四 マサキノカズラ
この時代には、俗に「マサキノカズラ」と呼ばれる
宿主はマサキノカズラによって感情の出力や物事の考え方に影響を受け、そのうち理性で抑えられなくなるほど強い感情の発露を頻繁に起こすようになる。その感情データを吸って育ったマサキノカズラは、やがて種をつけ、宿主が電脳を通して交流した人間へ植え付けられるのだ。
「テイシ様が生前に宿主だったと言いたいの?」
「そうでなければ、シキブやショウシ様から、テイシ様の
──マサキノカズラの特徴として。
取り憑かれた場合に宿主に出る影響は、種をつけた前宿主の感情データに紐づいている。同時に電脳の個人認識番号もコピーされる上、種をつける直前には現宿主の個人認識番号を前宿主の個人認識番号に上書きする。
そして、その
「そんな、じゃあ、ショウシ様のお体があの頃のままなのは」
セイの顔色がみるみるうちに白くなっていく。
望んだと言うのか。美しいあの方が。
恨みで
「シキブが、
漢詩のひとつも諳んじられないショウシさまを、異常なほど甘やかしているのは」
願ったと言うのか。
物知らずであれと。こどもであれと。
主上の寵愛を奪われまいと?
「ショウナゴン、座っては?」
「イヤ。立てなくなりそう」
「
この怨霊は主上へも取り憑きかねないので、トウノベンが対処するのは当然です」
ユキナリが着ているアラクネ・ファイバー製の
昔も今も有能な親友。この男に頼んだのなら、これから
彼が見たありのままに。
セイは肩を支えてくれるユキナリの手を振り払った。
「見くびらないで、トウノベン。私、お仕えしている方を、愚女にさせはしないわ」
「そうですか。……変わらないのですね、セイ」
生体ナノマシンによって拡張されたセイの聴覚が、ユキナリの視覚デバイスが立てる小さな音を拾う。表情筋はぴくりとも動いていなかったが──もしかしたらユキナリの義体には表情筋が未搭載なのかもしれない──御簾の向こうから、扇越しに、ARを隔てて、よく向けられた、親愛と尊敬の込められたまなざし。
それに応えるように、セイは胸を張り、顎を引いた。
「そうよ。私はテイシ様の
セイ・ショウナゴンよ」
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