エピローグ・シュルファス騒騒

 ・???視点


 曇天の空、青い都市に赤い血が映える。殺しの瞬間は好きだ。相手がどれだけ雑魚でも、殺しの時だけは命に真剣になれる。ボクはボクの魔術の下僕、執政人形アルコンドールズたちが殺したこの粗末な死体を眺めて、タバコに火をつけた。

「ちょっと抵抗されちゃった?」

「すみませんご主人様。少々手こずりました」

「なに、見られていなければ問題ないよ」

 相手も治安総局の末端の魔術師。手こずるのも無理ない。

「キュベレー様、こちらどうしましょう」

 アルコンの球体関節の体が、死体を指差す。

「身分証を剥いで処分しといて。ボクが成り代わるから」

 ボクの所属する組織、尊厳局シュルファス派には達成しなくてはならない一つの計画がある。

 その実行がシプリス学区周辺である分にはいいが、一つ無視できない変数があった。

(かもめ......)

 妙な名前の新任教師。こいつは外の魔術師を名乗ってるらしい。だが壁の管理をとりもつ尊厳局が、ウィストリアの壁を越えた魔術師を知らないわけがない。なにかがおかしい。だが、それがわからない。

 身分証を受け取って、死んだ彼の調査記録に目を通す。事実改変を行うと身分証の写真がボクの証明写真に変化して、ボクは彼になり変わった。

「まずは奴の周辺から探りを入れておこう」

 そのための変装だ。治総局員の姿はさぞ動きやすいだろう。

「オマエタチ、片付けとけよそれ」

「了解」

 そうしてボクは彼の車に乗り込む。黒塗りのつやつやした外車。悪くない乗り心地だ。

「首尾は上々かしら?」

「......!」

 後ろの席にいつの間にか座っている女に肝を冷やす。髪で目を隠して、オペラスターみたいな服のイタイおばさん。こいつはいつも唐突に現れる。こんな奴がシュルファスの一員だなんて。

「なんでこんなとこに居るわけ?シェオル」

「あら、困ってそうだったから、手伝おうと思っただけなのだけれど」

「うるせー」

「お前の手伝いはいらん。車はどうにかする」

「そうでしたか。ふふふ」

 彼女は顔を手で隠すと続けざまにこう言った。

「ボスはあなたに期待しているのだから、それに応えなさいね、キュベレー君。最も迅速で確実な手段を取ったらどう?......それとも、怖いのかしら」

「......ちぇっ」

 いちいちむかつく言い方をしやがる。

 だいたいシュルファスの作戦はボク主導なものばっかなんだから、ボクのほうが身分が高くて然りだろう。アルコン達を使った人海戦術も偽装工作も全部ボクがやってんだ。ボスもなにを考えてるかわからん。

 コイツの言う最も迅速で確実というのは、つまり殺しだ。

 変数を除去するだけなら偽装なんかしなくていい。そのままかもめとかいう教師を殺して隠せばいいんだ。幸い本人は大して強くなさそうだし、強くてもこっちが負けることはない。ただ......

(妙にこの案件だけ。ボスは慎重なんだよな......)

 ボスの意向を汲むなら、治総経由で、教師に取り次ぎ、かもめの正体をじっくりあぶり出して行く以外ない。

(本当はボクも殺りたいんだけどねえ)

 そんなことを思いながらバックミラーを見ると、シェオルは消えていた。あいつはいつも唐突だ。

 ボクはタバコを消そうとするが、車には灰皿がなく魔術で焼き消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔術師たちのこと。この世界の約束を知って 浅川ふゆな @esuna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