第313話 海辺の酒工房
「おお、レスト様じゃ!」
「領主様がやってきたぞ! 皆、歓迎の準備じゃ!」
レストとセレスティーヌが海辺にある村にやってくると、村人がすぐさま騒ぎ出した。
かつて、村を襲ってきた海竜を討伐したことにより、レストはこの村では英雄のように扱われている。
顔を見せた途端にお祭り騒ぎ。村人が集まってレスト達を取り囲んだ。
「領主様! 領主様!」
「よくぞ来られました! 今夜は宴じゃ!」
「ありがたや、ありがたや……」
村人の中には、両手を合わせて拝んでくる人間までいた。
ここまでいくともう居心地が悪い。好意も過ぎればマイナスに働くようである。
「今日は何の用でお越しになられたのでしょう、レスト様?」
「酒蔵の様子を見に来た。新しい酒が完成したと聞いた」
「ああ、なるほどなるほど。すぐにご案内しますじゃ」
村の代表者が朗らかに笑いながら、レストとセレスティーヌを村の奥にある建物へと案内してくれた。
「ここが酒蔵……?」
そこはやけに和風情緒のある建物だった。
他の建物と同じように木造の建物なのだが、屋根には瓦が並べられている。
瓦とはいったものの、形が歪で見よう見まねで作ったような不格好な物だった。
「この屋根は?」
「ああ、それはサナダ夫人に言われて作った物ですじゃ。雨水が中に入ってはいけないからと言われましてな」
「ああ、なるほど」
村人の答えにレストが頷いた。
酒のことなどよくわからないが……雨水が混入して良いことなどあるまい。
屋根から雨が漏れ落ちてこないように、わざわざ瓦の屋根を作らせたのだろう。
「さあさあ、中に入ってくだされ」
「おおっ!?」
建物の中に入ると……いきなり、木造りの樽のような物が目に飛び込んでくる。
「これが……蒸留酒か?」
「いえ、それは蒸留酒の元となる酒です。私が商人に命じて仕入れさせ、運び込んだものです」
レストの疑問に答えたのは村人ではなく、後に続いて建物に入ってきたセレスティーヌである。
「サナダ夫人が残した製法によりますと……蒸留酒はワインなどの醸造酒を熱して、蒸気を冷却することによって得られるようです。どの種類の酒が優れた蒸留酒になるか試すために、様々な種類の酒を取り寄せました」
「へえ……奥が深いんだな」
レストがわかったような、わからないような曖昧な返事をした。
前世では高校生だったレストにとって、酒は無縁なものである。正直なところ、醸造酒と蒸留酒の違いもよくわかっていない。
「こちらの酒を専用の機器に入れて熱します。この村では薪を十分に確保することが難しいため、加熱のマジックアイテムを使っています」
セレスティーヌが奥の部屋へと案内してくれた。
そこには金属の装置のような物が置かれている。大きなビン型の容器の上に管が付いており、管はそのまま貯水槽の中を通って、別の容器に続いていた。
「私達が介入する以前、これらの機器はもっと小さく、安い青銅を使っていました。現在は魔法合金で大きな物を使用しています」
「この水は……海水か?」
「はい、蒸気の冷却には大量の水が必要ですから。海から水を引いて使っています。新しい製造装置も職人に作らせていますし、今後はよりクオリティの高い酒を大量に生産することができるはずです」
「そう、か……」
セレスティーヌの説明にレストは圧倒される一方だった。
(ここまでしっかり作っているなんて……いや、そりゃあ真面目にやってるんだからそうだろうけど……)
短時間でここまでしっかりと酒造りの環境と設備を整えたのだから、セレスティーヌの手腕が伺える。
サナダ・ショーコも生前、酒造りを形にするために努力していただろうに、彼女が完成できなかったものを見事に成し遂げている。
(立派だよ……本当に……)
ヴィオラやプリムラ、ユーリに対しても思っていることだが……本当にセレスティーヌが自分なんかの婚約者で良いのだろうか。
セレスティーヌであればもっと立派な男が相応しい気がするのだが……レストはわりと本気で劣等感を覚えた。
「……頑張ろう、色々と」
置いていかれないように。
失望されないように、レストはよりいっそう努力をすることを心に決めたのだった。
次の更新予定
2024年11月16日 18:00
魔力無しで平民の子と迫害された俺。実は無限の魔力持ち。 レオナールD @dontokoifuta0605
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔力無しで平民の子と迫害された俺。実は無限の魔力持ち。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます