五 ひとつめの花
セイ・ショウナゴンの不可視の扇《
「いいナノマシン積んでるじゃない。どこも弄ってませんって顔して」
「
忌々しげに言って、シキブはケーブルの残骸を投げ捨てる。セイのコネクタから引き千切られたものだ。業務に
辺りを浮遊している《骨》の破片を自動追尾しているのか、シキブの眼球は
「培った知識や持って生まれた才能を隠すことが美徳だなんて、私は思わない」
「そんなことだから、後世にあれこれとボロを見つけられて、ケチをつけられて、恥をかくのだと思いませんか? 誤字脱字が酷いですよ、貴女の
「恥をかくことや中傷を恐れても仕方のないことでしょう。というか、そんなの言いたがる人って最初からケチつけてやろうって姿勢で見てるんだから、ケチがついて当たり前だし」
「……ッ何故、そんなにも慎みがないの。だから貴女って、貴女って──嫌いだわ」
シキブは飛び退って距離を取ると、強化された脚力でセイ目掛けて突進した。黒髪を超速振動する
「自分が自分らしくあろうとするのを慎みと呼ぶのは、あなたの本心なの?」
セイの操作を受け付けて、予め庭の玉砂利の中に仕込んでおいた《骨》の無線式端末が浮かび上がる。
「
「知った、ような、口を、ッッ」
生体ナノマシンによって強化ワイヤー並みの強度で締め上げられているというのに、ムラサキ・シキブは止まろうとしない。少しでも加減すればセイの命がないだろう。セイは檻を狭めて一気に地面に抑え込むと、シキブの首の後ろにあるコネクタに予備のケーブルを接続した。
下品な公達のこと。口さがない女房のこと。
好きに書いた物語が政治に利用されていること。
まるで違うタイプの
「ワタシは感性が鋭いからお見通しなんです、みたいな顔してる貴女も。ワタシたちがスタンダードです、みたいに陰口叩く、物知らずの女房たちも。漢詩も和歌も政治もテクノロジーも、素晴らしいものはぜんぶ自分たちだけのものですって顔してる男たちも。みんな嫌いよ。嫌い。溢れて止まらない。止まらない……」
「そうして、止めらない理由を
怒りっぽいのも、誰も許せないのも、ショウシ様が成長なさらないのも、すべて
実際に言葉にしているのか、思念が脳に直接響いているのかも、もう分からない。
「……ああもう、あなたの思考って本当に後ろ向きで陰湿。それだけ賢いんだから開き直ってやればいいのに。友達になれないタイプ。嫌い」
吐き捨てるセイもまた、それはシキブが賢いからこそ来る怯えだと、本当はわかっている。だからこそ歯痒い。
「…………ワタクシだって、こんなワタクシが、一番嫌い」
あなたはこんなにも教養ある女性なのに馬鹿な真似をと、セイのその思念もまた、有線接続したシキブに届いている。
諦めて脱力したシキブの体が、びくん!と大きく跳ねた。どうやら、抗
大きく開いた格子戸、セイとシキブが縺れ合って庭に飛び出したときに破れた
「ショウシ様、失礼いたします。今、御身の
ショウシに近付こうとするセイはしかし、間に割って入る人影に阻まれた。青白く輝く剣を構えたその御姿は、決してここにあっていいものではなかった。
「ねえ主上、セイにやめてって言って」
「セイ・ショウナゴン。
「──そうは参りません。《地獄》へ移って早五年、今や私の主人はただ一人」
傷のひとつも、乱れもない黒髪が200色に波打ち、投影に適した
「私に命令できるのは、テイシ様か私だけです」
アラームのそら音ははかるとも 蛙川乃井 @no_el_t
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