第2話 隣町

 数歩進んだころだろうか、さっきの駅とは違う駅が見えた。どうやら、電車のアナウンスが言っていたのはこれのようだ。一緒に駅に降りた二人もそこのホーム電車を待っていた。退屈そうにどちらもスマホを見ながら、電車を待つ姿を横目に私は飲食店を探す。

 あいにくだが、ここの街には飲食店らしきものが無く小さなスーパーがあった。店内は小綺麗でおばあちゃんが一人、店の当番をしていた。おばあちゃんは新聞に夢中なためか「らっしゃい」と簡素に挨拶をした。店にはパンやお菓子など共にお酒がやけに多く売られていた。どうやら、元々は酒屋だったのかもしれない。見たところ、日本酒からワインと幅は広そうだ。お酒を飲めない私には関係の無い話だが。

 棚からメロンパンとコーヒー牛乳を手に取り、お会計のためにおばあちゃんに声をかける。

 「あの、お会計をお願いします」と愛想笑いをしながら、手に取った二つを台に置く、客は私の他に居ないが財布をショルダーバックから出しておく。

 「おや、ずいぶん小さいお客だね。」新聞を下げて私を驚いたように一瞥した後に商品をレジに通し始める。

 「この時間には、いつもアル中のじじいが来るもんでね。やけに今日は遅いと思ってたんだよ。二点で220円になります。」独り言に近い感じで話をしつつ、さっさとレジを打ち、私の顔をまじまじと見る。私に驚いたのではなく、常連客が来ないことに驚いていたようだ。

 私は、愛想笑いを崩さないようにしながら財布から220円ピッタリを出す。「あの、ここって、どの辺まできましたか?」ついでにここがどの辺なのか聞く。ここがどこかでなくどの辺と聞くあたりに自分の要らないプライドを感じる。私の予想では、H県内だと良いなと思う。

 「ん?ああ、隣町の祭りにでも出るのかい。ここからだと、そこの電車に乗って...」

 指で示しながら、所々指を折り曲げつつ、擬音を交えて丁寧に教えてくれる。要約するとさっき降りなかった駅から15分くらいで隣町に着くらしい。そして、丁度いいことに祭りがあるらしい。ほっと胸を撫で下す。

 「ありがとうございます。お祭りを見に行くのは久しぶりで、楽しみなんですよね。帰りは何時まで電車が来ますか?」初めて聞いた隣町での祭りに、はったりをかましながら、帰りの電車をちゃっかりと聞いた。

 「うん?そーだね。10時に最終の電車が来るはずだよ。まあ、乗り遅れたら、ここにでも寄りな。一晩くらいは面倒みたるよ。」はははと笑いながら、そう提案した。提案は有り難いが、私は過度な潔癖的なので、知らない人の部屋で寝るくらいなら野宿を選ぶ派のため好意だけ頂いておく。

「その時はお願いします。」と頭を下げながら。会計を済ませた商品を手に取り、着けていたポシェットにペットボトルとパンを詰め込む。店を出る前にもう一度お婆さんに頭を下げながら、「10時までは開けてるからね」という声を背に、店を出た。田舎町だからか都会より余計に暗い辺りを見渡し、祭りに行こうかと一度考える。

 彼女は手段が目的になることがよくある。そして、最初の目的である、家に帰ることは最早どうでもいいようだ。危ないことに興味を持っていかれるそういう年頃なのだろう。危険なことに危機感が無いのだから、仕方が無い。

 暫く考えた後に、隣町での祭りを見に行くことにし、駅に向かう。USJで舌を肥やした分しょっぱい祭りで口直し、という魂胆である。

 来た道を引き返し、明かりがある駅に向かう。気分は、街灯に群がる蛾のようである。こちらの駅でも電子マネーは使えるようで、ピッと音を鳴らしながら、中に入る。この町に来て数分経っていたが、まだ二人は電車を待っていた。相変わらず退屈そうだが。

