第6話 冒険者ランク昇格試験③

ーー[モウキタ]冒険者ギルドーー


一次試験の課題を無事クリアし、その証明となるコインを試験官のダンへ渡し、一次試験を突破した冒険者のカレイドことカレ。


二次試験を受けるべくダンに言われるまま、試験の会場となると言われる[モウキタ]冒険者ギルドに隣接する闘技場に来ていた。


受付に昇格試験受験者だと話すと、闘技場中央のメインスタジアムに案内される。


メインスタジアムにはカレと同じく一次試験を突破しこれから二次試験を受ける冒険者達が数十人既に待機していた。


しかし、二次試験が闘技場でとは、一体何をさせられるやらと、カレは思いつつも闘技場を暇つぶしに見渡すと、ギャラリーに人影が有ることに気付く。


しかも席はほぼほぼ埋まっていた。


「それにしてもどうしてこんなにもギャラリーに人が…、それに何か活気があるし…」


たかが冒険者ランクの昇格試験にしては観客がいるのもまた不思議な光景である。一体何が始まるのやら…。


やがて実況席らしき席に試験官らしき人物が来ると、マイクを握りしめ喋りだす。


「それではお集まりの観客の皆々様、そして冒険者ランク昇格試験の二次試験を受ける冒険者諸君、大変長らくお待たせしました。これから二次試験『冒険者VSサンドドラゴン』を開催致しまーす!」


ウオオオオオ!!


司会進行役の試験官の実況にギャラリーの歓声が湧き上がる。


「今回の昇格試験受験者は総勢47名!彼らには協力してサンドドラゴンの討伐をしてもらいます!討伐成功した際に戦闘不能になっていない冒険者達が二次試験の合格者と言うわけです!」


なるほどと受験者の冒険者の何人かが声をあげる。


「では、その戦闘不能かどうかを判断するのは、スタジアムに入る前に受付に渡された指輪を皆さん、装備してますかー?必ず装備しててください!合格の判断基準であり、あなた達のもしもの救済装置でもありますよー」


そういえば言われるまま指にはめたけどどんな効果があるんだ?と言わんばかりに何人かは視線を指輪に向ける。


カレは『鑑定の魔法』で効果を確認しようとしたが、まぁ進行役から説明が入るだろうとすぐ指輪から視線を外した。


「大事な事なので、指輪に関して説明しましょう!受験者に配った指輪には2つの効果があります。1つ目の効果は装備者のメディカルチェック効果。常に身体に異常が無いか感知してます。そしてもう1つの効果が転移効果です。転移先はこのコロシアムの医務室へとなっております。つまり、戦闘続行不可と指輪が感知したら強制的に医務室へ飛ばす品物です。救済装置なので、決して外さないようにお願いしますね!試験内容が魔物討伐と言えどあくまでも試験ですので、死亡者を出すわけにいかないので!また、今回の試験を見送りたい、リタイアしたいって場合は指輪の装飾の赤い玉を潰せば転移効果を強制的に発動させられます」


