第4話

「よぉ〜、やっと見つけたぜ。手間取らせやがって」


疾風のシンはラーナとアルを見失って20分後にようやく見つけ出す。

球体を掴んだ手のひらは、青紫色に変色しており膨れ上がっている。見るからに骨が折れていた。


「お前、どこであの球体を手に入れた。あの球体のせいで俺の手はこんなになっちまった。落とし前はつけさせてもらうぞ。」


シンはアルの方に指を指す。誰がどう見ても怒りに満ちていた。


「じいちゃんからもらった。そんなことより俺たちの事殺さなくていいの?」


「あ?」


「いやだって、お兄さん、こんな子供二人も殺せない暗殺者なんて頼りたいと思う?それにもうすでに、一回逃げられてるし、俺だったらそんな暗殺者にはたのみたくないかな〜w」


疾風のシンの顔はさらに怒りに満ちていく。


「ぷっw、言い過ぎですってそんなこと言ったら可哀想じゃない。でも疾風のシンって名前はちょっとダサいかもw」


続けてラーナも煽り出す。

相手には、怒りを超えて背筋が凍るような殺意を感じる。


「わかった、お前らはどうしても死にたいように見える。お望み通り殺してやるよ。それに、こんな狭い路地だ、お前らに逃げ場はもうねえ!」


そう言ってシンが近づいてくる。怒りは最高潮に達し、子供だったら泣いてうずくまるような殺気を放っている。

実際、アルもラーナも足が震えている。

でも逃げようとしない。シンは少しだけ冷静になりそこに違和感を感じた。


でも遅かった。シンの足は地面とくっついて動かなくなっていた。


「なんだこれは!?」


それを見たアルとラーナは安堵の顔になる。


「ふー、よかったー、しっかり踏んでくれたな。それは、製造魔術で作った、抜け出せない床だ、しかも透明だから目を凝らさないと見えないんだ。」


「はー?でもこれくらいだったら靴を脱げばって、ぬ、脱げねえ!?」


よく見ると床からスライムのような物質が足首まで絡まっている。


「無理だよ。それは動こうとすればするほど絡まって行く。」


「あ、有り得ねえ」


シンは困惑していた。それは、今まで見てきた製造魔術とはあきらかに違う物だったからだ。


まずこの床の大きさ、見た感じ3×3メートルほどの大きさだ。これを作るだけでも結構な魔力が必要になってくる。それなのに、床に粘着質な物体を貼り付け、床を透明にし、さらに絡み付く性能まで持っている。


はっきり言ってあり得ない。こんな物を作るのに一体どれ程の魔力と技術が必要になるのか。

しかもこの短時間に。


シンは思った。こいつの方が暗殺対象よりも化け物なんじゃないのか?


「でもよかったよ、お兄さんが軽い挑発にのってくれて。」


「くっ!」


図星である。あんな軽い挑発に乗っていなかったらこの床に気づくことが出来ていただろう。

違和感は確かにあった。でも冷静さに欠けたシンは、気づくことができなかった。


まんまと作戦にハマったのである。


「だが、まだだ」


シンは全身に力を入れていく。アルの位置から見ても筋肉が膨張しているのがわかる。


ブチッ!


絡み着いているスライムのような物質を力だけで引きちぎろうとしていた。絡みついているスライムのような物質も負けじと絡みつくがどうやらシンの方が力が強いらしい。


「まじか!?時間がなかったとはいえ、それでも象の力くらいは耐えれる仕組みなのに」


アルは、焦ってしまう。相手の力量を見誤っていた。このままでは、自分も隣のラーナという女の子も死んでしまう。


「後は任せて」


アルが打開作を考えていると、ラーナが前に立ち魔術を展開し始める。


そこでアルは思い出す、そういえばこの子強いんだ。


ラーナは、完成した魔術を放つ。中級炎系統魔術である。


「ぐっ!」


ラーナの魔術はシンにヒットする。

だかシンは倒れない。やはり中級魔術一発程度では倒せないらしい。


ラーナは続けて魔魔術を打ち続ける。

水、土、炎、闇、光、氷、様々な中級魔術を無限に打ち込んで行く。

それは、ラーナの魔力容量をとうに超えた量であった。そうラーナは、打ってなくなった魔力をすぐに大気中から取り込み回復しているのであった。


「く、クソが」


そう言って疾風のシンが倒れ込む。


「なんてタフなのこいつ、五十発くらい打ってやっと倒れたわ。でも勝ったわね」


「う、うん」


アルは思った。

これは暗殺者から狙われてもおかしくないと。

今でこそ中級魔術までしか打てないがこれが上級、超級まで打てるようになったら、超級魔術を無限に打ち込んでくる化け物の完成である。


そして心に決めるのであった。

この子とは、敵対しないように仲良くしようと。


「お嬢様〜!探しましたぞ!」


少し年寄りじみた声が叫んでいる。

振り向くと執事の格好をした。60代の男性がこちらに向かっていた。


「あら、セバスいいところに来たわね。あの男、暗殺者よ捕まえてちょうだい」


「なんですと!」


セバスという男性は暗殺者の方に向かう。セバスは、気絶しているのを確認した後、暗殺者を担ぎ上げるのだった。


そしてラーナがセバスにこれまでの事を事細かに説明した。


「そうでしたか!ありがとうございます。お嬢様を助けていただいて」


「いえいえ!」


ぐ〜〜


「そんな」


ぐ〜〜〜


「大したことはしていないので」


ぐ〜〜〜〜〜

とても大きな音が鳴った。しかも何回も。

これは、そうお腹の音である。

今日特に何も食べておらずこんな出来事に巻き込まれて、アルのお腹は限界寸前であった。


アルはそんな大きな音を出したにもかかわらず澄ました顔をしていた。


でも内心では、


(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。)


穴に入りたい気持ちであった。


「何あなた、お腹が空いているの?」


コクリ

澄ました顔で頷く。


「あっそ、じゃあうちに来なさい。」


家族もおらず、金もあまりなく、買い物すら出来ないアルにとっては嬉しい提案であった。
















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万象製造〜物作りに心を奪われた少年の物語〜 やぬ @yakunochi1

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