2023年11月19日 小説を書こうと思っている。
小説を書かなくなってから半年近くになる。ちょいちょい短い作品を書いてはいたが、書いていない日のほうが圧倒的に多い。
書きたい気持ちはあるのだが、書きたいものがない。大きく立ち上がる物語がないのだ。気力もない。小説を好きだという気持ちも忘れていた。自分の小説すらつまらないし、他人の小説は醒めた気持ちであらすじを見てポイだ。キャラクターが強い小説は子供っぽい。リアルに振り切った小説を読むならノンフィクションのほうがいい。それくらい気持ちが冷えきっていた。
多分、公募にのめり込みすぎてしまったのだ。公募にハマって、自分が小説家になりたいかどうかもいまひとつわかっていないのに、公募で通りたくて、受ける小説論、創作論、想定される読者論を読んでは自分なりに研究し、実践し、SFジャンルの公募なのでSFをたくさん読み、その生活に疲れてしまった。読むのが遅いので好きな小説を読むのもやめて勉強の意味でSFを読んでいたのだ。小説を読むことが楽しくなくなるのは当然である。
しばらく休むことにした。好きなだけ休んで、本を読むことはやめないでノンフィクションやエッセイを読み続けた。本は、活字は面白いものである。それによって活字に対する気持ちを繋ぎ止めていた。日常生活ではしばらくいた甥っ子が大阪に帰ったので平穏な生活に戻ったので本当に静かになった。植物の世話や新しく買った植物の研究に明け暮れ、体調を崩したり回復したりしつついつもの生活を送っていた。小説だけは読まなかった。
小説を読み書きしなくなってから半年以上経ったあるとき、何となく買ってあった昔から好きな小説の単行本版を読んでみた。
目が開かれる思いだった。帯には「アメリカ最後のロマン派による繊細にして夢幻的な小説世界!」とある。非現実的な夢想にふける男の、だんだんと道を踏み外し落ちぶれてしまうというストーリーで、現実とは全く違う。私がしばらく避けていたタイプの話だ。
面白かった。私も小説を書いてみたい。また書きたい。そんな気になって自分の小説を読んでいる。以前よりは批判的な目で読んでいる。けれどよくできていると思う。直すべき箇所はたくさんあるが、私の小説は悪くない、と思えた。
他人の小説ももっと読みたいと思った。もっと空想的な、馬鹿馬鹿しいほど理想的な、そんな話を。
どうもまだ小説を書けるほど頭がこなれていないが、多分また書けるようになると思う。ほっとしている。何故なら私は小説を書くのが好きなのだから。
……ということをアンドロメダ銀河の片隅の生物観測所にある受信機が、受信したはずである。そして淡々と処理され、私の小説への情熱の復活はただの電波の波として扱われた。それくらい矮小なことなのだが、私にとっては重大な事件なのだ。
よかったと思う。本当に。
日々日々 ―全部ウソの楽しいエッセイ― 酒田青 @camel826
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