しっかりと指輪の説明を司会が説明した後、突如コロシアム北側の分厚い鉄格子状の扉が轟音と共に開かれた。


「さて、説明は終わり!では!二次試験開始です!受験者の皆さん、頑張ってください!」


司会の開始宣言の間もなく、コロシアムにサンドドラゴンが解き放たれた。


ズルリとコロシアムに姿を現したサンドドラゴンを目の当たりにして何人かの冒険者が笑い出した。


「なんだよ、ドラゴンなんて言うから身構えてたけど、ヘビじゃねぇか!サンドドラゴンじゃなくて、サンドスネークじゃないか!」


冒険者達の前に立ちはだかるドラゴンの容姿は四肢も無ければ羽根も無い、デカ過ぎる大蛇と言えばしっかひくる出で立ちだった。


その姿を見て何人かの冒険者が余裕そうな表情に変わる。


「ドラゴンだなんてハッタリしやがって!楽勝じゃねぇか!」


笑ってた冒険者の1人がそう言って剣を構えてサンドドラゴンの胴体に向かって駆け出し、斬りつけに掛かる。


が、激しい金属音を立ててその斬撃は弾かれた。


「なんだ?めちゃくちゃ硬ぇ……」


斬り掛かった冒険者は弾かれた拍子にその場に尻もちを着く。


その様子を見ていた冒険者達から笑いが消えた。


「…え?何のバフも掛けずに斬り掛かったの?竜の鱗なんてそんな簡単に傷付く訳無いのに?」


「え?あれ、大蛇じゃねえの?」


カレはサンドドラゴンに斬り掛かった冒険者を見て思わず思ったことを口に出していた。


それを聞いてかカレの近くにいた冒険者の1人がサンドドラゴンを指差してカレに訪ねてくる。


その時、サンドドラゴンが口を開けた。


「耳塞いで!!」


「へ?」


サンドドラゴンの動きにカレは素早く反応しなるべく大声で叫ぶ。


その刹那、サンドドラゴンが吠えた。


耳を塞いでいても尚ビリビリと身体に響く爆音と威圧感で思わず身体が委縮してしまう。


「サンドドラゴンの『ドラゴンロアー』が炸裂しました!自身を鼓舞し、相手を怯ませ、相手の戦意を折り、恐怖感を煽るドラゴン特有の咆哮!ちなみにギャラリーの方には『防御の魔法』が何重にも掛けられるので客席の方にはあまり影響はありません!(たぶん)観客の皆さんは安心して観戦をお楽しみ下さい!」


