、目を閉じて、茂木もてぎさんの会社に行って日のことを思い出す。


すぐに黒い靄が出てきて、頭痛がしたが、気にせず思い出そうとする。


その黒い霧は俺を会社からつまみ出したかと思うと、俺の資料を破り捨てた。


「…あ。」



そうだ…。



「何か思い出しましたか?」


桝田さんが聞いてくる。


「あの日、ショックで家に帰ったとき、俺は、会社の商談に使うために、手に持っていたはずの資料がなかったんですよ。」


「はい。」



思いだしたぞ…。



「俺は商談に絶対必要になる資料を、目の前で破られ捨てられて、USBも破壊されました。」


「なるほど…。」


すると桝田さんがまたメモを取り、


「あの日、茂木さんの商談に間に合わなかった理由がわかりましたね。」


俺に大丈夫だというように、笑いかけながら話した。










その後俺は、何度か気分を悪くしながらも、吐かずに思い出せるだけを思い出した。


俺は黒い靄を権藤だという断定ができなかったが、自分が嫌悪感を抱いている人物を消そうとする力が頭で働いて、その人を思い出そうとしても黒い靄のようなもので邪魔をされるんだそうだ。


靄以外にも顔が丸まる切り抜かれたり、そもそも透明な存在だった李、記憶からの消され方はさまざまのようだ。


改めて人間の脳みそってすごいと思った。


そしてつまり、黒い靄は間違いなく権藤だった。


そして俺の手の甲のけがは権藤にやられたもので間違いないことも分かった。



今まで気づかなかったが、俺の手の甲は思い切り骨を折られているらしく、しばらく動かさないでとのことだ。



権藤のやろう……。





「今黒井さん、その人のことを恨みましたか?」


「え?!」


やば、顔に出てたか…。いけないいけない…。


「す、すみません…。」


俺は桝田さんに謝る。


「いえいえ、むしろよかったです。」


「???」


しかし桝田さんはちょっと嬉しそうだった。



「こういっちゃなんなんですが、その人に恨みが持てるのであれば黒井さんはもう大丈夫だと思いますよ。」


「え?」


俺は桝田さんの言葉の意味が分からなかった。


「精神的に追い込まれている人なんて、自分がここまで追いつめられることになった原因の人を考えることもできないですからね。恨みでもなんでもいいんですけど、何かしらの感情をその人に抱けるのであれば、黒井さんは大丈夫ですよ。」


「はぁ。そうなんですか。」


「はい。自信を持ってください。黒井さんは、最初こそ傷ついても、後々の立ち直りがすさまじいですから、おそらく相当精神力が強いと思いますよ。」


「ありがとう…ございます?」


うーん、イマイチピンとこない部分もあるが、桝田さんがもう愛情部というんなら大丈夫なんだろうな。







その後もさらにカウンセリングは進んだ。

とはいえ半分世間話をはさみながらだったけど。


でもそのほうが心も軽くて助かった。桝田さんはそういうのも考えてそうしてくれたんだと思ったら、正直うれしい。


さすがお医者さんというべきか、俺の心の状態がよくわかっているみたいだ。



こうして、重苦しい雰囲気もなく、カウンセリングはむしろ楽しく終わった。

















長らくお待たせいたしました。新年直後の震災や、体調を崩したりしたこともあり、作品の更新ができていませんでした。


ようやく落ちつきましたので投稿再開です。


よろしくお願いします。






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死にかけニート、美少女ライバーと人気者を目指します。 シエリス @cielis

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