第5話 冒険者ランク昇格試験②

ーーー[モウキタ]冒険者ギルド前広場ーーー


さて、早速一次試験が始まった訳だが今日には北へ抜けたいし、午後までもう時間がない。


いち早く街のどこかにいる試験官を見つけ出し、課題をこなさなければならない。


朝に喫茶店で優雅にフルーツタルトを食べてる場合ではなかったか…。


「とりあえず、『探知の魔法』っと…」


異次元収納の魔法の中に収納してた杖を取り出し『探知の魔法』を起動する。


『探知の魔法』、名の通り人や物を探知する魔法である。細かく探知する物の条件を絞ることで限定的な物まで探知可能になる。捜し物をするのに重宝する魔法ではあるが、条件を細かく指定する際にはかなりの集中力が必要となる。


「えーっと…、ダンって言ったけ?あの説明してくれた試験官。…彼と同じ服装の人を条件にして……服装より髭の方が印象強いなあのおっさん…」


この『探知の魔法』、探知に関して条件を絞る主な方法は発動する術者が探知する対象の『イメージ』や『記憶』が主に反映される。


なので細かく条件を指定する場合は写真であったり対象によく似てる物など、五感によってイメージや記憶に反映しやすいものがあればより絞りやすくなる訳だ。


つまり、試験官を探すのであればギルドで試験の説明をしてくれたダンを元に、ダンが言っていた『みな同じ服装』を条件として組み込めば良いのだが探知すれば良いのだが…。


ダンの生やしていた特徴的な髭が印象的だった為か、探知する条件として『髭』を混在させてしまいそうで、集中力が揺らぐ。「『髭』はダンみたいな人を探す時に重宝しそう…」と呟いたあと、深呼吸し雑念を払い再度集中。試験官の服装だけを意識して魔力を杖に込め…『探知の魔法』を発動する。


杖から薄くてベールの淡い光が杖を中心に街全体へ広がっていく。

その光が消えると次は杖が青白く光り出す。


「えーっと…このままじゃ面倒だから、地図と…、そして『反映の魔法』っと…『探知の魔法』の探知効果を地図に反映させて…」


カレは『探知の魔法』の発動を確認するやいなや、この街の地図を広げ、もう1つ魔法を発動した。


『反映の魔法』文字通り人や物の何らかの状態を他の物にも反映させる魔法である。


つまり、杖が現状『探知の魔法』で試験官を探知してる効果を地図にも反映させたのだ。


すると地図上のあちこちに青白く光る星印が浮かび上がった。


そう、街中を徘徊している試験官が現状いる位置を示している。


「……ここから西側の印、1番近い」


自分の位置から1番近くにいる試験官の印を見つけて、カレは西側へ走り出す。


「…『跳躍の魔法』」


地面を勢い良く蹴って跳ぶ。


魔法の効果も相まってカレは空高く跳躍し、建物の屋根の上に着地した。


1番近くの試験官へ向かうにしても入り組んだ街中の道通り歩いては時間が掛かる。


ならば飛び越えてショートカットすれば良い。


屋根から屋根へと忍者のように跳び移り地図を確認しつつ1番近くの試験官との距離を詰める。


その時に有ることに気付く。


もうすぐ接触出来る1番近くにいた試験官が少しずつだがカレから離れるように移動している。


「私から…逃げてる?それとも偶然?…というかよく見るとどの試験官もその場に留まってる訳じゃないのか。みんな移動している。『見つけて課題をもらう』って言うからかくれんぼのつもりだったのに、これじゃ鬼ごっこ…」


地図を改めて確認すると、自分が追い掛けていた試験官以外も、全員探し始める時より違う位置に移動していた。


この街の昇格試験、一次試験から中々ハードなのでは?ふとカレはそう思った。


『探知の魔法』やそれに近しいアイテムを持って無ければこのだだっ広い街の中を走り回って試験官を探さなければいけなくなる。


しかも試験官達は常に街の中を徘徊しているのだ。

それを踏まえて午前中の内に見つけなくてはいけない。


しかも、もし見つけてもさらに試験官から出させる課題もこなさなければならない。


それなりに実力や経験がついた中級者から上級者じゃなきゃ無理では?出来たとしても一次試験だけで何日費やすのやら…。


そんなこと思っているうちについに視界に入る位置まで試験官との距離を詰めていた。


「ようやく見えた。しかし建物が入り組んでまるで迷路だね。上から追い掛けて正解」


そうポツリ呟いて最後の跳躍、追い掛けていた試験官より少し通り越し着地した。


「試験官さん、鬼ごっこは終わりにしよう。そして、課題ちょうだい」


「あー、追い付かれたかー。やるね!」


カレが見つけた試験官は笑いながらも悔しいなぁみたいな表情を見せた。


「ところで、1つ聞いてもいいですか?…私から逃げるように移動してるように思えたんだけど…、どうして追い掛けられてるって分かったのかなって」


「逃げるように移動していたのも分かってたか〜。えと、追い掛けられてるって分かったのはこれを付けてるから」


そう言って試験官の女性は指にはめていた指輪を外してカレに見せてくれた。


「身に付けてる人を対象に何らかの魔法が発動されるとそれを感知して光ったり色が変わったりして教えてくれるんだ。私に…というか試験官を対象に魔法使ったでしょ?」


「なるほど、『探知の魔法』を逆にこれが感知したと…。でもそれだけでは術を発動した相手がどこにいるとまでは分からないのでは…」


指輪をじ〜っと見つめながら気になった点をカレが問うと試験官は


「お、するどいね。その指輪には魔力の流れが可視化される効果もあるのさ。だからどっちの方向から魔法が発動したのかもある程度分かるんだよね。まぁ、可視化されるのは感知した魔法だけだけど」


と感心するかのように問いに答えた。


「ところで、一次試験はまだ終わりじゃないよ?本題は私からの課題をクリアしないとね」


魔法を感知する指輪を指にはめ直しながら試験官は続ける。


「私からの課題はクイズだよ。答えとなる魔法を答えられたら合格。試験突破の証のコインをあげるよ」


試験官は懐からコインを取り出しカレに見せつけるように突き出した。


「では問題です。2年前、魔王城を目指す勇者パーティ御一行がこの街に来た時、勇者パーティの魔法使い、ハクア様が私の上司、ダンにある魔法を掛けました。それは何でしょう?チャンスは3回!」


何かのクイズショーのようにノリノリで出題する試験官に対してカレの回答は


「『ヒゲを生やす魔法』」


と条件反射のよう即答した。


「即答!?でも、正解…」


「え?……適当に答えたんだけど…」


3回もチャンスあるし、1回目は適当に答えてみようと軽い気持ちで答えたカレだったのだが、どうやら当たりを引いてしまったようだ。


「え、あの髭、ハクア様が生やしたの?」


「そうみたいよ。多分ハクア様は悪ふざけでしたことだと思うんだけど…。ダンは本気にしたんじゃないかなー。ともかくおめでとう。これ、約束のコイン」


試験官から試験合格の証のコインをカレは受け取った。


「なんか、スッキリしないんだけど…。とりあえずダンに報告に行くか」


「とにかくおめでとう!二次試験も頑張ってね〜」


試験官に別れを告げてカレはギルドへ戻るのであった。

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