二 鶏か卵か
シキブの電脳を冒している
胸の悪くなる記憶の関連検索にロックをかけると、セイは仕事に取り掛かった。
「わたくしたちではどうにも手に負えずに困っていたのです」
と手渡された仕事は、妃へのメールに断わりの返信をすることだった。セイがウツシヨを去って五年経てども、身につけた教養──アーカイブを閲覧検索しない漢文の知識や和歌の創造性──を盛り込んだ文章への返答は、同じく教養深さとウィットに富んだ言葉で返すことが求められるらしい。
君主への不敬を恐れぬ
「流石はショウナゴン様、仕事の手が早うございますね。
ですが上衣は着た方がよろしゅうございますよぉ。折角のホロが崩れておいでです」
「いいでしょ、この房にはAIのあなたしかいないんだし。
……ところで
「はて、ワタシのようなAIにはなんとも。
しかし恋文を不敬と取られないほどに、主上はショウシ様から遠くあらせられますねぇ」
それもそうだろう。一回りも歳の違う姫だ。成長するならばまだしも、五年間も子供の姿のまま。ガヴァネスを椅子にして、新入りの女房と話すにもシキブを介する幼さは、「
「……いや、ちゃんと成長したとて、どうだったか……」
セイの
はたして、どちらが先だったのだろう。
主上のお渡りがないからショウシの成長が止まったのか、ショウシが成長しないからお渡りがないのか。
そもそも、どんな
まさか、主上の身になにか起きるのではないか。
タカムラは事情を知っているのかいないのか、ただ抗
『余計な詮索はしなくていい。ある程度仕事をして、信用されて近付けたなら、二人にこれを注入しさえすればいい』と。
そのタカムラの物言いがはなから気に入らなかったセイは、少し考えたのち、やはりすべてを知ってから解決しようと決めた。そうでなければすっきりとカクリヨへ戻れない。なによりも、《地獄》へあっても主上を愛し続け、心配しているテイシ様のために、事を明かそうと。
決意したセイは、適当に脱ぎ散らかしていた化繊の上衣に袖を通した。彼女の腕や足に投影されていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます