1日目 予習復讐(2)

 つい先刻したように、イタチがナイフでクソを割る。

 やり取りも何もかも同じだ。すこし気味が悪い。


「狼に間違いないな。みろ、クソに人の毛が混じっている」


「まさか、魔狼ワーグですか?」


「……何?」

「カロン、何だそりゃ?」


 う、俺が口をはさんだら、カールにも怪しまれてる。

 こうなったらもう出まかせだ!


「数年前に死んだじいさんから、

 ここらへんの森にやたら頭のいい狼がいるって聞いたんです

 なんでも口に剣をくわえて、それを振り回してるとか……。

 俺は聞いた時、じいさんがボケてるとおもったんですけど、

 なんか今になってそれを思い出したんです」


「クソッ、村長のやつ、俺たちをだましたな!!

 なにが念のためだ。なにがただの狼だ!」


 シュルツ隊長は村長を口汚くののしり、呪いの言葉すら口にする。

 温厚そうに見えた彼の豹変ぶりに、俺は腹に雪を詰められた心地がした。


 彼がここまで顔色を変えるということは、

 相当分の悪い相手なのだろうか?


「その……魔狼ってそんなに強いんですか?」


「魔狼の強さはモノによるが、道具を使うとなると話が変わる。

 それもお前さんの爺さんの代から魔狼の話が残ってるってことは、

 そいつは当時からここらを仕切ってるってことだ」


 あっ、たしかに。

 でも俺の言った話は適当なんですけどね……。


「シュルツの言うとおり、かなりの大物だな。

 金貨8枚じゃワリに合わんぜ」


「……よし、引き返すぞ。

 タダの狼じゃないんなら話は別だ」


「シュルツ、もう遅いみたいだぜ」


 森の奥、木々の間で何か大きいものが動いているのに俺も気づいた。

 背中をまるめ、重い足音を立てている黒い影……。

 周囲の木々と比べてもその影は異様に大きい。魔狼だ。


「あれです、あれが魔狼です!」


「クソッ! 槍を並べろ!!」

「野郎ども、魔狼を近づけるな!!」


 シュルツ隊長が怒号をあげて檄を飛ばす。

 すると傭兵二人が盾を上げ、槍の穂先を盾の陰から突き出した。


 俺とカールもそれに習い、盾と槍を持ち上げて構える。

 木々の向こうの黒い影は、背中を丸めたままゆっくり動き続けていた。


(――ッ!)


 巨大な影が目に入った瞬間、背筋がゾクッとした。

 あいつには見覚えがある。

 俺と傭兵たちを殺した魔狼に間違いない。


 頭を低くしているせいで、魔狼の口元は見えない。

 まさか、奇襲のために剣を隠しているのか?


 魔狼が剣を持っていることをシュルツ隊長に伝えておこう。

 隊長に油断されて首を飛ばされると厄介だ。


「隊長、あの背中を丸めている巨大なやつ。

 あいつ、口に何か長いものをくわえてました。

 たぶん大剣だとおもいます」


「カロン、お前本当に目がいいなぁ。

 俺には何も見えなかったぞ」


「目の良さにはちょっと自信があるんです」


 まぁ、見てないんですけどね。

 でもウソも方便だ。


「野郎ども、あのデカイのから目を離すな。

 だがやつらは一体じゃない。後ろにも目をつけておけよ」


「どっちだよ隊長」

「死にたくなかったらやるんだ」

「やれやれだな」


 傭兵と俺は槍を構えて狼を待ち受ける。


 だが、魔狼とその取り巻きの狼は、こちらを遠巻きに見ているだけだ。

 警戒されたから奇襲を諦めたんだろうか?


「動かんな。アーロイ、かけろ」


「へい!」


 アーロイと呼ばれた傭兵が弓をひき、狼たちに食らわせる。

 するとキャインという短い悲鳴が聞こえた。


(当たったのか。すごいな)


 魔狼はまっさきに弓兵を狙った。

 その理由が今ならわかる。


 魔狼が大剣を持っていても、目の前に槍を並べられると分が悪い。

 突進のとき、手傷を負うのを承知で突っ込まないといけないからだ。


 前回の戦いを思い返そう。

 取り巻きの狼たちは普通に傭兵に倒されていた。

 不意をつかないと突破できないんだ。


 今みたいにお見合い状態になると、魔狼としては最悪だ。

 魔狼が攻めあぐねている間、弓は槍の後ろから攻撃し続けるからだ。


 だから弓兵を潰すのがあいつの勝ち筋だったのか。


 今回は以前よりだいぶ状況が良い。

 戦いの用意はできてるし、こっちはまだ誰も死んでない。


 傭兵たちが魔狼に対して心構えができている。

 これが何よりも大きい要因だ。


 ……よし、今度は勝つぞ!





※作者コメント※

最初の不意打ちは防いだが……

さてここからどうなるか。

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死に戻り傭兵、敵しか魔法が使えない世界で、世界が崩壊するまでの100日間を生き残る。 ねくろん@カクヨム @nechron_kkym

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