アリバイ崩しの琢の苦しみの一時間

藤泉都理

アリバイ崩しの琢の苦しみの一時間




 くっくくく。

 俺はアリバイ崩しのたく

 その界隈では有名な変装術師で、依頼人に変装してアリバイを作るってわけさ。

 おっと。今日も早速依頼が来たようだ。

 助手よ、応対したまえ。

 え、おいおいおい。

 開口一番、こんな人に頼まなくても、いくらでもフェイク動画を作れるから私に依頼しませんかって。俺の依頼人を奪うんじゃないよ。まったく油断も隙もないな。

 舌打ちするんじゃありません。

 こら、ふてくされて出て行くんじゃありませんよ。

 あ~、すみませんね。どうぞお座りください。お茶とお水とお珈琲、どれがいいですか?

 お水ですね、どうぞ。

 え~。モデルさんなんですね。

 え?依頼内容だけで理由は言わなくていいですよ。

 はいはい。え~。十一月九日の午前一時に公園に配置してあるタクシーに乗ればいいんですね。

 はあ。お母さまが運転なさっている。

 なるほど、お母さまをアリバイの証言者になさるのですね。

 生まれた日時に一緒にドライブするのですか、素敵ですね。

 え?お客様を一緒に乗せる事もある?それは楽しそうですね。

 ああ。泣かないでください。ティッシュをどうぞ。

 モデル会社で盗みを働く?金庫を盗んで燃やす?

 ええ、ええ。きっとうまくいきますよ。

 はい。依頼料は依頼が完遂してからで結構です。






「先生。今回もうまくいきましたね」

「くっくくく。ああ」


 依頼金を持って来たモデルに聞いた。

 見事金庫を盗み出して燃やしたモデルはモデルを止めて、母親と一緒に地方でタクシー会社を興したらしい。


「くっくくく。確かに、面白い人間と相乗りできたな」


 依頼をこなしている最中に、タクシーの中で出会った人間を思い出した俺は腹を抱えてしまった。


「あーあ。せっかく収まっていたのに」


 呆れる助手を傍らに、俺は一時間笑いに苦しめられるのであった。











(2023.11.9)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アリバイ崩しの琢の苦しみの一時間 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