第45話 今度の人生は、黄金幸せマシマシで!
「え? 第二王子が失脚した!?」
エルミーゼは自室で聖騎士クレアからの報告を聞いて、驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになった。
「はい。第一王子へのクーデターに気がついた第三王子によって未遂に終わったらしく……今は投獄され、処刑を待つばかりのようです」
「ほへー」
いきなりの急展開で、エルミーゼの頭から衝撃が抜け切らない。だけど、その意味がだんだんとエルミーゼの頭脳に浸透していく。
「ええと……じゃあ、第二王子はもう王様になれないわけね?」
「はい。処刑されますし――すでに王位継承権も剥奪されているので、命が助かったとしても王にはなれません」
「よっしゃ!」
「……は?」
「よっしゃああああああああああああ!」
絶叫とともにエルミーゼは拳を天に突き上げた。
(第二王子が消えた! これって未来が変わったってことよね!?)
エルミーゼの前世は、第二王子が王になってから地獄の様相を呈した。なので、第二王子の王位継承だけはどうにかしたかったのだが――
(何もしてなくても変わっちゃった!?)
実際はそんなこともない。
全ての引き金は、大貴族である前ラキアーノ公爵の死亡なのだから。その引き金を引いたのは紛れもなくエルミーゼ自身。
第二王子の挙兵も、ラクロイド伯爵という大きなパトロンがなければ兵力不足で計画倒れだったかもしれない。伯爵家をそこに追い詰めたのは、エルミーゼがロイヤル・ワインを巡る物語でその野望を打ち砕いたからだ。
そして、クーデターを看破した第三王子の出現も、エルミーゼとの出会いによって隠遁生活をやめたからだ。
エルミーゼの行動が本人の預かりしないところでバタフライエフェクトして今のこの状況に至る。
(うはー、私って超ラッキーじゃん!)
とうの本人は全く気がついていないけれど。
そんなエルミーゼに、クレアが微妙に引いている。
「あ、あの……どうしたんですか、エルミーゼ様?」
「え、あ、あははは……」
頭をぽりぽりとかきながら、エルミーゼが応じる。
「いや、まあ……きっとこれから、いいことがあるんじゃないかなって、ね?」
全くもってそんなことはなかった。
転生後は、勤勉勤労という言葉から距離を置きたいエルミーゼにとって、地獄のような日々が始まった。
なんと、モーリス大司教を始めとした主だった教会の幹部たちがごっそりと逮捕されたのだ。
「え、なんで?」
不正のためである。
例えば、ロイヤル・ワインの原産地であるウィルトン領が瘴気に犯されていた件――あれはウィルトン領からロイヤル・ワインの免状を奪い取るため、ラクロイド伯爵と教会が共謀して行ったことだと判明した。意図的に聖女の派遣を遅らせていたらしい。
それ以外にも、同様のケースが多数見つかったのだ。
全ては、第二王子を優勢にするための策謀だ。教会の一部の人間はこの件に加担することで、新国王の時代に権力を大きく伸ばすことを企んでいたのだ。
それが逮捕されたラクロイド伯爵家の供述から芋蔓式に見つかったのだった。
結果、関わりのあった権力者は教会から一掃されることに。
「いやー、まさか、モーリス大司教がねえ……」
腹黒そうな印象ではあったし、平気で無茶振りしてくるおっさんだったので、エルミーゼ的に惜しむ気持ちもないのだけど。
だが、面倒だったのは、エルミーゼ本人まで疑われたことだ。
(ひいいいいい!? 前世でも裁判でボコボコにされたんですけど!?)
裁判には、全くいい思い出がない。結局、因果は同じ形で収束するんだろうか――なんてエルミーゼがびびっていると、救世主が現れた。
「エルミーゼ様が、そんなことをされているわけがないでしょうがああああああ!」
ウィルトン領で仲良くなった子爵令嬢のソフィアである。
ソフィアは、エルミーゼがどれほど己を危険に晒してまで、ウィルトン領を救ってくれたのかを裁判で力説した。涙を流しながらの力説と説得力のおかげで、エルミーゼは無罪を勝ち取った。
(……え、いや、私そんなに思い詰めて行動してたっけ……? ウィルトン領で頑張ったんだね、私じゃないエルミーゼさん……?)
当時のエルミーゼは欲望に塗れたままに行動していただけなのだが。しかし、ソフィアの視点から見れば違うのだった。
(なんだか知らないけれど、黙っておこう! だって、私は無実なんだし!)
それでいい。ソフィアが感謝していることもまた、事実なのだから。
無実を勝ち取ったからと言って、エルミーゼの日常は穏やかにはならなかった。むしろ、忙しさが加速する。
「うえええええん! 教会の偉い人がみんな消えたから、仕事が! 仕事が! 仕事があああああああ!」
「頑張ってください、エルミーゼ様! 偉い人が消えたせいで、エルミーゼ様はもう、わりとトップのほうなので!」
毎日、クレアに尻を叩かれながら必死に仕事に励んだ。ソフィアも学校を休んで手伝ってくれているが、全く終わらない。
そんな多忙な日々の最中、エルミーゼは急な呼び出しを受けて大聖堂へと向かう。
そこには――
「え!? アリアナにルシータ!?」
小さな女の子――小聖女アリアナと、ラキアーノ公爵領でメイドとしてお世話をしてくれたルシータが立っていた。
「お姉様! お手伝いにきました! 聖女としての仕事なら、私も頑張ります!」
「多忙なエルミーゼ様のお世話係を募集とのことで……公爵領でお相手をした私に話が来たんです。精一杯頑張りますので、なんでもお申し付けください」
「はは、はははは……」
エルミーゼは胸がいっぱいになった。
聖騎士クレアに子爵令嬢のソフィア、そして、小聖女アリアナに優秀なメイドのルシータ。こんなにも素晴らしい人たちが自分のために駆けつけてくれた。
自分は一人じゃない。
なんて満ち足りた人生なんだ。
涙がぽろりとこぼれた。
視界がぼやける。鼻に痛みが走る。だけど、その全てが嬉しかった。
辛くて悲しかった前世の日々も、今ならば受け入れることができる。
この幸せをつかむために必要なものだったから。
ああ、今こんなにも自分は幸せなんだ――
「どうしました、お姉様!?」
「みんなが来てくれたことが、嬉しいんだよ。嬉しいと涙が出るんだ」
エルミーゼが笑顔を浮かべる。
私のことを好きでいてくれる皆が、見るだけで幸せになってくれる笑顔を。
「本当にありがとう。これからも、ずっとずっとよろしくね」
エルミーゼの、黄金のように輝く幸せに満ちた人生は、これからも続く。
=====
本作はこれにて終了です。最後に、星で評価していただけると今後の励みになります。
お読みいただき、ありがとうございました!
理想の聖女は来世で悪女を志す 〜黄金の人生をご所望です!〜 三船十矢 @mtoya
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