 私もスマホをもって無いなりに、ポケットからミュージックプレイヤーを取り出し、何を聞こうかと小さい画面を見る。ラジオの気分でないため、予め保存していた曲を聞く。ランダム再生でいつ入れたのか分からないクラシックが流れる。ぼーっと真っ暗な空に浮かぶ星を眺めながら、ここが田舎だったことを再認識する。夜灯が少ないと星が鮮明に見えるとは知っていたが、教科書で習わない星の屑まで見える事に感動を覚える。車で片田舎まで星を見に行く感性がやっと分かった気がする。でも、これは少しばかり気持ち悪い。

 何度かのランダム再生の後、やっと隣町に行く電車が来た。当たり前だが、電車は綺麗で寂れた駅に馴染んでない。降りる乗客は居らず、というかそもそも乗客が居ない。駅で居た二人とは別の車両に乗り、優雅に座席に座る。車内に誰も居ないので王様気分である。電車が動き出す。揺られるのはさっきぶりであり、違いがあるとすれば電車の行き先を知ってる事だろうか。

 追記しておくと、どうやらここの駅は始発駅だったようで、また行き先を間違えることは無かった。

 田んぼの中を夜に奔る電車はなかなか幻想的だと、一人車内で思う。「わー、こう見ると景色が変わらないとループしてるみたい」いつもと違い、人目を気にせず独り言を呟く。

 十分くらい経った頃だろうか、アナウンスが入り、もうすぐで隣町に着くようだ。席を立ち降りる準備をする。扉が開くと同時に駅に降りる。相変わらず駅は寂れていた。私の他には降りる乗客が居ないようで、安心と不安が交じる。駅から見える町は、祭りが行われてるとは思えないほどに静かだった。改札を抜け、辺を探る。

 「うーん、有名な祭りじゃないとは思ってたけど、ここまで静かなものなのかなー。」

 少し歩くと何か分かるかもと灯りが多い方に足を向ける。

 少し歩くと近くに神社らしきものが見えてきた。鳥居だけで数メートルする。町に対して大きい過ぎるような気がする。とても不気味で禍々しいオーラが見える。

 近づくとどうやら神社でなく、お寺らしい。でなければ鳥居のようなものを潜るときに仁王像と目が合うはずがない。鳥居と思っていたものもどうやら門であり、昔みた雷門をイメージした。

 私の勉強不足だっただけで、有名な祭りなのかもしれない。それにしてもお寺でお祭りをするなんて、神仏習合を体現したみたいだ。

 門を抜けるとそこには山に続く階段が見えた。

 ここまで来たのに帰ろうかと思った。階段の頂上は明りで明るいがそこには行くまでにざっと400段はある階段を登る必要が出てくる。

 「体育の成績は良くないんだけどなー。」なんて呟きながら、好奇心を抑える事はできずに一歩また一歩を階段を登る。今日は風が程よく吹いており、暑くは無いがそれにしてもである。

 山の中に通る道だけあり、隣を見ると真っ暗だ。幸いのも階段の脇には提灯がぶら下がっていて、足を滑らす心配はない。

 USJ帰りに山登りとは、今日一日で足を酷使し過ぎた。明日は筋肉痛かな。ベットから動ければ良いが。

 やっとの思いで、階段を登りきった。そして、同時に最上段に座り込む。「あうー」と情けない声を出しながら、息を整える。頭の中は心臓の鼓動が煩くて何も考えられなかった。

 やっと息を整える終え、後ろ振り返りここまで引っ張ってきた祭りを見る。

 祭りは圧巻だった。今まで見たことが無いくらに。

 そこには、大量の浴衣姿の死体があった。

 すべての死体が首から上がもぎ取られていた。

 「今、警察が来たら私が犯人になるのかな?」なんて呟くが死体は何も返さない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クビナシトレイン 天草can太郎 @nagorirogan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る