司会の試験官は実況もしてくれるようだ。


「鳴き止んだかな…?」


カレが恐る恐る耳から手を離すついでに一緒に発動した『防音の魔法』も解除し、周囲の状況を確認する。


何人か踏み止まってる者もいれば、咆哮の声量に耐えきれず気絶して倒れ込んでる者、完全に戦意を剥がされ腰を抜かしてる者、泣きわめく者がチラホラ見えた。


それと同時に何人か転移されていくのも見えた。

つまりは戦闘続行不能かリタイアである。


「さて、サンドドラゴンの咆哮だけで早くも残り半数を切りましたかね?今回の昇格試験、何人合格者が出るんでしょうか?」


実況によると今ので約半数脱落したようだ。


ちなみに1番最初にサンドドラゴンに斬り掛かった冒険者も戦意喪失でリタイアしていた。


「うーん、もう少し様子を見たいけど…」


サンドドラゴンの強さをもう少し観察したいところだが、他の冒険者も同じ考えなのか、既に他力本願なのか、次にサンドドラゴンに向かおうとする人が現れない。


「なんだなんだ、みんなだらしないな。みんなして尻込みして。仕方ない、このジェド様が手本を見せてやる」


すると突然、後方にいたジェドと名乗るキザ男剣士がサンドドラゴンに向かっていく。


「おお、最近この街で噂になってる剣士じゃん」


「ギルドのクエストのCランク以下を1人でこなしたって聞いたぜ」


「そんな実力者がいたのか!」


周りの冒険者達からはどうやら噂になってるらしい。


カレもお手並み拝見とジェドに注目する。


「こんなとこで立ち止まってたら勇者様みたいな強さなんて身に着けられねぇ!くらえ!ドラゴン!『紅き斬撃(クリムゾンスラッシュ)』!!」


ジェドは剣を構えサンドドラゴンに飛び掛かり、持ち技を放つ。


紅い閃光のような斬撃がサンドドラゴンに走る……が、対してダメージにはなってないようでサンドドラゴンは平然としている。


「何?このジェド様の攻撃が効いてない!?ならば!」


もう一度斬り掛かろうと体勢を整えた矢先、サンドドラゴンが身体をくねらせ尻尾を鞭のように使いジェドに反撃してきた。


「うおぉ!?」


慌ててジェドは防御体勢へ切り替え取えようとしたが、サンドドラゴンの振りかぶった尻尾の方が一手早く、ジェドを薙ぎ飛ばす。


「ジェドでも駄目なのか?」


「誰かアイツに一撃喰らわせられねぇのか?」


「こうなりゃなんでも良い、攻撃あるのみだ」


半場ヤケクソで傍観してた冒険者達が弓や魔法等遠距離攻撃出来る者からサンドドラゴンに向け攻撃を始めた。


だがやはり攻撃力が足りないのか、サンドドラゴンは冒険者達の攻撃に目もくれず、自身が吹き飛ばしたジェドに追撃しようと近付いていた。


「あの人でも駄目か…、とりあえず私も加勢しとこ…『弾を放つ魔法(ショット)』」


ジェドでも駄目ならどうするかと思いながら、カレも一応加勢にとサンドドラゴン目掛け魔法弾を放つ。


一直線に飛んだ魔法弾は綺麗にサンドドラゴン目掛け飛んでいき、他の冒険者達が放っていた攻撃に紛れバズンと鈍い音を立てて爆ぜた。


すると、さっきまでジェドに向かっていたサンドドラゴンの動きが止まった。


「止まっ…た…?」


「攻撃が通ったか?」


「ドラゴンが止まったぞ?」


ジェド、他冒険者達、観客、各々が動きを止めたサンドドラゴンを見てどよめく。


「どうしたことだ!?ジェドに向かっていたサンドドラゴンが動きを止めたぞ?誰かの攻撃が効いたのか!?そして、受験者達が集まってる周辺をキョロキョロ見渡しているぞ!?」


すかさず司会進行がサンドドラゴンの様子を実況する。


間もない内にサンドドラゴンは、冒険者達に向かって再び動き出す。


「おい、こっちに来たぞ!」


「誰かの攻撃に反応したんだ!」


「どうすんだよ!」


「とにかく攻撃だ!」


地を這う蛇というよりは猪という勢いで迫りくるサンドドラゴンに各々攻撃をぶつけるが怯むことなく迫り来る。


近接武器を持ってる冒険者もサンドドラゴンに突っ込むが攻撃を弾かれそのまま轢き飛ばされる。


「あれ?もしかして……」


サンドドラゴンが迫りくる状況下、カレはその行き先に気付く。


狙われてるの私じゃね?前方にいた何人か蹴散らされてるし…、やたらなんかサンドドラゴンからの視線感じるし。


とにかくサンドドラゴンから距離を取ろうと背を向け後方へ走り出そうとした時、サンドドラゴンも動き出す。


「おや?サンドドラゴンが地中に潜り始めたぞ?これでは何処から出てくるか分からない!」


進行役の実況を聞くなりカレが振り返ると人を丸呑み出来るほどの巨体がスッポリ地中の中へ姿を消していた。


「何処から出てくるんだよ」


「探知系の魔法で分かんねぇか?」


「とりあえずその場にいるのはまずいか?」


蜘蛛の子散らすようにそれぞれ冒険者達が動き回る。


「狙ってるのが私なら…何処から来る?前?後ろ?」


カレはあえてその場から動かず、何処から顔を出すか杖を構えながら周りを見渡す。


地中を這い回ってるであろうサンドドラゴンの動きが地鳴りと振動で伝わってくる。


さあ、どこから来る……。


「………っ!?」


突如カレを暗闇が覆った。


その暗闇は自分を中心として、綺麗な円形に足元から頭上へ一瞬にして伸び、立っている地面ごと飲み込んだ。


「し、下から地面ごと……!?」


次第に足元は崩れ浮遊感と共に下へ落ちるような感覚に襲われる。


「『浮遊する魔法』『灯りを灯す魔法』」


咄嗟に2つの魔法を唱え発動した。


カレはその場で浮遊し、灯りで認めたくない現状を把握する。


「下から来たって時には勘付いてたけど…、やっぱり飲み込まれてたか…」


そう、カレの想定通り、彼女はサンドドラゴンに飲み込まれたのだ。


ここはサンドドラゴンの食道だろうか、胃だろうか。


とにかく早く脱出しなければ消化されてしまう。


「う…臭い…。とりあえず、一か八か試して見るか…」


改めて体内にいることを実感すると胃液なのか、食べたものなのか異臭が鼻に刺さる。


鼻を塞ぎつつ、カレは杖を構えた。


一方コロシアムの方は大騒ぎになっていた。


「な、なんてことだ!冒険者の1人がサンドドラゴンに飲み込まれてしまったぁ!!これは洒落にならない!飲み込まれた冒険者の方、消化される前にリタイアしてくれ!死人を出すわけにはいかない!」


と司会進行役が実況したあと、緊急事態だと進級試験担当のギルド関係者がバタバタと騒ぎ出した。


試験を受けてた冒険者達も飲み込まれたカレを何とか吐き出させようとサンドドラゴンへ攻撃を再開していたが、やはりまともにダメージを与えられないようでサンドドラゴンは平然としている。


それどころかサンドドラゴンが巻き起こす竜巻や砂嵐でまともに動けなくなる状況にされるうえ、砂嵐に紛れて突進や尾を振り回し、それを受けて脱落する冒険者が後を絶たない状況になっていた。


「これは助けられるのか?」


「このままじゃ逆に俺達がみんなやられちまうよ」


「飲み込まれた人、リタイアしてないかなぁ」


「てか、試験担当のギルドの奴らは何してんだよ、これやべぇって」


残った試験受験者の冒険者達がそれぞれ現状に対して小言をこぼしていると、突然サンドドラゴンが何の前触れもなく動きを止めた。


「おっと?サンドドラゴンがまたもや動きを止めたぞ?今度はどうしたんだ?」


「なんだ?突然…」


「疲れたのか?」


コロシアムにいた全員がどよめいてると、突然サンドドラゴンの身体が爆ぜた。


爆発音を立てながら爆ぜた箇所から丁度サンドドラゴンの胴体が2つに分かれ、顔の付いてる方は地面へ煙を上げながら地面に崩れ落ちた。


「な、何が起こったんだ!?突然サンドドラゴンが爆発したぞぉ!?って本当にどうなってんだ!?」


司会進行も何が起きたか分からんがとりあえず実況せねばとマイクで状況を伝える。


「流石に内部は脆かったか……出れてよかった」


サンドドラゴンの裂け目から一息付きながら飲み込まれてたカレが姿を表す。


「サンドドラゴンに飲み込まれた冒険者が出てきたぞ!」


「無事だったか!」


「おおお!」


カレの姿を見てあちこちから歓声が湧き上がった。


「よかった、本当によがっだ…。どうなることかと…。え、ええ、ゴホン。サンドドラゴン討伐達成により、冒険者進級試験を現時刻をもって終了!コロシアムに残った冒険者諸君は二次試験合格とする!おめでとう!!」


何事も無かったことに安堵して司会進行は泣きじゃくりながら試験終了を宣言した。


こうして冒険者ランク進級試験は幕を閉じた。

カレの冒険者ランクがBに昇格した。


試験終了後、冒険者ギルドのエントランスにてカレは一緒に試験を受けてた冒険者何人かに囲まれていた。


一体どうやってサンドドラゴンを爆発させたのか。

どんな魔法を使ったのか。

体内はどうなってただとか。


とにかく転校初日の転校生が質問攻めに合ってるみたいな状態になった。


「やっと抜け出せた…。つ、つかれた…」


ある程度質問に答えた後、ようやく開放されたカレはギルドを後にし、北へ向かうのは明日の朝にしようと今日泊まる宿を探しに向かうのであった。

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